第12話 置いて行くか?【前編】
ギシッ。
足元の床が沈んだ。
Yajii「……」
Kitterr「……」
Anne「……」
次の瞬間。
バキバキッ!
床が一気に崩れた。
Yajii「うわあああ!」
Kitterr「おい!」
Anne「……!」
三人の身体が、床の下へ投げ出される。
落下したのは、約三メートル。
それほど長い落下ではない。
だが、三人とも着地の姿勢を取る余裕はなかった。
ドスン!
Yajii「ぐえっ!」
Kitterr「痛ってえ!」
Anne「……」
Yajiiの上にKitterr。
その上にAnne。
三人が見事なほど重なった。
Yajii「……重い」
Kitterr「俺じゃねえ!」
Yajii「じゃあ上」
Kitterr「Anneだよ!」
Anne「……」
Anneがゆっくり身体を起こした。
Kitterrが横へ転がる。
Yajiiも起き上がる。
Yajii「……生きてるな」
Kitterr「当たり前だろ」
Yajii「三メートルだぞ」
Kitterr「さっき十二メートルとか言ってただろ」
Yajii「それよりは低い」
Kitterr「比較するな」
上から声が響いた。
男「下だ!」
男「落ちたぞ!」
Kitterr「話してる場合じゃねえ!」
Yajii「走るぞ!」
三人は一斉に走り出した。
地下に新しく現れた通路は狭かった。
しかし、立ち止まるわけにはいかない。
追手があきらめるとは思えない。
まだ警備員がいるはずだ。
Yajiiは全力で走った。
Kitterrも続く。
Anneも走る。
瓦礫を飛び越える。
配管を避ける。
角を曲がる。
そのたびにAnneが進路を判断する。
Anne「左です」
Yajii「左!」
三人が左へ飛び込む。
Anne「次、右」
Kitterr「右!」
さらに曲がる。
遠くから怒鳴り声が聞こえる。
男「待て!」
Yajii「待てって言われてもなあ!」
Kitterr「待つ奴がいるか!」
そして銃声。
パシュッ!
壁が弾け飛んだ。
Kitterr「撃ってきやがった!」
Yajii「もっと速く!」
Kitterr「これ以上どうしろってんだ!」
Anneが前方を見る。
Anne「前方に障害物」
Yajii「飛べ!」
Kitterr「お前が言うな!」
三人は積み上がった廃棄物を飛び越える。
Anneも軽々と越えた。
そのまま三人は走り続ける。
だが、Anneの内部では、警告が繰り返されていた。
【ENERGY LOW】
【COMBAT FUNCTION LIMITED】
Anneは表示を確認する。
残量が少ない。
ここまでの作業。
敵との遭遇。
逃走。
すべてがエネルギーを消費している。
このまま走り続ければ、さらに出力が落ちる。
まだ走れる。
だからこのまま走りつづける。
Yajii「Anne!」
Anne「はい」
Yajii「大丈夫か!」
Anne「問題ありません」
Kitterr「……」
Kitterrが振り返った。
Anneは走っている。
だが、ほんの少し遅い。
さっきまでなら、二人のすぐ後ろを走れていた。
今は、わずかだが、離れている。
Kitterr「……なあ」
Yajii「なんだ?」
Kitterr「Anne、遅くねえか?」
Yajii「……」
Yajiiも振り返る。
Yajii「確かに。おい、Anne」
Anne「はい」
Yajii「走れるか?」
Anne「可能です」
Yajii「でも遅くなってるぞ」
Anne「エネルギー消費による出力低下です」
Kitterr「やっぱりか」
Anne「問題ありません」
Kitterr「今はその言葉が一番問題あるんだよ」
Yajii「そうだぞ」
Anne「……そうですか。不都合でしたら、置いていってください」
Yajii「なに言ってるんだよ!」
Kitterr「そうだぞ!」
Anneはまた走る。
しかし。
一歩。
二歩。
三歩。
足の動きがわずかに遅れる。
頭を動かす。
遅れる。
腕を動かす。
遅れる。
身体の制御そのものに、微かな遅延が生じていた。
それでも。
Anneは走る。
Anne「前方に三名」
Kitterr「またか!」
Anne「後方、六名」
Yajii「増えてねえか?」
Kitterr「合流したんだろ!」
Yajii「じゃあ、どっちへ行く?」
Anne「左です」
Yajii「左!」
三人が曲がる。
その直後。
Anneの足が、わずかにもつれた。
Anne「……」
身体が傾く。
Anneは体勢を戻そうとした。
だが一歩遅れた。
足が床を捉えられない。
Anne「……っ」
ドサッ。
Anneが倒れた。
Yajii「Anne!」
Yajiiが振り返る。
Kitterrも止まる。
その瞬間、遠くから鋭い音が響いた。
パシュッ!
パシュッ!
パシュッ!
複数の熱線銃が一斉に火を噴いた。
Kitterr「伏せろ!」
だが、Anneは倒れたままだ。
熱線が迫る。
一本。
二本。
三本。
すべてがAnneの胸部へ集中する。
Anne「……」
直撃。
その瞬間。
Anneの胸部から、凄まじい光が放たれた。
ドォン!
熱線のエネルギーが四方へ弾ける。
白い光が通路を満たした。
壁が照らされる。
床が照らされる。
廃棄物の山が、一瞬だけ昼間のように浮かび上がる。
そして、光が消えた。
そのままAnneは動かない。
Yajii「……Anne?」
返事はない。
Kitterr「おい……」
Yajiiが近づく。
胸部を見る。
熱線をまともに受けたはずなのに。
傷がない。
焦げ跡すらない。
それなのに。
Anneは倒れたままだった。
Yajii「……」
Kitterr「……駄目か?」
Yajii「分からん」
後方から追手の声が響く。
男「当たったぞ!」
男「よし!動かない!」
Kitterrが歯を食いしばる。
Kitterr「……しょうがねえ」
Anneを見る。
Kitterr「置いて行くか?」




