第26話 Anne?(後編)
Anne「敵性反応を確認」
Kitterr「何体いる?」
Anne「十二体」
Yajii「十二?」
Anne「はい」
Yajii「さっきより増えてないか?」
Anne「十四体に増加」
Kitterr「増えてるじゃねえか!」
Yajii「博士、何体まで出てくるんだ?」
博士「知らん」
Yajii「博士!」
博士「わしも全部把握しておらん!」
Yajii「研究所だろ!」
博士「だから研究所なんじゃ!」
Kitterr「意味分からん!」
Anneは二人の会話を聞いていた。
Anne「……何が面白いのでしょうか?」
Yajii「今それ聞く!?」
Kitterr「お前ら、いつまでそれやってんだよ!」
Anne「すいません」
Anneは素直に頭を下げた。
そして顔を上げる。
瞳の光が変わった。
Yajii「……Anne?」
博士「動くぞ」
Josiah「はい」
次の瞬間──、
Anneが走った。
一体目。
腕を避ける。
二体目。
身体を捻る。
三体目。
肩からぶつかる。
組織の犬が吹き飛ぶ。
四体目。
腕を掴む。
投げる。
五体目。
蹴る。
ドン!
壁に叩きつける。
六体目。
Anneの前に立ちはだかる。
Anne「退いてください」
組織の犬は動かない。
Anne「警告します」
さらに一歩。
Anne「退いてください」
組織の犬が襲いかかる。
Anneは、その腕を掴んだ。
そして……止まった。
Anne「……」
敵の腕が、Anneの手の中で動かない。
ギギギ……。
金属が軋む。
Anneは少しだけ首を傾げた。
Anne「硬いですね」
Yajii「そこ!?」
Kitterr「感想がそれかよ!」
Anneはもう一度、腕を引いた。
バキッ!
金属が折れた。
Yajii「……」
Kitterr「……」
博士「……」
Josiah「……」
Anneは折れた腕を見る。
Anne「破損しました」
Kitterr「見れば分かる!」
Yajii「Anne……」
Anne「はい?」
Yajii「お前、すげえな」
Anne「ありがとうございます」
その声には、いつものAnneらしい穏やかさが戻っていた。
だが、戦闘は終わっていない。
さらに奥から、一体だけ違う個体が現れた。
これまでの個体より大きい。
装甲も厚い。
身体の各所から、武器らしき機構が展開されている。
博士「……あれはまずい」
Kitterr「今までのより強いのか?」
博士「ああ」
Yajii「Anneなら大丈夫だろ」
博士「分からん」
Yajii「博士、そこは大丈夫って言えよ」
博士「わしは嘘をつかん」
大型の組織の犬がAnneを捉える。
赤いセンサーが光る。
『戦闘対象、確認』
Anne「……」
『排除を開始します』
Yajii「Anne!」
Anne「はい」
Yajii「何とかしてくれ!」
Anne「何をですか?」
Yajii「そこから!?」
Kitterr「今はそれじゃねえだろ!」
Anneは少し考えた。
Anne「……大型個体の排除、という意味でしょうか?」
Yajii「そう、それ!」
Anne「了解しました」
大型個体が突進する。
床が揺れる。
ドン!
Anneは動かない。
Yajii「おい!」
Kitterr「Anne!」
大型個体が迫る。
あと数メートル。
一メートル。
そして――
Anneが手を伸ばした。
ドン!
衝撃音。
だがAnneは吹き飛ばされなかった。
大型個体の突進が、Anneの目の前で止まっている。
Anneの足が、床にわずかに沈む。
Yajii「……」
Kitterr「……」
博士「……」
Josiah「……」
Anne「……」
Anneは大型個体を見上げる。
Anne「停止してください」
大型個体は動き続ける。
Anne「……」
Anneの胸部が、淡く光った。
博士「!」
Josiah「……あれは」
光が強くなる。
研究所の照明が一瞬、暗くなった。
太い配管の内部を流れていた光まで、Anneへ吸い寄せられるように見える。
Yajii「……Anne?」
Anneの胸部から、白い光が溢れた。
次の瞬間。
ドンッ!
大型個体が吹き飛んだ。
壁へ叩きつけられる。
巨大な金属音。
そして……静寂。
Anneは立っていた。
自分の胸元を見る。
Anne「……」
Yajii「Anne?」
Anne「問題ありません」
Kitterr「……いや」
Kitterrは大型個体を見る。
完全に停止している。
Kitterr「それ、絶対問題あるだろ」
Anne「ありません」
Kitterr「そういう意味じゃねえ!」
Yajii「でもよ」
YajiiはAnneを見る。
Yajii「助かった」
Anne「……」
AnneがYajiiを見る。
Anne「はい」
その時、博士がゆっくりと口を開いた。
博士「……今の光」
Anne「はい?」
博士「お前は、何をした?」
Anne「分かりません」
博士「……」
Anne「ただ」
Anneは胸元に手を当てる。
Anne「二人を守らなければ、と思いました」
Yajii「……」
Kitterr「……」
Josiah「……」
博士は何も言わなかった。
ただ、Anneを見る。
その目には、研究者としての驚きと。
それとは別の感情があった。
恐怖だった。
Josiahが小さく呟く。
Josiah「……やはり」
Anne「はい?」
Josiah「何でもありません」
その瞬間、研究所全体が、大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴ……!
Yajii「今度は何だ!?」
Kitterr「まだいるのか!?」
博士「違う」
博士が中央実験区画を見る。
円筒形の装置。
その中央で。
巨大な光が集まり始めていた。
博士「……研究所そのものが動き始めた」
Yajii「またかよ!」
Kitterr「何が起きてるんだ?」
博士「分からん」
Yajii「博士!」
博士「だから分からんものは分からん!」
Anneは中央装置を見る。
その瞳に、淡い光が映る。
Anne「……呼んでいます」
Yajii「また?」
Anne「はい」
Kitterr「誰が?」
Anne「……分かりません」
そして、中央装置の奥で。
何かが起動した。
カチッ。
一つ。
カチッ。
また一つ。
研究所の奥へ続く扉が、次々と開いていく。
博士「……」
Josiah「博士」
博士「なんじゃ」
Josiah「これは、防衛システムではありません」
博士「……分かっておる」
Yajii「じゃあ何だ?」
博士は答えなかった。
ただ研究所の最奥を見つめていた。
そこには、巨大な扉がある。
その扉に刻まれた六角形の紋章とも言えそうな印。
Anneが、それを見た。
そして……。
Anne「……知っています」
Yajii「え?」
Anne「この扉を」
Anneはゆっくりと歩き出した。
博士「待て、Anne」
Anneは止まらない。
博士「Anne!」
その声に。
Anneが振り返った。
いつものAnneだった。
少し首を傾げている。
Anne「何でしょうか?」
博士「……」
博士は言葉を失った。
Anneは再び扉を見る。
巨大な扉が、ゆっくりと開き始めた。
その向こうから。
白い光が漏れ出した。




