第三十話
旅行の日は、海の日、つまり学校がちょうど休みに入るときだった。
私たちは、部活にも出ないで計画を練った。当日は、あの男とお母さんにばれないように、いちばん夜遅くのバスで向かうこと。灯油を撒いて、マッチを落とすこと。
この計画だとお母さんも無事じゃ済まないけどいいのか、と武は訊いてきた。私は、頷く。どうせ生き残ったとしたって、お母さんは放火魔の親になってしまうんだ。それくらいなら、いっそ殺してあげるほうが優しさってものじゃないか――。
私は、母のことも、あの父のがわの人間だと、考えていることがじぶんでもわかった。
部活に出ないから、当然、部員のひとたちは心配してくれる。佐藤くんや志乃ちゃん、景子やむっちゃんといった顔ぶれが、次々と私たちの前にあらわれた。でもそのたび私たちは、笑顔の裏に薄い膜を張って彼らを追い払った。
私たちは、ほんとうに、放火魔、になるのだ。放火魔となんか、つきあいがないほうがいいに決まってる。
志乃ちゃんだってきっと、事件のあとには、私のことを思い出したくなくなるだろう――。
……いや、どうだろうか。それとも、よくあの男を殺したね、と泣いて喜んでくれるだろうか。
でも、志乃ちゃんは優しいから――天使のような、優しすぎるほど優しいひとだから。
きっと、泣いて喜ぶってことはないんだろうなあ、とやはり思った。
そういう、揺れる気持ちのなかで、私は志乃ちゃんに宛てて短い手紙を書いた。書かずには、いられなかったのだ。
「志乃ちゃんへ
旅行に行ってきます。楽しい旅行になると思う。心配しないで。志乃ちゃんは幸せになれるから。ごめんね」
私は――?
そのことは、考えないようにした。
そして、身の入らないテストが終わり。
演劇部のひとたちから、相変わらず心配ばかりされながら。
その日は、あっというまにやってきて――。
私は、出発前の夕方、母屋のポストにその手紙を投函した。
額の汗を、拭う。やはり暑い、真夏の夕方はオレンジ色でどこか切なかった。




