第20話 地下の秘密ラボ(前編)
Anneの光を頼りに、三人は地下の通路を進んでいた。
女神のような身体が、暗闇を淡い光で照らしている。
Yajii「便利だなあ」
Kitterr「何が?」
Yajii「Anne」
Anne「ありがとうございます」
Yajii「いや、そういう意味じゃなくてよ」
Kitterr「どういう意味だよ」
Yajii「明かりにもなるし、何でも調べられるし」
Kitterr「確かにな」
Anne「分析能力には自信があります」
Yajii「自分で言うんだな」
Anne「事実です」
Kitterr「まあ、それもそうか」
三人はしばらく歩いた。
すると、地下の通路は、先ほどまでの廃棄場とは少しずつ様子が変わってきていた。
崩れた壁が減っている。
床も比較的きれいだ。
そして、壁面には奇妙な配管が増えていた。
Kitterr「……なあ」
Yajii「なんだ?」
Kitterr「ここ、ちょっと変じゃないか?」
Yajii「そうか?」
Kitterr「見ろよ」
Kitterrが壁を指差す。
そこには、何本もの細い配管が並んでいた。
古い。
だが、完全に壊れているわけではない。
そしてところどころに、小さな表示灯が残っている。
Yajii「……まだ動いてるのか?」
Anne「一部の設備に稼働反応があります」
Kitterr「やっぱりな」
Yajii「地下にまだ電気が来てるのか?」
Anne「完全な稼働状態ではありません」
Yajii「じゃあ何で動いてるんだ?」
Anne「不明です」
Kitterr「また不明か」
Anne「はい」
Yajii「地下って、不明なものばっかりだな」
Kitterr「今さらだろ」
さらに進む。
やがて、通路の壁に小さな表示が見えた。
文字はかなり古い。
Yajii「あれ、読めるか?」
Anne「一部を解析できます」
Anneが表示を見る。
Anne「研究区画……とあります」
Kitterr「研究区画?」
Yajii「研究所ってことか?」
Anne「その可能性があります」
三人は顔を見合わせる。
Yajii「行ってみるか」
Kitterr「お前、怖くないのか?」
Yajii「怖いぞ」
Kitterr「じゃあ、なんで行くんだよ」
Yajii「面白そうだから」
Kitterr「……やっぱりお前はそうだよな」
Anne「前方に空間があります」
Yajii「広いのか?」
Anne「はい」
三人が角を曲がる。
そこには、大きな扉があった。
扉そのものは閉じている。
しかし、その横には古い操作パネルが残っていた。
Kitterr「これ、まだ使えるか?」
Anne「確認します」
Anneがパネルに近づく。
指先を触れる。
カチッ。
小さな音がした。
パネルに光が灯る。
Yajii「おお」
Kitterr「生きてるのか」
Anne「電源は一部維持されています」
Yajii「開けられる?」
Anne「可能です」
カチ。
ガコン……。
重い音とともに扉が横へ動いた。
その奥には、広い空間が広がっていた。
白い壁。
整然と並んだ設備。
天井には照明。
壁際には何本もの配管。
地下の廃棄場とは、まるで別の場所だった。
Kitterr「この見た目……ラボだな」
Yajii「すげえ」
Anne「科学研究施設である可能性が高いです」
Yajii「何を研究してたんだ?」
Anne「現時点では不明です」
Yajii「Anneでも分からねえか」
Anne「設備の用途を特定するには、さらに調査が必要です」
Kitterr「まあ、そうだよな」
三人は施設の中へ入る。
床には金属製のレールが走っていた。
壁面には透明なパネル。
その奥には細かな配線が見える。
いくつもの装置が並んでいる。
中には、人間の身体ほどもある円筒形の設備もあった。
Yajii「……何だこれ」
Kitterr「さあな」
Anne「分析します」
Anneが装置を調べる。
Yajii「分かるか?」
Anne「用途を特定できません」
Yajii「……」
Kitterr「……」
Yajii「博士でも呼ぶか?」
Kitterr「どこに博士なんているんだよ」
Yajii「そうだった。ま、雰囲気で」
Kitterr「それはわかる」
Anne「この施設は、複数の研究設備を統合していた可能性があります」
Kitterr「複数?」
Anne「はい」
Anneが周囲を見回す。
Anne「エネルギー関連設備」
Anne「物質分析設備」
Anne「生体関連設備」
Anne「その他、用途不明の設備があります」
Yajii「なんでも研究してたのか?」
Anne「その可能性があります」
Kitterr「……ずいぶん大きな施設だったんだな」
Yajii「でも、なんでこんなところに?」
Kitterr「それを調べるんだろ」
Yajii「そうだな」
三人はさらに奥へ進む。
その時だった。
カチッ。
小さな音がした。
Yajii「……?」
Kitterr「今の何だ?」
Anne「警戒してください」
Yajii「え?」
照明が一つ消えた。
パッ。
別の照明が赤く点灯する。
パッ。
また一つ。
白い照明が、次々と赤へ変わっていく。
Kitterr「……おい」
Yajii「なんだよ」
Kitterr「これ、まずくないか?」
Anne「警報システムが起動しています」
Kitterr「やっぱりか!」
天井から赤い警告灯がせり出した。
カッ。
カッ。
カッ。
そして――
ウゥゥゥゥ――!
けたたましいサイレンが施設全体に響き渡った。
Yajii「うわっ!」
Kitterr「何だよ!」
Anne「警報です」
Kitterr「見りゃ分かる!つうか、聞けばか。」
Yajii「こんな時まで冷静なつっこみだなあ」
Kitterr「どうも!」
天井のスピーカーから、機械的な音声が流れる。
『侵入者あり』
Yajii「侵入者がいるんだってよ……、こええな」
Kitterr「俺たちだろ!」
『侵入者あり』
『速やかに排除せよ』
Yajii「……」
Kitterr「……」
Anne「……」
Yajii「これは……、歓迎されてねえな」
Kitterr「今さら気づいたのかよ!」
その直後。
カシャ。
遠くで何かが動いた。
カシャカシャ。
別の方向からも音がする。
Yajii「……何だ?」
Anne「複数の機械反応を確認」
Kitterr「どこからだ?」
Anne「前方、左右、後方です」
Kitterr「……」
Yajii「囲まれた?」
Anne「その可能性があります」
赤い光の向こうから、何かが現れた。
低い姿勢。
四本の脚。
金属製の身体。
頭部には赤いセンサー。
Yajii「……犬?」
Kitterr「ドロイドだろ!」
Yajii「犬型ドロイドだろ」
Kitterr「そこはどうでもいい!」
一体。
さらに一体。
また一体。
暗い通路の奥から、次々と姿を現す。
Yajii「な、なあ、どうするよ?」
Kitterr「とりあえず、逃げる」
Yajii「どこへ?」
Kitterr「あ……」
Kitterrが周囲を見る。
もちろん逃げ道は塞がれていた。
Kitterr「……分からん」
Yajii「だよな」
一体の犬型ドロイドが、低い姿勢になる。
Yajii「来るぞ!」
Kitterr「Anne!」
Anneは二人の前に出た。
Anne「問題ありません」
Yajii「問題あるだろ!」




