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浮気旦那の隠し方が完璧すぎたので、こちらも完璧に復讐の準備することにしました  作者: こまめ


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第二十四章 DMの罠

※不定期更新です♪

応援や評価していただけるとやる気が満ち溢れて

更新早くなります笑

ホテルの化粧室で、私はしばらく動けなかった。


個室の鍵を閉めたまま、便座の蓋の上に腰を下ろし

両手で口元を押さえていた。


泣いているわけではない。

吐きそうなわけでもない。


ただ、体の内側から震えていた。


玲奈は言った。


同じ会社。

課長。

展示会。

昇進。

奥さん。

子ども。

夫婦は終わっている。

昇進したら考える。

奥さんに負けたくない。



ひとつひとつの言葉が

私の中に冷たい釘のように残っていた。


あの女は知っていた。

知っていたのだ。


亮平に妻がいることを。

子どもがいることを。

家庭がある事を。

それでも関係を続けている。


知らなかった、では済まない。

騙されていただけでも済まされない。


絶対に逃がさない。


鏡の前に立つと、高瀬律子がこちらを見返していた。


ダークブラウンのウィッグ。

透明感のあるブラウンの眼鏡。

少し低く整えた目元。

落ち着いたネイビーのワンピース。


さっきまで玲奈の前で微笑んでいた。


妻の私は、あの場にいなかった。

母親の私は、あの場にいなかった。


いたのは、高瀬律子だけだった。


だから耐えられた。


もし藤堂紗季としてあそこに座っていたら

私はきっと、紅茶のカップを掴んであの整った白い顔に投げつけていたかもしれない。


けれど、それでは私の計画が終わる。



玲奈は泣く。

亮平は妻が勘違いをして感情的になったと言う。

会社も周囲も、あの女の清楚な外面に騙される。

私だけが悪者にもなり得る。


そんな終わり方だけは、絶対に嫌だ。



復讐は、怒鳴ることではない。

相手が守りたいものの中心に

相手自身の言葉で亀裂を入れ壊す


私は蛇口をひねり、冷たい水で指先を濡らした。


鏡の中の高瀬律子が、静かに息を整える。


玲奈は、今日、自分の口で真実を告げた。


次は、亮平の番だ。



麻衣の家に戻ると、南條と御影がすでに来ていた。


鷺沼からはメールが届いていた。


映像、音声ともに取得。

予備音声も問題なし。


相変わらず、鷺沼らしい文面だった。


余計な慰めも、感想もない。

必要な事実だけが置かれている。


今の私には、それで十分だった。


麻衣は私を見るなり、何も言わずに抱きしめた。


一瞬だけ、私はその腕に体重を預けた。


その瞬間だけ、藤堂紗季に戻った気がした。

でも、すぐに離れた。


まだ崩れるには早い。


ウィッグを外す。

カラコンを外す。

眼鏡を外す。

リップを落とす。


高瀬律子が少しずつ消えていく。


鏡の中に戻った藤堂紗季は、朝の私とは違っていた。


夫の愛人の口から、夫の嘘を聞いた妻。

そして、その音声を手にした妻。


もう、疑いではない。


亮平と玲奈が、私の人生をどれだけ軽く扱っていたかを。


リビングに戻ると、南條が録音データを再生する

準備をしていた。


「全部、確認しますか」


私は頷いた。


「聞きます」


麻衣が心配そうに私を見る。


「紗季、無理しなくていいよ」


「無理してないよ」


そう答えた声は、自分でも驚くほど冷たかった。


「これは、私が聞くべきものだから」


録音が流れた。


ラウンジのざわめき。

カップの触れる音。

私の声。

玲奈の声。


同じ会社なんです。

課長です。

展示会がうまくいけば、次長になれるかもしれなくて。

奥さんはいます。

子どももいます。

夫婦としては、もう終わっているって。

昇進したら考えるって。

私、奥さんに負けたくないんです。


麻衣は途中で口元を押さえた。


南條は黙ってメモを取る。

御影は、玲奈の声の揺れを聞くように目を伏せていた。


録音が終わると、部屋はしばらく静かになった。


最初に口を開いたのは、南條だった。


「非常に大きいです」


「証拠として?」


「はい」


「弁護士がどう組み立てるかは別として、少なくとも桐島玲奈が相手に妻子がいることを認識していた。そのうえで関係を続け、奥様への対抗意識も持っていた。その確認としては強い」


奥様への対抗意識。


上品な言い方だと思った。


玲奈は、私を敵として見ていた。

顔も知らないくせに。

私が何を守ってきたかも知らないくせに。


麻衣が低く言った。


「もう完全に逃げられないじゃん」


御影が静かに言った。


「ここで終わりではありません」


私は御影を見た。


「どういう意味ですか」


「彼女は、きっと動くでしょうね」


御影は録音の一部を指差した。


「今日の会話で、彼女は自分が待たされている側だと強く意識しました。特に、彼の言葉ではなく行動を見ること、曖昧にしないこと。あれは彼女に残ります」


「亮平に確認する、ということですか」


「はい」


御影は淡々としていた。


「彼女はただ責められたいわけではありません。選ばれたいんです。だから次は、彼からもっとはっきりした言葉を引き出そうとします」


南條が頷いた。


「こちらとしては、その動きが欲しい」


私は理解した。


玲奈が亮平へ、より具体的な未来を求める。

昇進したらどうするのか。

奥さんとは本当に終わっているのか。

いつまで待てばいいのか。


その会話が残れば、二人の関係はさらに濃くなる。


けれど同時に、胸の奥がざわついた。


亮平はどう答えるだろう。


逃げるのか。

誤魔化すのか。

それとも、玲奈を繋ぎ止めるために

もっと甘い嘘を吐くのか。


たぶん、後者だ。


亮平は、馬鹿ではない。


馬鹿ではないからこそ、必要な人間に必要な言葉を与える。


私には、優しい夫の言葉を。

子どもたちには、頼れる父親の言葉を。

玲奈には、未来を匂わせる恋人の言葉を。


その全部を使い分ける男なのだ。


「明日、律子として短くメッセージを送ってください」


御影が言った。


「どんな文面ですか」


「相手の言葉を信じたい時ほど、行動も見てください。答えを急がなくていい。ただ、曖昧なまま自分だけが苦しくなる関係なら、確認することも必要です」


麻衣が眉を寄せた。


「それ、玲奈を亮平さんのところに行かせるってことですよね」


御影は否定しなかった。


「ええ」


麻衣が私を見る。


「紗季、大丈夫?」


「‥‥‥」


私は正直に言った。


「でも、必要なことだと思う」


亮平が玲奈に何を言うのか。


それを聞かなければならない。


私が知っている亮平は、もういない。

家で笑っている夫も、父親の顔をしている男も

全部、役割の一つにすぎない。


本当の亮平は、都合のいい言葉をどれだけ持っているのか。


それを知らなければ、壊し方を決められない。



その夜、私はいつも通りの時間に家へ帰った。


玄関を開けると、悠真の笑い声が聞こえた。


リビングでは、亮平がゲーム機を持って悠真の隣に座っていた。

美月はダイニングテーブルで宿題をしている。


「おかえり」


亮平が顔を上げた。


その顔に、罪悪感はなかった。


父親の顔。

夫の顔。

家庭の中に何も失っていない男の顔。


私は一瞬、息ができなくなりそうだった。


この人は今日、私がどこにいたのか知らない。

自分の愛人が妻に向かって奥さんに負けたくないと言ったことも知らない。

自分が玲奈に吐いた嘘が、こちら側に渡ってきたことも知らない。


何も知らずに、悠真へ

そこ右と言って笑っている。


「ただいま」


私は笑った。


「麻衣ちゃんと?」


「うん。少し長くなっちゃった」


「そっか」


それ以上、亮平は聞かなかった。


聞かない夫。


それは信頼ではない。

自分も聞かれたくないから、相手にも聞かないだけだ。


夕飯の支度をしていると、亮平が不意に言った。


「展示会が終わったらさ」


「うん?」


「久しぶりにどこか行くか。家族で」


包丁を持つ手が止まりそうになった。


家族で。


この男は、玲奈には夫婦が終わっていると言い

私には家族旅行を匂わせる。


「いいね。子どもたち喜ぶと思う」


私は答えた。


亮平は安心したように笑った。


「最近、忙しくてどこにも連れて行けてないしな」


美月が顔を上げた。


「本当? 温泉行きたい」


悠真も叫ぶ。


「僕、バイキングあるところ!」


亮平は笑った。


「わかったわかった。展示会終わったら考えよう」


展示会が終わったら。


その言葉を、玲奈にも言っているのだろうか。


展示会が終わったら、状況を変える。

展示会が終わったら、ちゃんと考える。

展示会が終わったら、家族で出かけよう。


同じ未来の先に、二つの約束を置く男。


私は味噌汁をよそいながら、胸の奥で冷たく笑った。


亮平。


あなたは本当に器用ね。


でも、二つの未来は同時には選べない。


いつか必ず、どちらかが嘘になる。


そして私は、その嘘が破れる瞬間を待っている。




翌日の昼、高瀬律子として玲奈にメッセージを送った。


昨日はありがとうございました。

カードの言葉が少し重く感じられたかもしれません。

すぐに答えを出そうとしなくて大丈夫です。

ただ、相手の言葉を信じたい時ほど、

現実の行動も同じくらい見てあげてください。

曖昧なまま苦しくなる関係なら、確認することも自分を守る一つの方法です。


送信して、すぐにアプリを閉じた。


待っているように見せない。


けれど玲奈は読む。


必ず読む。


そして考える。


亮平の言葉。

亮平の行動。

昇進したら考えるという曖昧な約束。

家に帰る男。

日曜の朝だけ会いに来る男。

会社では課長と部下の距離を守る男。


玲奈は、欲しくなるはずだ。


もっと確かな言葉を。


午後三時過ぎ、白い花から返信が来た。


昨日からずっと考えています。

私、相手の言葉だけを信じようとしていたのかもしれません。

でも、聞くのが怖かっただけかもしれません。

ちゃんと確認してみます。



ちゃんと確認してみます。



画面を見た瞬間、胸の奥が静かに鳴った。


玲奈が動く。


その先には、亮平がいる。


私は返信しなかった。


そこから先は、二人の問題だ。


そして、私たちの罠でもある。

最後までお読みいただきありがとうございました。

少しでも心に残るものがありましたら、リアクションや評価のお星様をポチッと押していただけますと、飛び跳ねて喜びます。

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