第8話 追われています(前編)
廃棄区画を出た三人は、薄暗い通路を歩いていた。
Yajiiが先頭を歩き、その後ろをKitterrが続く。
Anneは二人から少し離れて歩いていた。
Yajii「なあKitterr」
Kitterr「なんだ」
Yajii「今日、結構拾ったよな」
Kitterr「ああ」
Yajii「全部売ったら、どれくらいになるかな」
Kitterr「まだ計算してない」
Yajii「三千くらい?」
Kitterr「もっといくかもしれない」
Yajii「五千?」
Kitterr「だから計算してないって」
Yajiiは楽しそうに笑った。
Yajii「今日はいい日だな」
Kitterr「まだ売れてないだろ」
Yajii「売れるって」
Kitterr「その根拠のない自信はどこから来るんだ」
Yajii「勘」
Kitterr「一番信用できないやつだ」
二人はいつものように歩いていた。
周囲を警戒する様子はない。
後ろも見ない。
上も見ない。
ましてや監視カメラなど気にもしていない。
その時、Anneが足を止めた。
二人から数メートル離れたところで、静かに振り返る。
通路の壁。
天井。
建物の角。
そこに設置された監視カメラがある。
一つ。
二つ。
三つ。
すべてが動いていた。
レンズがAnneを追っている。
Anne「監視を確認」
Anneが小さく呟いた。
Yajii「どうした?」
Yajiiが振り返る。
Anne「何でもありません」
Yajii「そう?」
Anne「はい」
Anneは再び歩き出した。
その横をYajiiが通り過ぎる。
Yajii「なあ」
Anne「はい」
Yajii「今日の夕飯どうする?」
Anne「食事が必要ですか?」
Yajii「俺たちは必要」
Anne「私は必要ありません」
Yajii「じゃあ俺たちだけ食うか」
Anne「はい」
Kitterrが口を挟む。
Kitterr「お前、Anneの分も考えろよ」
Yajii「食わないんだろ?」
Kitterr「そうだけどよ」
Yajii「じゃあ問題ない」
Kitterr「そういうところが雑なんだよ」
二人は完全に普段通りだった。
背後で監視カメラが三人を追っている。
その映像がどこかへ送信されている。
Anneはそれを把握していた。
誰かが自分たちを見ている。
だがYajiiとKitterrは、そんなことなど知る由もない。
Anne「監視されています」
Anneが突然言った。
Yajii「……」
Kitterr「……」
YajiiとKitterrが同時に振り返った。
Yajii「何が?」
Anne「私たちです」
Yajii「俺たち?」
Anne「はい」
Kitterrが周囲を見回す。
Kitterr「どこからだ?」
Anne「この通路に設置された監視カメラです」
Yajii「カメラ?」
Yajiiが上を見る。
そして……。
Yajii「……ああ」
天井のカメラを見つけた。
Yajii「これ?」
Anne「はい」
Yajii「監視カメラなんて、どこにでもあるだろ」
Anne「このカメラは、私たちを追っています」
Yajii「追う?」
Anne「はい」
Kitterrがカメラを見る。
Kitterr「……確かに動いてるな」
Yajii「すげえな」
Kitterr「感心するところじゃない」
Yajii「でも、監視カメラだろ?」
Kitterr「そうだ」
Yajii「じゃあ、監視されることもあるだろ」
Kitterr「問題は誰が監視しているかだ」
Yajii「企業じゃないの?」
Anne「分かりません」
Yajii「じゃあ、まだ大丈夫だな」
Kitterr「何でだよ」
KitterrがYajiiを見る。
Yajii「だって、誰か分からないんだろ?」
Kitterr「分からないから危ないんだよ」
Yajii「そうか?」
Kitterr「そうだよ」
Yajiiは少し考えた。
Yajii「じゃあ、気にしない」
Kitterr「お前は本当に危機感がないな」
Yajii「Kitterrは考えすぎ」
Kitterr「お前は考えなさすぎだ」
Anneが二人を見る。
そしてYajiiのほうへ視線を向けた。
Anne「先ほど」
Yajii「ん?」
Anne「私の能力を見て、『すげえな』と言いました」
Yajii「ああ」
Anne「褒めているのですか?」
Yajii「そりゃそうだろ」
Yajii「凄いレーダー積んでるなーって」
Anne「ありがとうございます」
Yajii「……」
Anneの表情は変わらない。
Yajii「無表情なもんだな」
Anne「無表情ですか?」
Yajii「ああ」
Yajii「もうちょっと嬉しそうにしたらどうだ?」
Anne「嬉しそうに……」
Anneは少し考えた。
そして……ふっと表情が変わった。
口元が柔らかく緩む。
目元にも自然な笑みが浮かぶ。
それは、作ったような笑顔ではなかった。
あまりにも自然で。
あまりにも綺麗だった。
まるで普通の人間が、褒められて嬉しそうに笑っているようだった。




