第25話 Anne?(前編)
──Anneが消えた。
Yajii「……え?」
目の前にいたはずのAnneの姿がない。
Kitterr「どこ行った?」
博士は答えなかった。
Josiahだけが、研究所の入口側を見ている。
Josiah「……速い」
Yajii「何が?」
Josiah「Anneです」
Kitterr「見えなかったぞ」
Josiah「はい」
その直後だった。
ガンッ!
入口の方から、金属が激しくぶつかる音が響いた。
Yajii「うわっ!」
Kitterr「何だ!?」
さらに。
ガン!
ドン!
ガシャァン!
何かが次々に壊れていく。
Yajii「……」
Kitterr「……」
博士「始まったな」
Yajii「何が?」
博士「戦闘じゃ」
Yajii「Anneと?」
博士「そうじゃ」
Yajiiは研究所の奥を見る。
赤い警報灯が回っている。
その光の中を、何かが高速で動いていた。
速すぎて、姿が見えない。
一瞬だけ、白い影が見える。
次の瞬間には消える。
そして。
ガンッ!
人影が壁へ叩きつけられた。
Yajii「……!」
Kitterr「今の……」
博士「組織の犬じゃ」
Yajii「……」
Kitterr「人間みたいに見えたぞ」
博士「元は人間だからな」
再び、金属音が響いた。
ガン!
今度は別の影が飛ぶ。
人間の形をしている。
だが、その動きは人間ではなかった。
床を蹴る。
壁を蹴る。
人間なら不可能な速度で方向を変える。
Yajii「……あれが」
博士「そう、組織の犬じゃ」
Kitterr「身体のほとんどが戦闘用って、こういうことか」
博士「ああ」
Kitterr「Anneは……、あんなのと戦ってるのか?」
博士「そうじゃ」
Yajii「Anneが?本当に?」
博士「そうじゃ。間違いなかろう」
Yajii「……」
Yajiiは黙った。
さっきまで自分たちが言っていた。
Anneを守る。
一緒に戦う。
そんな言葉が、急に遠いものに思えた。
ガン!
また何かが壁に叩きつけられる。
Yajii「……おい」
Kitterr「なんだ?」
Yajii「俺たち、さっきAnneを守るって言ったよな」
Kitterr「ああ」
Yajii「……必要なかったな」
Kitterr「……そうみたいだな」
博士「いや」
博士が二人を見る。
博士「必要かどうかは、まだ分からん」
Yajii「どういう意味だ?」
博士「Anneが強いことと、Anneが無事であることは別じゃ」
Yajii「……」
博士「そして」
博士はAnneの方を見る。
博士「組織の犬も、まだ全力ではない」
Kitterr「……!」
Yajii「嘘だろ」
博士「嘘ではない」
再び影が走る。
今度は二つ。
一つがAnne。
もう一つが敵。
一瞬だけ、二つの姿が重なった。
ガンッ!
敵の腕が振り抜かれる。
Anneは紙一重で避けた。
そのまま敵の腕を掴む。
ぐるり。
まるで重量など存在しないかのように、身体を回転させる。
ドン!
敵が床へ叩きつけられた。
Anne「機能停止を確認」
Yajii「……」
Kitterr「……」
Anneは倒れた敵を見下ろしている。
表情はない。
ただ淡々と立っている。
Yajii「……普通に言ったな」
Kitterr「そこじゃねえだろ」
Yajii「いや、もっとこう……」
Kitterr「何だよ」
Yajii「大丈夫かなって」
Kitterr「お前が心配する相手、逆だろ」
博士「そうじゃな」
Yajii「博士まで」
博士は笑っていなかった。
博士「問題は、Anneが強いことではない」
Yajii「じゃあ何だ?」
博士「どこまで強いのか、誰にも分からんことじゃ」
その時、別の組織の犬が、Anneの背後から飛びかかった。
Josiah「後方!」
Anneが振り返る。
遅い!そう見えた。
だが──、
Anneの身体がわずかに沈む。
腕が頭上を通過する。
Anneはそのまま敵の懐へ潜り込んだ。
そして、相手の胸部へ手を当てる。
カチッ。
小さな音がした。
次の瞬間。
敵の身体が止まった。
そのまま床へ崩れ落ちる。
カタン。
Anne「停止しました」
Kitterr「……何した?」
Anne「停止させました」
Kitterr「いや、だからどうやって」
Anne「停止させました」
Kitterr「説明になってねえよ!」
Anne「そうですか」
Yajii「Anne」
Anne「はい」
Yajii「今の、どうやったんだ?」
Anne「……」
Anneは自分の手を見る。
Anne「分かりません」
Yajii「え?」
Anne「私にも、詳細は説明できません」
博士「……」
Josiah「……」
博士の目が細くなる。
博士「やはりか」
Kitterr「何がやはりなんだよ」
博士「本人にも分からんのじゃ」
Yajii「便利だな」
Kitterr「怖えよ!」
博士「そこじゃ」
博士はAnneを見る。
博士「本人が自分の能力を把握しておらん」
博士「それが一番危険なんじゃ」
Anne「危険、ですか?」
博士「ああ」
Anne「ですが、私は二人を守っています」
Yajii「……」
Kitterr「……」
Anne「それだけは分かります」
その言葉に、Yajiiは少しだけ笑った。
Yajii「……そうか」
Kitterr「なら、いい」
だが、その直後。
奥から、さらに組織の犬が現れた。
一体。
二体。
三体。
次々と暗闇から姿を現す。
カツン。
カツン。
カツン。
金属の足音が研究所に響く。




