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DUST & CREDIT  作者: てきてき@tekiteki


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第19話 光るんだな

 三人は、黒いドロドロが流れてきた通路から離れ、別の道を探していた。


地下は暗い。

先ほどまでなら、数歩先の床さえよく見えなかった。


Anneが前方を見つめる。


Anne「こっちに通れそうな穴があります」


Yajii「穴?」


Anne「はい」



Anneが先に進む。

その身体から、淡い光が漏れていた。



Yajii「……ていうか」


Kitterr「ん?」


Yajii「お前、光るんだな」


Anne「光を発することは可能です」


Yajii「蛍と一緒か?」


Kitterr「一緒か?」


Yajii「だよな?」


Anne「違います」


Yajii「ほらー」


Kitterr「何がほらーなんだよ」


Anne「蛍は体内の化学反応によって光を発生させます」


Yajii「へえ」


Anne「私の場合は、内部エネルギーを光エネルギーへ変換しています」


Kitterr「……」


Yajii「……」


Anne「発光効率も調整可能です」


Yajii「だってさ」


Kitterr「うん」


Yajii「よくわからん」


Kitterr「実は俺も」



二人が顔を見合わせる。



Yajii「気が合うな」


Kitterr「……だな」


しばらくして。


Yajii「ははっ」


Kitterr「はははっ」


Yajii「ははははは!」


Kitterr「なんだよ、それ!」


Yajii「いや、だってよ!」


Kitterr「何がおかしいんだよ!」


Yajii「分からん!」


Kitterr「俺も分からん!」



二人は顔を見合わせ、さらに笑う。



Anne「……」



Anneは二人を見ながら、首を少し傾げる。



Anne「何が面白いのでしょうか?」


Yajii「俺らにも分からん!」


Kitterr「でも面白いんだよ!」


Anne「……そうですか」



Anneは理解できないまま、二人の前を歩き始める。



Yajii「でもよ」



YajiiはAnneを見る。



Yajii「エネルギー、枯渇しないか?」


Anne「省エネ設計の光なので大丈夫です」


Yajii「省エネなら大丈夫か」


Kitterr「そうだな」


Yajii「……」


Yajii「何納得してるんだよ」


Kitterr「何が?」


Yajii「カツカツってことはいずれなくなるってことだ」


Kitterr「カツカツってお前、まずいじゃねえか」


Yajii「じゃあどうしろってんだよ?」


Kitterr「いやあ、俺に聞くなよ」


Anne「エネルギー残量は現在、問題ありません」



Yajiiは振り向いて、Anneを正面に見る。



Yajii「それ、”今は”、だろ?」


Anne「はい」


Yajii「ほら、やっぱり減るんじゃねえか」


Kitterr「おおい、だから言っただろ」


Yajii「お前が言ったんじゃねえよ!」



Anneは二人のやり取りを聞きながら、少しだけ首を傾げた。

そして、淡い光を保ったまま歩き続ける。


地下の暗闇の中で、Anneの姿だけが浮かび上がっていた。

Yajiiは、何となくその姿を目で追った。


細い腰。

すらりと伸びた手足。

無駄のない身体のライン。


これまで二人は、Anneを高性能なアンドロイドとして見ていた。


機械。

拾ったもの。

そして、いつの間にか一緒に逃げている仲間。


そんな認識だった。

だからこそ、改めて見ると、少し妙だった。


機械の身体であるはずなのに。

そこには、はっきりと女性らしい美しさがある。


Yajiiが黙る。

Kitterrも、いつの間にかAnneを見ていた。


二人の視線が重なる。



Yajii「……こだわりだよな」


Kitterr「……ああ、製作者の執念が見えるようだ」



そして、二人とも何事もなかったように視線を逸らした。



Yajii「……そんで、光るんだもんなー」


Kitterr「そうなんだよ」


Yajii「ああ、なんて時代が来ちまったんだ」


Kitterr「ほんと、そうだよなー」



二人は再度、しみじみとAnneを見る。



Yajii「なあ、光るメイドさん欲しかったのかなあ?昔の人は」


Kitterr「そこまで完璧なメイドが必要だったのかねえ?」


Yajii「そうだ。Anneはメイドもやれるの?」


Kitterr「おいおい、なに聞いてるんだよ、お前」


Anne「まあ、お望みとあれば」


Yajii「ほらあ、なんか自信あり気だな」


Kitterr「ほらあじゃねえよ」


Yajii「あ……、でも、危なっかしいよな」


Kitterr「あ、そうだな。危なっかしいな」


Anne「はて?何かおっしゃいましたか?」


Yajii「いいやなにも」


Kitterr「そうだよ、なにも」


Yajii「Anneは凄いなーってな」


Kitterr「そうそう、そういう事だ」


Anne「……?」



Anneは二人を交互に見る。

そして、また少し首を傾げた。



Yajii「……なっ」


Kitterr「……お、おう」



二人とも、それ以上は何も言わなかった。

しばらくして。



Yajii「そういやさ」


Kitterr「ん?」


Yajii「人間って、ずっと暗闇と戦ってきたんだよな」


Kitterr「まあ、そういうことになるか」


Anne「はい」



Anneが振り返る。



Anne「人類にとって、人工的な明かりは非常に重要なものでした」


Yajii「お?」


Anne「夜間に光を得るため、人類は長い時間をかけて様々な方法を発達させています」


Yajii「火とか?」


Anne「はい」


Anne「火は、人類が長く利用してきた最も基本的な光源の一つです」


Anne「その後、油を利用した灯火が発達しました」


Kitterr「油か」


Anne「さらにガス灯が登場し、その後、電気による照明が普及します」


Yajii「火から電気か」


Anne「その過程には、燃料の確保、輸送、照明器具の改良、発電、送電など、多くの技術が関係しています」


Kitterr「……これ」


Yajii「……例の奴か」


Anne「明かりを得るという単純な行為にも、人類は膨大なエネルギーと技術を投入してきました」

Anne「夜を照らすことは、人間の活動時間を延長するだけではありません」

Anne「街を照らし、道路を照らし、作業場を照らし、生活空間を照らす」

Anne「それによって、人類の生活そのものが変化していきました」


Yajii「……ああ」


Kitterr「……おう」


Anne「つまり人工照明とは――」


Yajii「えーと、Anne?これさ、長くなりそうだな」


Anne「まだ途中です」


Kitterr「これでまだ途中なのかよ」


Anne「はい」


Yajii「あと、どれくらい?」


Anne「現在までの説明で、およそ三分の一です」


Yajii「三分の一!」


Kitterr「もういいよ!」


Anne「分かりました」



Anneは素直に説明を止めた。



Yajii「いやあ……」



Yajiiは改めてAnneを見る。


地下の暗闇。

その中で、Anneの身体が淡く光っている。



Yajii「……明かりって、やっぱ貴重だな」


Kitterr「そうだな」


Yajii「昔の人が苦労して手に入れたもんを、今はこいつが自分で出せるんだもんな」


Kitterr「しかも歩いてる」


Yajii「便利だなあ」


Anne「ありがとうございます」


Yajii「……」


Kitterr「……」


Yajii「なんか、礼を言われると照れるな」


Kitterr「お前が言ったんだろ」


Yajii「そうだけどよ」



Anneの光が、ほんの少し明るくなった。



Yajii「お?」


Kitterr「明るくなったな」


Anne「発光量は一定です」


Kitterr「いや、今ちょっと明るくなったぞ」


Anne「誤差です」


Yajii「本当に?」


Anne「はい」


Kitterr「怪しいな」


Anne「問題ありません」


Yajii「まあ、いいか」



三人は再び歩く。


暗い地下。

その中で、Anneの光だけが静かに揺れていた。



Yajii「……ある意味、神々しいなあ」


Kitterr「そりゃあ、時代が時代なら神様認定だろう」


Anne「神様ですか?」


Yajii「そうだ」


Kitterr「女神様って所か」


Anne「女神様」


Yajii「そうそう」



Anneは少し考える。



Anne「私は女神ではありません」


Yajii「それは分かってるよ」


Kitterr「そこは真面目に否定するんだな」


Yajii「でもよ、昔の人が見たら分からんぞ」


Kitterr「まあ、真っ暗なところで人間みたいなのが勝手に光ってたらな」


Yajii「神様だと思うだろ」



Anne「なるほど」


Yajii「そういう話でよ」



Yajiiは少し考えてから、ぽんと手を打った。



Yajii「天岩戸の話を絡めてよ」


Kitterr「天岩戸?」


Yajii「そう」



YajiiはAnneを指差した。



Yajii「Anneが居ないと世界が暗いってな」


Kitterr「……」


Yajii「うまいこと言うなあ」


Kitterr「自分で言うな」


Yajii「でもよ」



Yajiiは暗い地下を見回した。



Yajii「今の俺たちにはAnneが居るもんな」


Kitterr「まあ……確かにな」



Anneは二人を見つめた。



Anne「では、隠れましょうか」


Yajii「それはよしてくれー!」


Kitterr「本当に隠れるなよ!」


Anne「?」


Yajii「お前が隠れたら、俺たち真っ暗じゃねえか!」


Kitterr「今の話をそのまま実行するな!」


Anne「分かりました」



Anneは素直に頷いた。

そして、ほんの少しだけ光が強くなった。



Yajii「……お?」


Kitterr「また明るくなったな」


Anne「気のせいです」


Yajii「そうかあ?」


Kitterr「いや、絶対明るくなってるぞ」


Anne「……」



Anneは答えなかった。

しばらくして。



Yajii「……ありがとな」


Anne「はい」


Kitterr「俺からも」


Anne「はい」


Yajii「こういう時は何か言えよ」


Anne「何をでしょうか?」


Yajii「……」


Kitterr「そこまで要求するなよ」


Yajii「そうだな」



三人は歩く。

その先に何があるのかは、まだ分からない。


ただ今は、Anneの光がある。

それだけで、暗い地下道を進むことができた。

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