第11話 とりあえず、雰囲気が悪い【後編】
Kitterr「そうだな、逃げ切れたらな」
Yajii「よし!」
Yajiiは走り出した。
Kitterr「おい!」
Kitterrも追いかける。
Anneは二人の後ろについた。
三人は通路を走った。
前方には武装した男たち。
後方からも、別の足音が近づいている。
Anneは二人の後ろを走りながら、周囲の状況を確認していた。
前方。
後方。
左右の通路。
逃走可能な経路。
そのすべてを、瞬時に処理していく。
Yajii「なあAnne!」
Anne「はい」
Yajii「どっちに逃げればいい?」
Anne「左です」
Yajii「左!」
Kitterr「分かった!」
三人が左の通路へ飛び込む。
その直後。
背後から怒鳴り声が響いた。
男「待て!」
Yajii「待てって言われてもなあ!」
Kitterr「聞いていられるかよ!」
Yajii「だよな!」
二人はさらに走る。
Anneは後ろを振り返らない。
振り返る必要がない。
後方の人数も。
距離も。
移動速度も。
すべて把握している。
Anne「後方、距離八百メートル」
Yajii「まだ八百か!」
Kitterr「さっきより近づいてる!」
Yajii「じゃあもっと走れ!」
Kitterr「お前が言うな!」
Anne「前方に分岐があります」
Yajii「どっちだ?」
Anne「右です」
Yajii「右!」
三人が右へ曲がる。
通路はさらに狭くなった。
Yajii「ここ、通れるのか?」
Anne「通れます」
Yajii「お前が言うなら――」
Anneの肩が壁にぶつかった。
ゴンッ。
Anne「……」
Yajii「……」
Kitterr「……」
Anneは何事もなかったように走り続ける。
Yajii「今、ぶつかったよな?」
Anne「はい」
Yajii「通れるって言ったよな?」
Anne「はい」
Kitterr「お前、また距離を間違えたのか」
Anne「……」
Anne「学習しました」
Yajii「何を?」
Anne「壁との距離です」
Kitterr「それ、前にも似たようなの聞いたぞ」
Anne「……ええ」
そしてAnneは黙って走った。
後ろから足音が迫る。
前方にも人間の反応。
Anneの目が淡く光る。
Anne「前方に人間を確認」
Yajii「また?」
Kitterr「何人だ?」
Anne「複数です」
Yajii「……」
Kitterr「まさか」
Anne「武装しています」
Yajii「やっぱりかよ!」
三人の足が少しだけ遅くなる。
やがて前方の暗がりから、人影が現れ始めた。
後方からも足音。
結局前にも後ろにも……。
どんどん逃げ道が狭まっていく。
Kitterr「Anne!」
Anne「はい」
Kitterr「これ、どうするよ?」
Anneは前方を見る。
それから後方を見る。
Anne「別の経路を検索します」
Yajii「頼む!」
Anneの目が、再び淡く光った。
壁の向こう。
通路の構造。
使われていない搬入口。
その先につながる細い通路。
Anne「右側に通路があります」
Yajii「え?何も見えねえぞ」
Anne「あの壁の向こうです」
Kitterr「壁の向こうだって?」
Anne「はい」
Yajii「そんなとこ、どうやって行くんだ?」
Anne「……」
Anneが壁を見る。
Yajii「おい」
Kitterr「待て」
Anne「この壁を――」
Kitterr「壊すな!」
Anne「……分かりました」
Yajii「普通に探そう!」
Anne「はい」
三人は再び走り出す。
後方からの足音がさらに近づいてくる。
Anne「距離、六百メートル」
Yajii「まだか!」
Anne「五百メートル」
Kitterr「近い!」
Anne「4百七十」
Yajii「Anne!」
Anne「はい」
Yajii「何とかしてくれ!」
Anne「何をですか?」
Yajii「……」
Kitterr「そこから説明が必要なのかよ!」
Yajii「とにかく何とかだ!」
Anne「分かりました」
Anneは前方を見る。
通路の先。
一つの扉がある。
Anne「出口を確認しました」
Yajii「よし!」
三人は扉へ向かって走る。
Yajiiが手を伸ばす。
だが、その瞬間。
扉の向こうから、複数の足音が聞こえた。
Yajii「……」
Kitterr「……」
Anne「前方にも人間がいます」
Yajii「またかよ!」
Kitterr「挟まれたな」
Yajii「どうする?」
Anne「……」
Anneは周囲を確認する。
右。
左。
後方。
……そして下。
床を見る。
Anne「下に空間があります」
Yajii「下?」
Anne「はい」
Kitterr「どういう意味だ?」
Anne「この床の下に、別の空間があります」
Yajii「……」
Kitterr「まさか」
Yajii「まさかって何だ?」
Kitterr「嫌な予感しかしない」
Anne「このままでは前後から接触します」
Yajii「つまり?」
Anne「下へ移動する必要があります」
Yajii「下って……」
三人が足元を見る。
古い床。
ところどころ腐食している。
Yajii「これ、抜けないか?」
Kitterr「抜けたらどうする?」
Yajii「そのとき考える」
Kitterr「考えてからにしろ!」
Anne「……」
Anneが床を見つめる。
その時、後方から男たちの声が響いた。
男「いたぞ!」
Yajii「来た!」
Kitterr「もう時間がない!」
Anneは二人を見る。
Anne「下へ移動します」
Yajii「おう!」
Kitterr「待て!」
三人が一か所へ駆け寄る。
そして床が小さく軋んだ。
ギシッ。
Yajii「……」
Kitterr「……」
Anne「……」
もう一度。
ギシッ。
Yajii「これ……」
Kitterr「言うな」
Yajii「落ちるんじゃねえか?」
Kitterr「言うなって!」
その瞬間。
床が大きく沈んだ。
ズズズ……。
Yajii「うわっ!」
Kitterr「おい!」
Anne「……」
三人の足元から、床が崩れ始めた。




