第2話 ゴミはCREDITになる(中編)
二人にとって、それはちょっとした小遣い稼ぎだった。
まだ、この街の巨大なゴミ市場がどれほどの規模なのか。
そしてゴミという言葉の裏側に、どれほど大きな利権が隠されているのか。
二人は何も知らなかった。
ただ、その日の二人には八百CREDITがあった。
それだけで十分だった。
Kitterr「売る」
それだけだった。
だが、二人はまだ知らなかった。
この街には、誰も価値を見つけようとしないゴミが、山ほど存在していることを。
そして、その中には本当に価値のない物だけではなく、
価値を知られていない物も存在することを。
──数日後。
二人は、さらに奥の廃棄区画へ入っていた。
そこは普段使っている回収区域とは、明らかに様子が違っていた。
照明はところどころ切れている。
壁には古い警告表示が浮かび、何年も更新されていないらしく、文字の一部が欠けている。
床には細かな金属片やガラス片が散らばっていた。
遠くからは、停止した機械の駆動音のような低い唸りが聞こえてくる。
Kitterr「Yajii」
Yajii「ん?」
Kitterr「ここ、本当に入っていいのか?」
Yajii「入れたからいいだろ」
Kitterr「そういう問題じゃない」
Yajii「じゃあ、どういう問題?」
Kitterr「立入禁止って書いてある」
Yajiiは壁に取り付けられた看板を見る。
錆びた文字で、立入禁止と書かれていた。
さらにその下には、危険区域であることを示す警告マークまで表示されている。
Yajii「読めるなら大丈夫だ」
Kitterr「何が大丈夫なんだ」
Yajii「危険なら、もっと大きく書く」
Kitterr「十分大きい」
Yajii「じゃあ帰る?」
Kitterrは看板を見る。
そしてその先に積み上げられた大量の廃棄物を見る。
古い機械。
壊れた輸送ドローン。
巨大な電子部品。
見たこともない形の金属片。
Kitterrの目が、ほんの少しだけ動いた。
Kitterr「……少しだけ見る」
Yajii「よし」
Kitterr「お前、本当に人の話を聞かないな」
Yajii「聞いてる」
Kitterr「聞いてない」
Yajii「聞いた上で進んでる」
Kitterr「それを聞いてないって言うんだよ」
Yajiiは笑った。
Yajii「でもさ」
Yajii「こういう場所、誰も来ないだろ」
Kitterr「だから危ないんだ」
Yajii「だから拾える」
Kitterr「……」
Yajii「ゴミはCREDITになる」
Kitterrは頭を抱えた。
Kitterr「お前の頭の中、CREDITしかないのか」
Yajii「違う」
Kitterr「何が違う」
Yajii「ゴミもある」
Kitterr「最低だな、お前」
それでも、Kitterrはついてきた。
Yajiiが危なっかしいからだ。
……たぶん。
そして自分一人では、こんな場所まで来ることもなかったからだ。
二人はさらに奥へ進んだ。
足元の瓦礫を避けながら、暗い廃棄区画を進んでいく。
巨大な機械の残骸。
破損した輸送ドローン。
用途不明の部品。
何年も放置された機械。
そのどれもが、すでに誰かによって価値がないと判断されたものだった。
その奥、瓦礫の山の下に、白いものが見えた。
Yajiiが足を止める。
Yajii「……人?」
Kitterrも立ち止まった。
Kitterr「近づくな」
Yajii「なんで?」
Kitterr「分からないからだ」
Yajii「でも、人なら助けないと」
Kitterr「お前が珍しくまともなことを言ったな」
Yajii「死体なら?」
Kitterr「それでも近づくな」
Yajii「なんで?」
Kitterr「怖いからだ」
YajiiがKitterrを見る。
Yajii「お前、怖いの?」
Kitterr「怖いものは怖い」
Yajii「意外」
Kitterr「俺を何だと思ってる」
Yajii「金にうるさい臆病者」
Kitterr「後半だけ余計だ」
それでもKitterrはスキャナを取り出した。
慎重に“それ”へと近づく。
瓦礫を踏むたび、金属片が小さな音を立てる。
それは動かない。
でも“それ”は、人間の女性にしか見えなかった。




