第13話 置いて行くか?【後編】
Kitterr「……しょうがねえ」
Anneを見る。
Kitterr「置いて行くか?」
YajiiがゆっくりKitterrを見る。
Yajii「……お前」
Kitterr「なんだよ」
Yajii「偉く薄情な奴になっちまったな」
Kitterr「だってよー!」
Kitterrは後方を見る。
追手が迫っている。
Kitterr「俺たちが捕まったら、三人とも終わりだろ!」
Yajii「……」
Kitterr「Anneだって、自分を置いていけって言ってたじゃねえか」
YajiiはAnneを見る。
しばらく黙る。
そして……。
Yajii「ああー」
立ち上がる。
Yajii「良いさ」
Kitterr「……」
Yajii「なら、お前一人で逃げやがれ」
Kitterr「……お前」
Yajii「俺はAnneを置いていかねえぞ」
YajiiはAnneのところへ戻った。
その身体を見下ろす。
Yajii「拾ったんだぞ」
Kitterr「……」
Yajii「ゴミ拾いの仕事だろ」
YajiiはAnneの腕を取った。
Yajii「自分から置いてけって言う奴ほど、置いていけねえんだよ」
Anneの目が、かすかに開いた。
Anne「……あっ」
Yajii「おう」
Anne「私のことは……」
Anneは言葉を続ける。
Anne「放って置いてください」
Kitterr「ほら」
Yajii「お前なー!」
Kitterr「いや、だってよ」
Yajii「そういうのを真に受けるなよ」
YajiiはAnneの腕を肩へ回した。
Yajii「行くぞ」
Kitterr「……しょうがねえな」
KitterrもAnneの反対側へ回った。
Kitterr「まったく……拾うんじゃなかった」
Yajii「嘘つけ」
Kitterr「何がだ」
Yajii「顔に出てるぞ」
Kitterr「へっ、出てねえよ!」
三人は再び立ち上がった。
後方から、また銃声。
パシュッ!
Kitterr「走れるか?」
Anne「……困難です」
Yajii「だろうな」
YajiiがAnneを支える。
Yajii「じゃあ、俺たちが運ぶ」
KitterrもAnneを支える。
Kitterr「急ぐぞ!」
三人は再び走り始めた。
今度はAnneを二人で支えながら。
それでも止まることはできなかった。
三人は走っていた。
正確には、YajiiとKitterrがAnneを支え、二人の足でAnneを運んでいた。
後方から追跡者。
前方から警備員。
挟まれたまま、それでも進む。
Kitterr「Anne!」
Anne「はい」
Kitterr「逃げ道は?」
Anne「確認します」
Anneの視界が淡く光る。
周囲を分析する。
右。
壁。
左。
通路。
前方。
警備員。
後方。
追跡者。
そして。
足元。
Anneの視線が止まった。
Anne「……」
Yajii「どうした?」
Anne「床下を確認します」
Kitterr「今かよ!」
Anne「必要です」
Anneが床へ手を伸ばす。
触れる。
内部センサーが作動する。
床材。
梁。
配管。
その下。
空洞。
さらに奥。
大きな空間。
Anne「……」
Yajii「何かあるか?」
Anne「下に空間があります」
Kitterr「また下かよ」
Yajii「どれくらい?」
Anne「現在位置から約三メートル下です」
Kitterr「三メートル……」
Yajii「その下は?」
Anne「大きな空間が広がっています」
Yajii「……」
Yajiiが後ろを見る。
追手が近い。
前方からも人の声が聞こえる。
もう逃げ道はほとんどない。
Yajii「ここに残ったら捕まるな」
Kitterr「ああ」
Yajii「前も駄目」
Kitterr「後ろも駄目」
Yajii「だったら」
Yajiiは足元を見る。
古い床。
腐食した金属。
何度も補修された跡。
Yajii「下しかねえな」
Kitterr「……そうなるか」
Anne「下へ移動することを推奨します」
Kitterr「お前は簡単に言うなあ」
Anne「他に経路がありません」
Kitterr「そうなんだよな……」
後方から怒鳴り声が響く。
男「いたぞ!」
Yajii「来た!」
Yajiiが床を見る。
Yajii「これ、抜けるか?」
Anne「床材の強度は低下しています」
Yajii「つまり?」
Anne「衝撃を加えれば、破損する可能性があります」
Kitterr「可能性かよ」
Anne「はい」
Yajii「三人なら?」
Anne「成功確率は上昇します」
Yajii「よし」
Kitterr「……本当にやるのか?」
Yajii「ああ」
Yajiiは一歩下がった。
Kitterrも下がる。
Anneも床の中央に立った。
Yajii「Anne」
Anne「はい」
Yajii「ジャンプできるか?」
Kitterr「おい」
Yajii「なんだ?」
Kitterr「まさか飛び降りるつもりか?」
Yajii「三メートルだろ」
Kitterr「三メートルだから言ってんだよ!」
Yajii「Anneは?」
Anne「可能です」
Yajii「よし」
Kitterr「よしじゃねえ!」
Anne「床を破壊するためには、三人で同時に衝撃を加えることが合理的です」
Kitterr「お前まで言うのかよ!」
後方から足音。
もうすぐそこまで来ている。
Yajii「覚悟決めるぞ」
Kitterr「……ああ」
Kitterrは腹を括った。
どうせここにいても捕まる。
なら……下へ行くしかない。
Yajii「いくぞ!」
Kitterr「おう!」
Anne「了解しました」
三人が同時に跳んだ。
ドンッ!
床が大きく震えた。
だがまだ抜けない。
Yajii「もう一回!」
Kitterr「分かった!」
Anne「再実行します」
三人が再び跳ぶ。
そして足を揃えて床を踏み抜いた。
ドゴォォン!
床材が砕けた。
古い梁が折れる。
腐食した金属が曲がる。
床が大きく沈み込む。
Kitterr「抜けた!」
Yajii「よし!」
Anne「落下します」
Kitterr「分かってる!」
床が完全に崩れた。
三人の身体が暗闇へ落ちていく。
Yajii「うわああああ!」
Kitterr「おいおいおい!」
Anne「……」
約三メートル。
その下には。
Anneが探知した大きな地下空間が広がっている。
だがそこへ着地する前に。
Yajiiの身体が何かに触れた。
Yajii「……ん?」
ズルッ。
身体が前へ滑った。
Yajii「うわっ!」
Kitterr「なんだ!?」
Kitterrも着地する。
だが足元が滑る。
Kitterr「うわああ!」
Anneも着地した。
しかしAnneの足も止まらない。
Anne「……」
ズズッ。
身体が前へ流れる。
その先地下空間の床は、巨大な斜面になっていた。
Yajii「おい!」
Kitterr「なんだ!」
Yajii「これ、床じゃねえ!」
Kitterr「何だよ!」
Yajii「坂だ!」
Kitterr「見りゃ分かる!」
三人の身体が一気に斜面へ入った。
ズズズズズ……!
Yajii「うわあああああ!」
Kitterr「止まれえええ!」
Anne「制動不能です」
Kitterr「お前までかよ!」
斜面は想像以上に長かった。
壁に手を伸ばしても。
手をつく場所がない。
足を踏ん張っても。
靴底が滑る。
金属。
油。
水。
何か分からない液体。
それらが混ざり合い、巨大なスライダーのようになっている。
Yajii「なんだこれえええ!」
Kitterr「知らねえよ!」
Yajii「Anne!」
Anne「はい」
Yajii「止められるか!」
Anne「現在、制動能力を確保できません」
Kitterr「そんな報告いらねえ!」
速度がさらに上がる。
ズズズズズ……!
前方に何かが見える。
大量の廃棄物。
金属片。
配線。
古い機械。
そして何か生き物のようなもの。
Yajii「……」
Kitterr「……」
Anne「……」
Yajii「なんかいるぞ!」
Kitterr「前を見ろ!」
Yajii「いや、見ろよ!」
Kitterr「今見る必要ねえ!」
さらに加速する。
Yajii「足つっぱれ!」
Kitterr「無茶言うな!」
Yajii「俺がやる!」
Yajiiが足を突っ張る、が。
ズルッ!
Yajii「うわあああ!」
Kitterrにぶつかる。
Kitterr「おい!」
Kitterrもバランスを崩す。
Anneが二人を支えようと手を伸ばす。
だが、Anneの身体も止まらない。
Anne「……」
三人は絡まりながら。
地下の斜面を滑り落ちていく。
上からは追跡者たちの声。
男「……落ちたぞ!」
男「下が見えない!」
しかし三人には、もうその声すら遠い。
ズズズズズ……。
斜面の先は暗い。
その先に何があるのか。
誰にも分からない。
Yajii「おい!」
Kitterr「なんだ!」
Yajii「これ、いつ止まるんだ!?」
Anne「……」
Anneが前方を確認する。
暗闇。
その先にさらに巨大な空間。
Anne「……終点を確認できません」
Kitterr「おい!」
Yajii「つまり?」
Anne「まだ滑ります」
Kitterr「それを先に言え!」
ズズズズズ……!
三人はそのままさらに地下深くへ、
猛烈な勢いで滑り落ちていった。




