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DUST & CREDIT  作者: てきてき@tekiteki


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第1話 ゴミはCREDITになる(前編)

 この街では、ゴミにも値段がある。


いや、正確に言えば。

ゴミだと決められた瞬間に、値段が下がる。


巨大都市の空を、無数の広告ホログラムが覆っている。

建物と建物の間には、立体映像で作られた巨大な商品が浮かび、絶え間なく宣伝文句を流していた。


高層ビルの壁面には企業のロゴが並んでいる。


どの企業も、自分たちが都市を支えていることを誇示するように、巨大な広告を空へ投影していた。


道路を走る無人車は、誰がどこへ向かい、何を買ったのかまで記録している。


食事をするにも。

電力を使うにも。

移動するにも。

この街ではCREDITが必要だった。


何を持っているかよりも、それが何CREDITなのか。

何ができるかよりも、それがいくらになるのか。

価値は数字で示され、その数字が人間の生活を決めていた。


そして二人は、そんな街の一番下で働いていた。

都市廃棄物回収業者。


言葉だけなら立派な仕事だ。

実際には、毎日大量に捨てられるゴミを集め、指定された処理区画へ運ぶ。


臭い。

汚い。

危険。


しかも、給料は安い。

そんな仕事だった。

その日も二人は、巨大なゴミコンテナの前に立っていた。


コンテナの中からは、熱気と湿った空気が混じった嫌な臭いが漂っている。


周囲では処理用ドローンが忙しそうに飛び回り、廃棄物を種類ごとに仕分けていた。

Yajiiは、そんな光景を眺めながら、コンテナの縁に手を置いた。


Yajii「なあ、Kitterr」


Kitterr「なんだ、Yajii」


Kitterrは手元の端末から顔を上げた。


Yajii「今日、何CREDIT稼げると思う?」


Kitterr「給料なら昨日と同じだ」


Yajii「違う」


Yajiiはコンテナの中を覗き込んだ。


大量の廃棄物が積み重なっている。

壊れた端末。

古い家電。


用途の分からない機械部品。

誰かが使わなくなった衣服。

そして、まだ動きそうな電子機器。


Yajii「ゴミからだ」


Kitterr「……仕事中にそれを考えるな」


Yajii「仕事だから考えるんだろ」


Kitterr「仕事はゴミを回収することだ」


Yajii「だから、そのゴミに価値があるか調べる」


Kitterr「余計な仕事を増やすな」


Yajiiは、楽しそうに笑った。


この男は、ゴミを見ると嫌そうな顔をするどころか、宝物でも探すような目をする。


Yajii「金になるかもしれないのに?」


Kitterrは黙った。

ほんの一瞬だけ、視線がコンテナの中へ向く。

Yajiiは、その瞬間を見逃さなかった。


Yajii「ほら」


Kitterr「……何がほらだ」


Yajii「黙った」


Kitterr「黙っただけだ」


Yajii「興味あるんだろ?」


Kitterr「ない」


Yajii「ある」


Kitterr「ない」


Yajii「じゃあ帰るか」


Kitterr「……待て」


Yajiiが振り返る。


Kitterrは小さくため息をついた。


Kitterr「見るだけだ」


Yajii「よし」


Kitterr「見るだけだからな」


Yajii「売るところまで?」


Kitterr「そこまで言ってない」


Yajii「でも売れそうなら?」


Kitterr「……調べる」


Yajii「やっぱり興味あるじゃん」


Kitterr「うるさい」


Yajiiは笑いながら、コンテナの中へ手を突っ込んだ。

冷たい金属片が腕に触れる。

埃が舞い上がる。


それでもYajiiは気にしない。

むしろ嬉しそうだった。


二人の性格は正反対だった。

Yajiiは、考えるより先に手を動かす。

Kitterrは、動く前に損得を考える。


Yajiiが「いける」と言えば。

Kitterrは「本当にいけるのか」と調べる。


Yajiiが「やろう」と言えば。

Kitterrは「やめろ」と言う。


そして最後には。

だいたい一緒にやっている。


Yajii「お」


Yajiiの手が止まった。

何か硬いものを掴んでいる。


Yajii「Kitterr、これ」


Kitterr「また壊れた端末か?」


Yajii「違う」


Yajiiが引っ張り出したのは、古びた記憶端末だった。

表面には細かな傷が無数に入っている。


角は欠け、画面には大きな亀裂が走っていた。

何年も前の製品らしい。


少なくとも、普通の人間なら見向きもしない。

誰が見てもゴミだった。


Kitterr「ゴミだな」


Yajii「即答するな」


Kitterr「見たままだ」


Yajii「でもさ」


Yajiiは端末を裏返した。

背面には、かすかにメーカーの刻印が残っている。


Yajii「こういう古いの、好きな奴いるだろ」


Kitterr「いるかもしれない」


Yajii「ほら」


Kitterr「まだ売れるとは言ってない」


Yajii「調べて」


Kitterr「お前が拾ったんだから、お前が調べろ」


Yajii「俺、機械苦手」


Kitterr「知ってる」


Yajii「だからKitterrが必要」


Kitterr「……人を便利な道具みたいに使うな」


そう言いながら。

Kitterrは端末を受け取った。

端末を傷つけないように、表面の埃を軽く払う。


そして携帯スキャナを取り出した。

小さな機械を端末へ近づける。

青白い光が端末の表面を走った。


しばらくして、スキャナの画面に情報が表示される。

Kitterrの眉が動いた。


Kitterr「……待て」


Yajii「お?」


Kitterr「これ、まだデータが生きてる」


Yajii「売れる?」


Kitterr「可能性はある」


Yajii「いくら?」


Kitterr「ちょっと待て」


Kitterrは端末を何度も確認する。


内部データ。

製造年代。

残存容量。

破損状態。

現在の中古市場。


Yajiiは横から画面を覗き込む。


Yajii「いくら?」


Kitterr「うるさい」


Yajii「千?」


Kitterr「分からない」


Yajii「二千?」


Kitterr「分からない」


Yajii「一万?」


Kitterr「だから分からない」


Yajii「十万?」


Kitterr「そんなわけあるか」


Yajii「じゃあ八百?」


Kitterrの手が止まった。


Kitterr「……八百」


Yajii「八百?」


Kitterr「状態を考えれば、そのくらいだ」


Yajiiの顔が一気に明るくなった。

さっきまで薄汚れたゴミにしか見えなかった端末が、突然宝物に見え始めたらしい。


Yajii「八百CREDIT!」


Kitterr「声が大きい」


Yajii「ゴミが八百CREDITになった!」


Kitterr「まだ売ってない」


Yajii「売れば八百だろ?」


Kitterr「買い手がいればな」


Yajii「いる」


Kitterr「なんで分かる」


Yajii「八百CREDIT出す奴がいるから」


Kitterr「それは理由になってない」


Yajii「でも、いると思う」


Yajiiは妙に自信満々だった。

Kitterrは呆れた顔でYajiiを見る。


こいつの勘は当たる。

理屈はめちゃくちゃなのに。

なぜか最後には当たる。


それがKitterrには一番腹立たしかった。


Kitterr「……本当に売れたら、半分は俺だからな」


Yajii「もちろん」


Kitterr「勝手に拾ったから全部俺の物とか言うなよ」


Yajii「言わない」


Kitterr「本当に?」


Yajii「俺は優しいから」


Kitterr「自分で言う奴は信用できない」


Yajii「じゃあ六割」


Kitterr「なんでお前が増えてる」


Yajii「交渉」


Kitterr「どこで覚えた」


Yajii「今」


Kitterrは深いため息をついた。


Yajii「まあ、八百ならいいか」


Kitterr「よくない」


Yajii「じゃあ五分五分」


Kitterr「最初からそう言え」


二人は顔を見合わせた。

そして、笑った。

ゴミを拾って。

価値を見つけて。


売る。

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