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DUST & CREDIT  作者: てきてき@tekiteki


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第3話 ゴミはCREDITになる(後編)

 人間の女性にしか見えなかった。


長い髪。

整った顔。

白い肌。


目を閉じたまま、瓦礫の上に横たわっている。


しかし、あまりにも綺麗すぎた。


傷一つない。

埃を被っているはずなのに、肌にはほとんど汚れが付着していない。


Kitterrがスキャナを向ける。

スキャンを開始する。


画面に複数の情報が表示される。

Kitterrの顔から、いつもの余裕が消えた。


Kitterr「……Yajii」


Yajii「どうした?」


Kitterr「これ」


Yajii「人間?」


Kitterr「違う」


Yajii「じゃあ何?」


Kitterrは表示されたデータを見つめる。

何度確認しても、結果は変わらない。


Kitterr「アンドロイドだ」


Yajiiは女を見た。

次にスキャナを見る。

そして、もう一度女を見る。


Yajii「……アンドロイド?」


Kitterr「たぶんな」


Yajii「すげえな」


Kitterr「何が?」


Yajii「人間みたいだ」


Kitterr「そこじゃない」


Yajii「じゃあ何だよ」


Kitterr「型式が分からない」


Yajii「古いから?」


Kitterr「違う」


Kitterrは首を振った。


Kitterr「分からないんだ」


その言葉に、Yajiiも少しだけ表情を変えた。

見たことのないアンドロイド。


型式も。

製造元も。

用途も。

何も分からない。


それでも、Yajiiの視線は女のそばに落ちた。

そこに、奇妙な物体が転がっている。


小さな六角形の物体だった。

金属とも石ともつかない表面。

その内部で、淡い光が脈打つように明滅している。


Yajii「これも売れそうだな!」


Kitterr「触るな!」


Kitterrが叫んだ。


Yajii「なんで?」


Kitterr「分からないからだ!」


Yajii「じゃあ調べよう」


Kitterr「待て」


Yajiiは六角形の物体を持ち上げた。

指先に触れた瞬間、淡い光が少しだけ強くなった。


Yajii「お」


Kitterr「……何した?」


Yajii「何も」


Yajiiは六角形の物体を眺める。


そして、女の胸元を見る。

そこには、同じ形の凹みがあった。


Yajii「Kitterr」


Kitterr「やめろ」


Yajii「これ」


Kitterr「やめろ」


Yajii「入るんじゃない?」


Kitterr「Yajii」


Yajii「入れたら動くかも」


Kitterr「絶対にやめろ」


Yajii「でも」


Kitterr「絶対だ」


Yajiiは少し考えた。

Kitterrは嫌な予感しかしなかった。


そして、Yajiiは入れた。


Kitterr「お前ぇぇぇぇ!」


六角形の物体が、胸部の凹みに吸い込まれた。

次の瞬間。


カチッ。


小さな音がした。


女の身体の奥で、何かが起動する。

淡い光が胸部から広がり、細い線となって全身へ走っていく。


指先。

腕。

首。

そして顔。


暗い廃棄区画の中で、その身体だけが青白く浮かび上がった。

YajiiとKitterrが同時に後ずさる。


女の指が動いた。

ほんのわずかに。


次に、手首。

そして肩。

やがて、その瞼がゆっくりと開く。


青白い瞳が、二人を捉えた。


「……起動を確認」


Yajiiが固まった。

Kitterrも固まった。


数秒。

誰も動かなかった。


アンドロイドは周囲を確認するように視線を動かす。


瓦礫。

壊れた機械。

暗い壁。

そして、自分を見つめる二人。


アンドロイドはゆっくりと身体を起こした。


Yajii「おい、頭、気をつけ……」


 ゴンッ。


頭を瓦礫にぶつけた。

鈍い音が、静かな廃棄区画に響いた。


Kitterr「……」


Yajii「……」


アンドロイド「……」


アンドロイドは額を押さえた。


Yajii「痛いの?」


Kitterr「知らん」


Yajii「アンドロイドって痛いの?」


Kitterr「知らん」


Yajii「アンドロイドなのに?」


Kitterr「おれはアンドロイドじゃないし、知らんものは知らん」


アンドロイドは額を押さえたまま、二人を見る。

そして、何事もなかったように立ち上がろうとした。

しかし足元の瓦礫に靴先が引っかかった。


 ぐらり。


Yajii「おい」


Kitterr「危ないぞ」


アンドロイドは一度身体を傾けたあと、なんとか姿勢を戻した。


アンドロイド「……問題ありません」


Kitterr「本当に?」


アンドロイド「はい」


Yajii「今、転びそうだったけど」


アンドロイド「転倒していません」


Kitterr「そういう問題じゃねえだろ」


アンドロイドは少し首を傾げた。

どうやら、本当に理解していないらしい。


そして二人を見た。


アンドロイド「あなた方は……誰ですか?」


Yajiiは少し考えた。

そして少し恰好をつけて、顎の下に手を添えた。


Yajii「俺はYajii」


そして、びしっとKitterrを指差す。


Yajii「こっちはKitterr。俺の相棒だ」


Kitterrは小さく息を吐いた。


Kitterr「そんな大げさな……普通に名乗れたんじゃないのか」


Yajii「まっ、そうだな」


Yajiiは女を見る。


Yajii「じゃあ、あんたは?」


アンドロイド「……」


しばらく沈黙する。


アンドロイドは自分自身を確認するように、胸元へ視線を落とした。

しかし、答えは出てこない。


アンドロイド「……」


Kitterr「分からないのか?」


アンドロイド「確認できません」


Yajii「名前も?」


アンドロイド「はい」


KitterrはYajiiを見る。

YajiiもKitterrを見る。


そして二人とも、女型アンドロイドへ視線を戻した。


アンドロイドは二人のやり取りを静かに見ていた。

そして、ほんの少しだけ首を傾げる。


Yajii「よし」


Kitterr「おい、良いのかよ」


Yajiiは立ち上がる。


Yajii「とりあえず、帰るぞ」


Anne「どこへ?」


Yajii「俺たちのところ」


Kitterr「おい」


Yajii「なんだよ」


Kitterr「連れて帰るのか?」


Yajii「置いてくのか?」


Kitterrはアンドロイドを見る。


暗い廃棄区画。

一人で残される、正体不明のアンドロイド。


Kitterr「……」


アンドロイドも二人を見ている。

Kitterrはため息をついた。


Kitterr「……まあ、いいか」


Yajii「だろ?」


Kitterr「ただし、変なことするなよ」


Yajii「しないって」


Kitterr「お前の場合、その言葉が一番信用できない」


Yajii「大丈夫だって」


三人は、ゆっくりと廃棄区画を歩き始めた。


先頭をYajii。

その少し後ろをKitterr。

アンドロイドは二人の後ろを歩く。


しかし、数歩進んだところで、アンドロイドが足を止めた。


Yajii「どうした?」


アンドロイド「……」


アンドロイドは目の前の壁を見る。

そして、その壁との距離を測る。


問題ない。

そう判断した。


アンドロイド「通れます」


Yajii「おう」


Anneは歩く。

そして。


 ゴンッ。


Yajii「……」


Kitterr「……」


アンドロイド「……」


アンドロイドは壁を見つめる。


Kitterr「お前、今ぶつかったよな?」


アンドロイド「はい」


Yajii「痛い?」


アンドロイド「……問題ありません」


Kitterr「問題あるだろ」


アンドロイド「学習しました」


Yajii「何を?」


アンドロイド「この壁は危険です」


Kitterr「今さらかよ」


Yajiiは笑った。

Kitterrも呆れたように笑う。


アンドロイドは二人を見ながら、また首を傾げた。

自分がなぜ笑われているのか。

それは、まだ分からない。


ただ、二人と一緒に歩いていることだけは、

なぜか嫌ではなかった。


三人の姿が、暗い廃棄区画の奥へ消えていく。


その背後には、誰にも知られないまま大量の廃棄物が積み重なっていた。


価値がないと判断され。

捨てられ。

忘れられたものたち。


その中に、この星系の誰にも理解できない技術で作られた存在が、一体眠っていた。


そして今、その存在は、二人のゴミ拾い業者によって拾い上げられた。


二人はまだ知らない。

自分たちが拾ったものが。


八百CREDITどころではない価値を持っていることを。


その価値が、この都市どころか、

この星系そのものをひっくり返すほどのものだということを。

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