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DUST & CREDIT  作者: てきてき@tekiteki


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第16話 地下?(前編)

ズズズズズ……。


暗い斜坑を、三人は滑り落ちていた。

Yajiiは両足を壁に突っ張る。



Yajii「止まれぇぇぇ!」


Kitterr「無茶言うな!」


Yajii「俺がやってみる!」


Kitterr「何をだよ!」



Yajiiは必死に足を踏ん張る。


ズズズズズ……。


しかし、止まらない。

むしろ速度は上がっていく。



Kitterr「だから無理だって!」


Anne「速度が上昇しています」


Yajii「言われなくても分かる!」



Yajiiは前を見る。

暗闇の中から、何かが飛び出してくる。



Yajii「うわっ!」


Kitterr「何だ!?」


Yajii「ゴミ!」


Kitterr「見りゃ分かる!」



三人の横を、壊れた機械の部品が勢いよく滑り落ちていく。


ガンッ。


壁にぶつかり、さらに下へ落ちていく。



Yajii「危ねえな!」


Kitterr「お前が言うな!」


Anne「左側に障害物があります」


Yajii「どれだ!」


Anne「通過しました」


Yajii「先に言え!」


Kitterr「だから言ってんだろ!」



三人はそのまま暗闇へ吸い込まれていく。

そして――


ドサッ!


ようやく何かにぶつかった。

三人の身体が、まとめて積み上がった配線の山へ突っ込む。



Yajii「……いてぇ」


Kitterr「……死んだかと思った」


Anne「停止しました」


Yajii「お前だけ平気そうだな」


Anne「はい」


Kitterr「なんか腹立つな」



三人は身体を起こした。


周囲は暗い。

地上とは違う。


古びた配管が壁を這い、ところどころから水が滴っている。


 ポタ……。

 ポタ……。


湿った空気が肌にまとわりつく。

遠くには、崩れた壁と大量の廃棄物。


どうやら、廃棄場のさらに下らしい。



Yajii「……地下って、こういうもんか?」


Kitterr「廃棄場の地下だからな」


Yajii「ヘドロか?」


Kitterr「たぶん」



Yajiiは足元を見る。

そこに、黒いものが広がっていた。


泥のようで、油のようでもある。

しかし、普通の泥や油とは違った。


妙に粘っている。

わずかな水滴が落ちると、その表面がゆっくり揺れた。


 ベチャ……。



Yajii「……なんだよ、これ」


Kitterr「知らねえよ」


Yajii「黒いな」


Kitterr「見れば分かる」


Yajii「ネバネバしてる」


Kitterr「それも見れば分かる」


Yajii「触りたくねえな」


Kitterr「俺もだ」



二人は少し離れたところから黒い物体を眺める。

しばらくして、Yajiiが周囲を見回した。



Yajii「何かないか?」


Kitterr「何が?」


Yajii「これを取るやつ」


Kitterr「取るのかよ」


Yajii「せっかく地下まで来たんだ」


Kitterr「だからって何でも拾うなよ」


Yajii「何かに使えるかもしれねえだろ」


Kitterr「……板ならあるぞ」


Yajii「それだ。これに入れるか」



Yajiiは近くに落ちていた板と壺か花瓶か迷うようなものを拾う。

そして板を黒いネバネバに近づける。


 ベチャッ。


板の先端が沈み込む。



Yajii「うわ」


Kitterr「やめとけ」


Yajii「でも取れるぞ」


Kitterr「だから何で取るんだよ」


Yajii「取れるものは取る」


Kitterr「その理屈、いつか死ぬぞ」


Yajii「その前に売れればいい」


Kitterr「もっと駄目だろ」



Yajiiは板を持ち上げる。

黒いネバネバが、糸を引くように伸びる。


 ズル……。


一瞬まるで板を追いかけるように、

黒い物体がわずかに盛り上がった。



Yajii「……ん?」


Kitterr「どうした?」


Yajii「いや」



黒いネバネバを見る。

もう動いていない。



Yajii「気のせいか」


Kitterr「何が?」


Yajii「いや、なんでもねえ」



Yajiiはそのまま板を壺へ近づけた。


 ベチャッ。


黒いネバネバが壺の中へ落ちる。



Kitterr「何してんだよ」


Yajii「拾ってんだよ」


Kitterr「え!?それ、拾うか普通?」


Yajii「この際、普通じゃないから拾うんだろうがよ!」


Kitterr「もう、意味が分からん」



Anneが壺を覗き込む。



Anne「……」


Yajii「どうした?」


Anne「それに直接触らないでください」


Yajii「え?」


Anne「危険です」


Kitterr「だったら早く言えよ!」


Yajii「もう少し触っちまったぞ」



Yajiiは自分の手を見る。



Yajii「これ、大丈夫か?」


Anne「洗えば平気です」


Yajii「何で洗うんだよ」


Anne「高温水蒸気洗浄と強酸による溶解が――」


Kitterr「それ普通の人間は無理なやつじゃねえ?」


Anne「そうですか」


Yajii「そうですかじゃねえよ!」


Kitterr「お前の『洗えば平気』の基準どうなってんだよ!」


Anne「では、直接触れないよう注意してください」


Yajii「最初からそう言え!」


Kitterr「そもそも、何なんだよこれ?」



Anneは黒いネバネバへ視線を向ける。

青い光を灯した瞳。

目の奥で、何かを解析している。



Anne「……」


Yajii「分かるか?」


Anne「分析中です」


Kitterr「何か分かった?」


Anne「複数の物質が混合しています」


Yajii「何と何?」


Anne「有機物と無機物です」


Kitterr「……」


Yajii「……」


Anne「さらに、高分子結合体が確認できます」


Kitterr「高分子?」


Anne「はい」


Yajii「……」


Anne「微細な金属粒子も含まれています」


Kitterr「……」


Anne「エネルギー保持性のある物質も――」


Yajii「待ってくれ」


Anne「はい」


Yajii「今の、最初から全部聞かないと駄目か?」


Anne「まだ三分の一ほどしか説明していません」


Yajii「長い!」


Kitterr「俺ももう分からん」


Anne「そうですか」


Kitterr「結論だけ頼む」


Anne「このネバネバは――」



二人が顔を上げる。



Anne「非常に高いエネルギーを保持しています」


Yajii「……高エネルギー?」


Anne「はい」


Kitterr「本当に?」


Anne「はい」



Yajiiは壺を見る。

さっきまで、絶対に触りたくないと思っていた黒いネバネバ。

その目つきが変わった。



Yajii「……拾おう」


Kitterr「は?」


Yajii「これ、持って帰ろうぜ」


Kitterr「いやいやいや、待て」


Yajii「高エネルギーなんだろ?」


Anne「はい」


Yajii「じゃあ、拾わない理由がねえ」


Kitterr「触ったら強酸と水蒸気洗浄が必要なんだぞ?」


Yajii「板で掬えばいい」


Kitterr「そういう問題か?」


Yajiiは壺を抱える。


Yajii「高エネルギー物質だぞ」


Yajii「きっとCREDITになる」


Kitterr「……」


Yajii「どうだ?」


Kitterr「……まあ、拾うだけなら」


Anne「お二人とも、判断基準がCREDITですね」


Yajii「それ以外に何がある?」


Kitterr「お前と一緒にするな」



そう言いながら、Kitterrも周囲の黒いネバネバを見る。



Kitterr「……これ、本当にそんなに高価なのか?」


Anne「価値は非常に高いです」


Kitterr「……もう少し拾うか」


Yajii「だろ?」



二人は急に真剣になった。

板を使い、黒いネバネバを壺へ掬い始める。


 ベチャッ。


 ベチャッ。


 ベチャッ。


その音だけが、地下に響いていた。


 ポタ……。


 ポタ……。


天井から落ちる水滴。


そして――


 ニョロッ。


廃棄物が積み重なった壁。

その隙間から、一瞬だけ細長いものが伸びた。

それは、黒い壁の向こうへ消える。


Kiterrは気づいていない。



Yajii「おいおい」


Kitterr「何だよ?」


Yajii「今、なんかいたぞ」


Kitterr「何が?」


Yajii「ニョロニョロしたやつ」


Kitterr「……見間違いじゃねえの?」


Yajii「いや、絶対いたって」


Kitterr「疲れてんだろ」


Yajii「俺はまだ平気だぞ」


Kitterr「じゃあ、さっさと拾えよ」


Yajii「……おう」



二人は再びネバネバを掬い始める。


 ベチャッ。


 ベチャッ。


Anneだけが、廃棄物の山を見ていた。



Anne「……」


Kitterr「どうした?」


Anne「いえ」



Anneは暗闇を見る。

何もない。

ただの廃棄物の山。

そう見える。


しかしその奥から――


 ズズ……。


何かが、わずかに動いた。


 ズズズズ……。


巨大な生体は、そのまま通路の奥へ消えていった。


 ドドドドド……。


遠ざかっていく振動だけが、しばらく地下に残る。

三人は動かなかった。



Yajii「……なんか居たよな」


Kitterr「……ああ」


Anne「……はい」


Yajii「……行ったか?」


Anne「はい」


Yajii「本当に?」


Anne「現在はこちらへ向かっていません」


Kitterr「じゃあ、今のうちに行くぞ」


Yajii「おう」


Kitterr「おい……壺、持ったか?」


Yajii「もちろん」


Kitterr「そこだけは忘れねえんだな」



Yajiiは壺を抱え直した。

Kitterrは呆れたようにため息をつく。



Kitterr「お前、それ持って逃げるのかよ」


Yajii「高エネルギーだぞ」


Kitterr「それは聞いた」


Yajii「CREDITになるかもしれねえ」


Kitterr「命より?」


Yajii「……」


Kitterr「命より高いのか?」


Yajii「そこは……場合による」


Kitterr「場合によるじゃねえ!」


Anne「お二人とも、声を抑えてください」


Kitterr「そうだな」


Yajii「悪い」


三人は、巨大な生体が消えた方向とは反対へ歩き始めた。

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