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DUST & CREDIT  作者: てきてき@tekiteki


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第14話 滑って行く(前編)

 床が崩れた。

三人の足元から、地面が一気に消える。



Yajii「うわああああ!」


Kitterr「おいおいおい!」


Anne「……」



三人の身体が、そのまま下へ滑り落ちていく。



ズザザザザ――!


Yajii「止まらねえ!」


Kitterr「止まれるわけねえだろ!」


Yajii「Anne!」


Anne「はい!」


Yajii「何とかしてくれ!」


Anne「何をですか?」


Yajii「滑ってるのをだよ!」


Anne「私も滑っています」


Yajii「知ってる!」



三人は斜面を滑り続ける。


壊れた配管。

古い部品。

何かの機械。

様々なものが、三人と一緒に斜面を滑っていく。


ガラガラガラ……。



Yajii「なんだこれ!」


Kitterr「知らねえよ!」


Yajii「これ売れるかな!」


Kitterr「今それ考えるのか!」


Yajii「でもいろいろ落ちてるぞ!あ、これ」


Kitterr「おい、拾うな!」


Yajii「いや、もったいねえだろ!」


Kitterr「今は命のほうがもったいないんだよ!」



その横を、古びた金属片が勢いよく滑っていく。

さらに何かのケース。


何か工具っぽいもの。

空になった容器。


そして、小さな影が三人の横を駆け抜けた。



Yajii「……?」


Kitterr「……?」


Yajii「今、何かいたぞ」


Kitterr「何かって何だよ」


Yajii「小さいやつ」


Kitterr「こんなところに?」


Yajii「いた」



二人が目を凝らす。



Yajii「ネズミだ!」


Kitterr「なんでネズミまで滑ってんだよ!」


Yajii「知らねえよ!」



ネズミも三人と同じように斜面を滑っている。

そして必死に足を動かしている。

だが、斜面を滑る勢いには逆らえない。


 ズザザザザ――!


その後ろからもう一つ。

細長い影が滑ってきた。



Yajii「……」


Kitterr「……」


Yajii「うわっ!」


Kitterr「うわあっ!」



二人が同時に声を上げた。



Yajii「蛇!」


Kitterr「蛇だ!」


Yajii「なんでいるんだよ!」


Kitterr「知るか!」


Yajii「こっち来るぞ!」


Kitterr「見るな!」


Yajii「お前が言うな!」



蛇はネズミを追っている。

二人は蛇から目を離せない。

蛇は身体をくねらせながら、斜面を滑ってくる。


その視線は、前を走るネズミをロックオンしている。



Yajii「食う気だぞ!」


Kitterr「当たり前だろ!」


Yajii「とりあえず、今それどころじゃねえだろ!」


Kitterr「そんなの、蛇に言え!」


Anne「……」



Anneは二人を見る。

Yajiiは蛇を見ている。

Kitterrも蛇を見ている。


二人とも自分たちが滑り落ちていることを、一瞬忘れていた。


Anneは蛇を見る。

そしてその進行方向を見る。


ネズミ。

蛇。

二人。

自分。


すべての位置関係を確認する。

ネズミと蛇が近づいてくる。



Yajii「来る!」


Kitterr「おい、Anne!」


Anne「はい」


Yajii「何とかしてくれ!」


Anne「分かりました」



Anneが片手を伸ばした。

滑りながら蛇の身体を掴む。



Yajii「え?」


Kitterr「……」



Anneは蛇を片手で持ち上げた。

蛇が身体をくねらせる。



Anne「……」



そして、斜面の横へ。


 ぽいっ!


蛇を放り投げた。

蛇はそのまま斜面の遠くへ飛んで行き、星になった。



Yajii「……」


Kitterr「……」



二人がAnneを見る。



Anne「問題ありません」


Yajii「いや……」


Kitterr「お前……」


Yajii「今、蛇を」


Anne「はい」


Yajii「片手で掴んだよな?」


Anne「はい」


Kitterr「しかも投げたよな?」


Anne「はい」


Yajii「……」


Kitterr「……」



二人は顔を見合わせる。



Yajii「俺、蛇だけは無理だわ」


Kitterr「俺もだ」


Anne「そうですか」


Yajii「いや、そうですかじゃねえよ!」


Kitterr「おまえ、普通、あんなの触れねえぞ!」


Anne「そうなのですか?」


Yajii「そうだよ!」


Anne「今……学習しました」


Kitterr「何を?」


Anne「蛇は触らないほうがいい」


Yajii「そこじゃねえ!」



三人は再び斜面を滑り続ける。


ネズミだけが、何事もなかったように先を滑っていった。

その姿は、少し誇らしげにも見えた。



Yajii「……なんもしてねえくせに」


Kitterr「……自慢げだよな」


Yajii「ネズミ、逃げ切ったな」


Kitterr「まあ、蛇がいなくなったからな」


Yajii「よかったな」


Kitterr「って、俺たちは?」


Yajii「……」



三人の前方。

さらに急な斜面が続いている。



Yajii「あれは……よくねえな」


Kitterr「だろうな!」



 ズザザザザザ――!


その時Anneの身体が、わずかに揺れた。



Yajii「……ん?」


Anne「……」



Anneは姿勢を戻そうとする。

だが、思うように身体が動かない。



Anne「……」


Kitterr「Anne?」


Anne「問題……ありません」


Yajii「いや、今ちょっと変だったぞ」


Anne「身体の制御に遅延が発生しています」


Kitterr「遅延?」


Anne「はい」



Anneの足が斜面を捉えられない。

身体が横へ傾く。



Yajii「おい!」



Yajiiが手を伸ばす。

Anneの肩を掴む。



Kitterr「こっちだ!」



Kitterrも反対側からAnneの腕を取った。

三人は滑りながら、互いに身体を支える。



Yajii「大丈夫か?」


Anne「……はい」


Kitterr「おい、その返事!もう信用できねえぞ」


Yajii「強がるのもたいがいにしろ」


Anne「……」



Anneは自分の身体を確認する。

動作そのものに異常はない。


ただ反応が遅い。

姿勢制御も、わずかに遅れている。



Anne「エネルギー低下による影響と推測します」


Yajii「やっぱりエネルギーか」


Kitterr「さっき長々と説明してたやつだな」


Anne「はい」


Yajii「だったら無理するな!」


Anne「しかし、停止することはできません」


Yajii「停止しろとは言ってねえ!」


Kitterr「何も考えるな。今は俺たちが支える!」


Anne「……」



Anneは二人を見る。

YajiiとKitterrは、自分たちも滑り落ちているのに。

Anneの身体を離さない。



Yajii「Anneちゃんと掴まってろよ!」


Anne「はい」


Kitterr「体勢を維持できないなら、俺たちが支えるからな」


Anne「……分かりました」



三人は、ほとんど抱き合うような格好で斜面を滑っていく。



Yajii「しかしまあ、なんだこの状況!」


Kitterr「俺に聞くな!」


Anne「……」



Anneは二人に支えられながら、周囲を確認する。

目が淡く光る。



Anne「前方に障害物があります」


Yajii「何だ!」


Anne「大型の金属容器です」


Kitterr「どれくらい先だ!」


Anne「約十五メートル」


Yajii「近い!」


Kitterr「避けられるか!」


Anne「右側へ移動してください」


Yajii「右!」


Kitterr「分かった!」



二人はAnneを支えたまま、身体を右へ傾ける。

三人の身体が斜面を横へ滑る。


大型の金属容器が迫る。



Yajii「もっと右!」


Kitterr「これ以上は無理だ!」


Anne「……」



Anneも身体を動かそうとする。

しかし反応が遅れた。



Yajii「Anne!」



YajiiがAnneを強く引き寄せる。

Kitterrも反対側から身体を支える。


三人が大きく横へ流れる。


 ビュッ!


金属容器の角が、すぐ横を通り過ぎた。



Yajii「危ねえ!」


Kitterr「今の当たってたら終わってたぞ!」


Anne「……ありがとうございます」


Yajii「礼はいい!」


Kitterr「今は前を見ろ!」


Anne「はい」



三人は再び斜面を滑り始める。

YajiiとKitterrがAnneを左右から支えている。

Anneは、自分だけでは姿勢を維持できなくなっていた。


それでも、周囲を確認する目だけは。

まだ淡く光っていた。


そして三人はさらに地下深くへ滑り落ちていった。

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