第4話 拾ったものは持ち帰る(前編)
二人は、動き出したアンドロイドを見ていた。
さっきまで瓦礫の中に横たわっていた女型アンドロイドは、今では自分の足で立っている。
彼女は二人を交互に見ていた。
Yajiiの顔。
Kitterrの顔。
そして、周囲の瓦礫。
何かを確認するように、視線だけをゆっくり動かしている。
Yajii「なんてよぶかなあ?」
Kitterr「アンドロイドだろ?」
Yajii「しかし、アンドロイドじゃ呼び辛い」
Yajiiが腕を組んだ。
Kitterrも改めて彼女を見る。
アンドロイドは二人の会話を黙って聞いていた。
「アンドロイド」という言葉には反応したものの、それ以上の反応はない。
Yajii「じゃあ、女は?」
Kitterr「女?」
Yajii「だって、女型だろ」
Yajiiがアンドロイドを見る。
アンドロイドはYajiiと目が合う。
数秒だった。
そしてアンドロイドは首を少し傾けた。
Kitterr「いや、女型だけどよ、女じゃねえよな」
Yajii「そうなんだよな」
Yajiiは首を捻った。
アンドロイドは二人を見ながら、二人が何について話しているのかを理解しようとしていた。
自分について話している。
それだけは分かる。
しかし、「女」という言葉が、自分に対してどういう意味を持つのかまでは判断できなかった。
Yajii「そんじゃ、アンドロイドから名前をもらって」
Kitterrが頷く。
Kitterr「おう、良いね、さすがだ! 持つべきものは相棒ってな」
アンドロイドは「名前」という言葉に反応した。
視線が二人の間を行き来する。
名前。
その言葉には、何か覚えがある。
だが、記憶を探っても、その先が出てこない。
Yajii「ドロ、はどうだい?」
Kitterr「……はあ?」
アンドロイドがYajiiを見る。
続いて、Kitterrを見る。
「ドロ」
その言葉を一度、頭の中で処理する。
名前として提案されたものらしい。
アンドロイド「……」
特に否定する理由は見つからなかった。
しかし、Kitterrの表情を見る限り、どうやら問題があるらしい。
Kitterr「お前はセンスのかけらってものをな」
Yajii「おう」
Kitterr「生まれた時にどっかに落としてきたんじゃないかとな」
Yajii「おいおい、それは言い過ぎ」
アンドロイドは二人を交互に見る。
会話の意味は理解できる。
だが、なぜKitterrが怒っているのか。
なぜYajiiが反論しているのか。
その判断には少し時間がかかった。
Kitterr「ドロってなんだよ、ドロって」
Yajii「アンドロイドから取ったんだからよお、分かりやすいだろ」
Kitterr「分かりやすけりゃいいってもんじゃねえ」
アンドロイドは「ドロ」という音をもう一度確認する。
短い。
発音しやすい。
記憶もしやすい。
名前としての機能は満たしている。
Anneの中では、特に問題はなかった。
Yajii「じゃあ何がいいんだよ」
Kitterr「それを考えるのが、今のお前の仕事だろうよ」
Yajii「まってくれよ……なんでそれが、俺の仕事なんだ」
アンドロイドは少しだけ眉を動かした。
名前を決めることが、なぜ仕事になるのか。
そこも理解できない。
ただ、二人の会話が少しずつ険悪になっていることは分かった。
Kitterr「おい、お前が言い出したんだろがよ」
Yajii「じゃあ、Kitterrが考えろよ」
Kitterr「嫌だよ」
Yajii「じゃあやっぱり、俺が考えるか?」
Kitterr「でもなあ、お前のセンスに付き合ってたら一日が終わるからなあ」
Yajii「てめえ、なんだと!」
Kitterr「なんだよ!」
Yajiiが拳を見せる。
Kitterrも負けずに拳をみせた。
アンドロイドは二人を見た。
二人とも立ち上がった。
声も大きくなっている。
アンドロイドは二人の間に視線を移す。
戦闘行動ではない。
しかし、緊張状態ではある。
そう判断した。
二人の間に妙な緊張が走った。
Yajii「お前、俺のセンスを馬鹿にしたな」
Kitterr「事実を言っただけだ」
Yajii「そりゃちょっとな、お前さんでも言い過ぎってもんだろ?」
Kitterr「だってよ、”ドロ”だぞ?」
Yajii「ああ、いい名前じゃねえか」
Kitterr「おいおい、どこがだ」
Yajii「短い」
Kitterr「なっ、短けりゃいいのか」
Yajii「覚えやすいだろうよ」
Kitterr「それだけだろ」
Yajii「んでもって、呼びやすいだろ」
Kitterr「だったら犬でもドロって名前つけとけ」
Yajii「言ったなー。お前な、昔からよお……」
Kitterr「おい、なんだよお……」
Anneは二人を見ていた。
二人とも、さらに距離が近づいている。
アンドロイドはいつでも二人の間に入れるよう、ほんの少しだけ重心を移した。
だが、その必要があるのかどうか判断できない。
二人は睨み合っている。
本気で喧嘩になりそうになった、その時だった。
アンドロイド「……」
アンドロイドの口が、ほんの少し動いた。
アンドロイド[Anne]
Yajii「……」
Kitterr「……」
二人の動きが止まった。
Yajii「なに変な声出して」
Kitterr「俺じゃねえ」
Yajii「俺でもねえぞ」
二人は同時にアンドロイドを見る。
アンドロイドは静かに二人を見ていた。
自分でも、今なぜ声を出したのか分からない。
アンドロイドは自分の喉元に手を当てる。
声が出た。
その事実を確認するように、指先を動かした。
Yajii「今、何か言った?」
Kitterr「声、出したか?」
アンドロイドは二人を見つめる。
少しだけ間を置いて、答える。
アンドロイド[私のコードネームは“Anne”]




