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DUST & CREDIT  作者: てきてき@tekiteki


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第24話 組織の犬

第14話 組織の犬


赤い光が、研究所の奥から次々に灯っていく。


カチ、カチ、カチ。

機械が動き出す音が重なり、床の奥から低い振動が伝わってきた。


YajiiがAnneの前へ出る。



そこに嫌な音が聞こえてくる。


金属同士がぶつかる音。

壁にぶつかった音、床に叩きつけられる音。


やがて金属部品が散らばるような音。


Kitterr「犬っころたちでも、歯が立たなかったのか」


Anne「……」



Anneは音の方を見ている。

それを見ていたYajiiが開口一番。



Yajii「安心しろ!Anneは俺たちが守るさ!」


Kitterr「そうだよ。ここまで一緒に来たんだ、置いていけるか」


Yajii「ああ、任せろ」



二人は胸を張った。

博士は、そんな二人をじっと見た。



博士「……で?」


Yajii「ん?」


博士「お前たちは、何ができる?」


Yajii「……」


Kitterr「……」


博士「武器は?」


Yajii「ない」


博士「防具は?」


Kitterr「ない」


博士「戦闘用の装備は?」


Yajii「ない」


博士「戦闘経験は?」


Yajii「逃げるのなら、自信がある」


博士「それは戦闘経験ではない」


Kitterr「ゴミを運ぶのは得意だ」


博士「それも関係ない」



二人は黙った。



Yajii「おいおい……意気込みくらいは買ってくれよ」


博士「意気込みだけではどうにもならん」


Yajii「そこを何とかさあ」


博士「何ともならん」


Kitterr「やれやれ、現実はやっぱり厳しいな」


博士「そうだ、現実的なだけだ」



博士は二人から視線を外し、Anneを見る。



博士「だが、Anneなら話は別だ」


Yajii「え?」


博士「AnneがJosiahと同型なら、簡単には捕まらん」


Kitterr「そんなに強いのか?」


博士「強い」



即答だった。

博士はJosiahを見る。


Josiahは何も言わず、静かに立っている。



博士「Josiahも同じだ」

博士「普段は大人しい。命令にも忠実だ。だが――」



博士の声が少し低くなった。



博士「戦闘用の制限を外したこいつらは、人間が相手にしていいものではない」


Yajii「……」


Kitterr「……おい」


博士「それは多分、Anneも同じだ」



Anneは首を傾げる。



Anne「私が?」


博士「そうだ」


Anne「私は、そんなに危険なのでしょうか?」


博士「危険だ」



また即答だった。



博士「お前が危険なのではない」



博士はAnneを見つめる。



博士「お前を敵に回した者が危険なのだ」


Yajii「どういう意味だ?」


博士「Anneは、自分が傷つくことを恐れん」

博士「相手がどれほど大きかろうが、何人いようが関係ない」

博士「必要なら、最も効率のいい方法で排除する」


Kitterr「排除って……」


博士「壊すということだ」



空気が止まった。

Anneはしばらく黙っていた。



Anne「……私が?」


博士「そうだ」


Anne「覚えていません」


博士「だろうな」



博士は苦笑する。



博士「だから余計に怖いんじゃよ」


Yajii「なんでだよ」


博士「自分が何をできるのか知らんまま、それを使えるからだ」



その言葉に、YajiiとKitterrはAnneを見る。

いつもなら、妙なところで真面目で、少しずれたことを言うAnne。


そのAnneが、今は研究所の奥をじっと見つめている。


その時だった。


 カツン。


金属が床を叩く音がした。

三人が一斉に振り向く。


 カツン。


また一歩。


 重い。


ゆっくりと近づいてくる。


Yajii「……来たな」


Kitterr「何が来る?」


Yajii「組織の犬」


博士「そうじゃ」


Kitterr「犬って……さっきの警備ドロイドみたいな?」


博士「違う」



博士の声から、先ほどまでの軽さが消えていた。



博士「さっきの犬型ドロイドとは、まったく別物じゃ」


Yajii「じゃあ、なんなんだ?」


博士「見れば分かる」


Yajii「見ないと分からないのか?」


博士「説明するより早い」



さらに音が近づく。


 カツン。


 カツン。


 カツン。


そして暗闇の向こうに、人影が現れた。


最初は人間に見えた。


二本の脚。

二本の腕。

頭。


しかし、歩き方がおかしい。

一歩踏み出すたびに、身体の奥から機械音が響いている。


 ウィン。


 ギギッ。


 カチッ。


Kitterr「……あれ、人間か?」


博士「元はな」


Yajii「元は?」


博士「身体のほとんどを、戦闘用に置き換えたドロイドじゃ」


Yajii「……」


Kitterr「ドロイド?」


博士「そうじゃ」



博士は淡々と説明する。



博士「腕も脚も、内部構造も、戦闘用に改造されておる」


博士「人間の身体能力を遥かに超える」


博士「そして、普通の機械とは違う」


博士「元が人間じゃからな」


Yajii「……人間なのか、機械なのか」


博士「そんなことを考えている暇はない」


博士「敵として見ろ」



その言葉に、二人の表情が変わった。

さっきまでの軽口が消える。


暗闇の向こうから、一体が姿を現した。


黒い装甲。


人間の顔に似た部分だけが、妙に生々しい。

その後ろにも、さらに影がある。


一体。


二体。


三体。


次々と姿を現す。



Yajii「……何体いるんだ?」


Anne「確認します」



Anneが目を閉じる。



Anne「八体です」


Kitterr「八体……」


Yajii「さっきの話、本当だったんだな」


博士「何がじゃ?」


Yajii「組織の犬」


博士「そうじゃ」


Yajii「……犬っていうには、怖すぎるだろ」


Kitterr「犬ならまだよかったな」


博士「そうじゃな」



博士は敵を見つめる。



博士「組織の命令を受けて動く」

博士「人間のように考えることもできる」

博士「だが、戦うために身体を作り替えられておる」


博士「つまり――」

博士「人間の判断力と、機械の身体を持った戦闘兵器じゃ」


Yajii「……」


Kitterr「俺たち、これと戦うのか?」


博士「お前たちが?」


Yajii「……」


博士「無理じゃ」


Yajii「また即答かよ!」


博士「現実的な判断じゃ」


Kitterr「じゃあ、どうする?」



博士はAnneを見る。



博士「Anneに任せる」


Yajii「……」


Kitterr「……」


Anne「私が?」


博士「そうじゃ」



Anneは敵を見つめている。

その瞳には、まだ恐怖はない。


ただ静かに、相手を観察している。



Anne「戦闘の必要がありますか?」


博士「向こうはそのつもりじゃろうな」


Anne「分かりました」


Yajii「待て」


Anne「はい?」


Yajii「俺たちが守るって言っただろ」


Kitterr「そうだ」


Yajii「だから、俺たちも――」


博士「何ができる?」


Yajii「……」


Kitterr「……」


博士「もう一度聞いてもいいのか?」


Kitterr「ああ、まあ……」


Yajii「そりゃあ……」


博士「ではお前ら二人で、何をする?」


Yajii「なんか、こう……応援?」


博士「帰れ」


Yajii「無茶言うなよ!」


Kitterr「地下だぞ!」


博士「知っておる」



敵の一体が、ゆっくりと腕を上げた。


 カチッ。


腕の一部が展開する。


その内部から、金属製の機構が現れた。



Yajii「……あれ」


Kitterr「武器だな」


博士「そうじゃ」


Yajii「話し合いは?」


博士「無理じゃろうな」


Yajii「だよな」



敵の腕が、こちらへ向く。

Anneが一歩前へ出た。



Yajii「Anne!」


Anne「問題ありません」


Yajii「でも――」


Anne「二人は下がってください」


Kitterr「Anne……」


Anne「大丈夫です」


その声は、いつものAnneと変わらなかった。


だが、Josiahだけは違った。

Anneの姿を見つめたまま、動かない。


博士がJosiahを見る。



博士「どうした?」


Josiah「……」


博士「Josiah?」


Josiah「怖いです」


Yajii「え?」


Kitterr「何が?」



Josiahの視線は、敵ではなくAnneへ向いていた。



Josiah「私は、戦闘状態のAnneを知りません」


博士「だが、同型機のことは知っている」


Josiah「はい」


博士「なら分かるじゃろう」


Josiah「……はい」



Josiahは小さく息を吐いた。



Josiah「戦闘用の制限が外れた場合」

Josiah「私たちは、相手を敵としか認識しません」


Kitterr「……」


Josiah「相手が何者なのか」


Josiah「なぜ戦うのか」


Josiah「それを考える必要がなくなる」


博士「そうじゃ」


Josiah「ただ、最も効率的な方法で排除する」


Yajii「……」



敵の足音が近づく。


 カツン。


 カツン。


 カツン。


Anneは動かない。



博士「Anne」


Anne「はい」


博士「気をつけろ」


Anne「問題ありません」


博士「……」


博士はその言葉を聞いて、わずかに眉を動かした。


そして、Anneの瞳の奥で、赤い光が一瞬だけ走った。


 カチッ。



Yajii「……今の」


Kitterr「見たか?」


Yajii「ああ」



Anneの姿勢が変わった。

それは、ほんのわずかのものだった。


だが、先ほどまでとは明らかに違う。

無駄な動きが消えた。


敵の位置。


距離。


武器。


退路。


すべてを同時に見ているようだった。


Josiahが一歩下がる。



Yajii「おい、Josiahと言ったか?」


Josiah「はい」


Yajii「お前、今……」


Josiah「はい」


Yajii「Anneから離れたよな?」


Josiah「……はい」


Kitterr「なんでだ?」



Josiahは答えなかった。

ただ、Anneを見ていた。


その表情には、明確な恐怖が浮かんでいた。



Anne「敵性対象を確認しました」



静かな声。

感情のない声。


俯きながら博士が呟く。



博士「……始まったか」


Yajii「何が?」


博士「Anneが、自分自身の力を使い始めた」



その瞬間。

Anneが一歩踏み出した。


そして――

消えた。

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