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浮気旦那の隠し方が完璧すぎたので、こちらも完璧に復讐の準備することにしました  作者: こまめ


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第三十一章 愛人のための予約

※不定期更新です♪

応援や評価していただけるとやる気が満ち溢れて

更新早くなります笑

亮平が出ていったあと、家の中はいつも通りだった。


洗濯機が回る音。

キッチンの換気扇の低い音。

美月が学校へ持っていく水筒。

悠真が脱ぎっぱなしにした靴下。


何も変わっていない。


夫が今、愛人との旅行へ向かっていること以外は。


私は玄関の方をしばらく見ていた。

さっきまでそこに亮平がいた。


泊まりの出張だからと言って

私が支度したボストンバッグを持って出ていった。


その出張が嘘であることを私は知っている。


南條からの事前報告で、亮平が今日

有給を取っていることは確認済みだった。


会社には行かない。

打ち合わせもない。

先方との宿泊もない。


玲奈も同じだった。


会社には、風邪をひいたと連絡を入れているらしい。


風邪で休む女と、有給を取った男。


その二人が、少し離れた駅で落ち合い

箱根の高級旅館へ向かう。


それを出張と呼ぶには、あまりにも汚い。


私はリビングに戻り

テーブルの上の家族旅行の写真を見た。


美月が浴衣で笑っている。

悠真がバイキングの皿を両手で持っている。

亮平はその後ろで、父親の顔をして笑っていた。


あの日、宿を探したのは私だった。

予約したのも私だった。

子どもたちの着替えを詰めたのも私だった。

旅館までの時間を調べ、夕食の時間を確認し

忘れ物がないようにチェックしたのも私だった。


亮平はただ行こうと言っただけ。


それなのに、玲奈との旅行は違う。


高級旅館を予約したのは、多分亮平だろう。

有給を取り、待ち合わせ場所を決め

会社にばれないように動線まで考えた。


家族のためには動かなかった男が

愛人のためには自分で動いている。


その事実が、私の中の何かを真っ黒に染めた。


ふざけるな。


私は心の中で呟いた。


私と子どもたちには、任せきり。

玲奈には、自分で宿を選び

時間を作り嘘まで用意する。


妻を家政婦のように使い、愛人には恋人の顔をする。


それでも今、私は何も知らない妻でいなければならない。


怒鳴らない。

止めない。

問い詰めない。

完璧な復讐を遂げるまで


行かせる。

もっと深くまで。

戻れないところまで。



午前十時半、南條から最初の報告が届いた。


『藤堂氏、自宅出発後、会社方面には向かわず。

私鉄沿線の駅へ移動中。本日は有給取得済み。

会社への出社予定なし。』


私は画面を見つめた。


やはり。


亮平は私に朝は会社に寄ってから

向こうへ移動すると言った。


嘘だった。


会社に寄る必要などない。

スーツを着て、出張用のバッグを持ち

仕事の顔をして出ていっただけ。


続けて報告が来る。


『桐島玲奈、本日欠勤。

社内には体調不良、風邪と連絡あり。

自宅方面より移動確認中。』


風邪。


私は短く笑った。


風邪で休んだ女が、キャリーケースを引いて

男と旅行へ行く。


あまりにもわかりやすい嘘なのに

会社では誰も気づかない。

あるいは、気づいても確証がない。


だから二人は大胆になる。

大胆なのに、慎重なふりをする。


待ち合わせは会社近くではなかった。


南條から届いた写真には、

家からも会社からも少し離れた駅の改札前が写っていた。


人通りは多いが、会社関係者に偶然会う可能性は低い場所。


亮平は改札から少し離れた柱の近くに立っていた。

手には私が詰めたボストンバッグ。

スマホを見ている。


次の写真。


玲奈が写っていた。

小さなバッグではなかった。


白に近いグレージュのキャリーケース。

肩には上品な革のバッグ。

淡いブルーのニットに、アイボリーのコート。


仕事の出張ではない。


完全に旅行の荷物だった。

玲奈は表情を明るく笑っていた。

写真でもわかるほど、嬉しそうだった。


家族旅行を知って苦しんだ女が、今度は自分も連れて行ってもらえると信じて、私の夫に向かって笑っている。


二人は少し距離を取りながら同じ改札を抜けていく。


恋人のように手を繋いではいない。

でも、他人ではない。


その距離の取り方が、かえって二人の関係を物語っていた。


南條からメッセージが入る。


『合流確認。

二人は特急へ乗車予定。

指定席は隣同士。

藤堂氏のバッグは車内持ち込み。

機器の通信は断続的に拾えています。』


ここで使っているのは、ただの録音機ではない。


鷺沼が用意したのは

通信機能つきの小型集音レコーダーだった。


バッグの中で録音もする。

同時に、電波状況がいい時だけ、断片的に音声を送れる。

盗聴器というより、録音機に近い。

距離があるため、尾行する南條に頼んだ。

ただし、鷺沼は最初に言った。


「期待するな。バッグが近くになければ拾えない。布擦れも入る。通信も途切れる。証拠の本命にするな。補助だ」


それでも十分だった。


二人の声が少しでも拾えればいい。


亮平が玲奈に何を言うのか。

玲奈が何を求めるのか。

その一部が取れれば、後は南條の写真と宿泊記録で繋げられる。


私はスマホを握りしめた。


この旅行は、ただの不倫旅行では終わらせない。


昼過ぎ、最初の音声が届いた。


特急の車内らしい。


走行音。

車内アナウンス。

そして、玲奈の抑えた声。


「本当に、来られたんですね」


声が弾んでいた。


隠そうとしても隠しきれない歓喜。

亮平の声が低く返る。


『約束しただろ』


『でも、家族旅行のすぐ後だったから……やっぱり無理かなって思ってました』


家族旅行のすぐ後。

玲奈は知っている。

知ったうえで、この旅行を欲しがった。


亮平は少し笑った。


「玲奈にも、ちゃんと時間を作りたかったんだよ」


沈黙。


その後、玲奈の声が小さく入る。


「嬉しいです。本当に」


その声は、柔らかく震えていた。


私はイヤホンをつけたまま、キッチンの椅子に座っていた。


私が家族旅行の荷物を片づけている間に。

美月が買ったキーホルダーを机に飾っている間に。

悠真がまたバイキング行きたいと言っている間に。


あの女は、夫から自分の時間をもらって喜んでいる。


亮平が言う。


「展示会も頑張ってくれたしな。お祝いもしないと」


「仕事のお祝いですか?」


玲奈の声が、少し甘えた。


亮平は、少し間を置いた。


「それだけじゃない」


玲奈が黙る。


きっと笑っている。


「二人で、ちゃんと話す時間も必要だと思ってた」


「これからのこと、ですか」


「うん」


私は目を閉じた。


来た。


この旅行は、ただ体を重ねるためだけではない。


玲奈は未来を求めている。

亮平は未来を匂わせて、この女を連れてきた。


玲奈の声が、少しだけ近くなった。


「私、今日すごく嬉しいです。家族旅行のことを聞いた時、正直、苦しかった。でも亮平さんが私とも来てくれるって言ってくれて……私の事もちゃんと考えてくれてるんだなって。私の居場所を作ってくれた気がしました」


私の居場所。


あなたの場所なんてない。


私の家族の中にあなたの席なんてない。


亮平は優しく言った。


「玲奈の場所は、ちゃんとあるよ」


音声はそこで少し乱れた。


私はイヤホンを外しそうになった。

でも、まだ外さない。

聞かなければならない。


私が壊す相手が、どこまで醜いのかを。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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