表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/37

第三十四話

 風が生ぬるい。

 茂みのなかにいると、じょじょに現実感をうしなっていくかのようだ。

 私は、武にもたれかかったまま、その息づかいだけ感じてじっとしていた。

「やよちゃんさ、いままでの人生で、後悔してることとかある?」

 しばらくの沈黙ののち、武はいきなりそんなことを言い出した。

「後悔、か」

 私は考えてみるけれど、後悔とも呼べない後悔しか浮かんでこない。

 それは、あの男のもとに生まれてきてしまったこと――。

「……うーん。後悔っていうか、後悔じゃないと思うんだけど、やっぱり親を選べなかったことかな」

「そっか」

 武は、どことなく切なそうに言った。

 またしても、沈黙。私はあえて、武の話の続きを促さない。

 武はやがて、搾り出すようにして言う。

「俺は、たくさんある」

「……うん」

「後悔、たくさんあるんだ」

「うん」

「どうしてあの兄貴をもっと早くどうにかしなかったのか、とか。ここまで拗れるまで、放っておくことなかったじゃんか、って。俺があいつを助け出せればよかった、でもそんな発想できなかった。いっそあいつが駄目になるなら、もっと早く殺してやればよかった」

「武」

 武は――震えている、と思った。

 私は、迷ったすえ――武の背中に、手を伸ばす。

 そしてさするようにして、動かす。

「だいじょうぶだよ」

「後悔、ほかにもあるんだ」

「なに?」

「どうしてこんなかたちでしかやよちゃんを助けられなかったんだろうか」

 私は、それを聞いて。

 なんだか、こころのどこかが凍りつくような気持ちだったけれども……。

 だいじょうぶ、だいじょうぶ、と繰り返した。

 たぶん、じぶんに対しても、私はそう言っている――。

 武は、やがて。

 私のほうにも手を回し、有無を言わせない力でぎゅっと抱き締めた。私は、手を動かすのをやめて、武に身を預ける。

「やよちゃん」

「うん」

「大好きだ」

「うん、私も」

 ほんとうに、どうして。

 私たちは、こんなかたちでしか愛を誓えなかったのか――。

 いまも私の頭に絡みついている真っ赤なりぼんは、たしかに私たちの誓いを見届けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ