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浮気旦那の隠し方が完璧すぎたので、こちらも完璧に復讐の準備することにしました  作者: こまめ


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第二十三章 巧みな誘導

※不定期更新です♪

応援や評価していただけるとやる気が満ち溢れて

更新早くなります笑

私は三枚目のカードに目を移した。


代償。


玲奈も、そこから目を離せずにいた。


『ここが本題です。誰が失うかを聞いて。彼女自身ではなく、周囲に目を向けさせる』


御影の声が、いつもより少しだけ低かった。


私は、その言葉を慎重に受け取った。


「三枚目は、代償です」


玲奈は小さく息を吐いた。


「なんかこれが、一番嫌です」


「嫌なのに、目が行く」


「はい」


「このカードは、何かを選ぶ時に、同時に何かが失われることを意味します」


私は一度言葉を止めた。


玲奈は、まっすぐカードを見ている。


「ただ、その失われるものは、必ずしも自分のものとは限りません」


玲奈が顔を上げた


「どういう意味ですか」


「自分が欲しいものを選んだ時に、別の誰かが失うものがある。そういう時にも、このカードは出ます」


玲奈の顔から、少し色が引いた。


やっとだ。


やっと、あなたは自分ではなく他人の側に目を向けた。


私は続けた。


「桐島さんは、この関係が進んだ時に、誰が何を失うかを考えたことがありますか」


玲奈は、すぐには答えなかった。


紅茶の湯気が、二人の間を静かに昇る。


その沈黙の中で、私は夫の顔を思い浮かべていた。


あなたが失わせようとしているのは何か。


子どもたちの父親への信頼。

家庭の形。

私の十二年。

美月と悠真の何気ない日曜日。

夕飯の席で笑う時間。

学校行事で並ぶ両親の姿。


それを、あなたたちは恋という言葉で踏んでいる。


玲奈はやがて、小さく言った。


「実は彼、家庭があるです。だから奥さん……だと思います」


奥さん。


私のこと。


その言葉が、ようやく彼女の口から出た。


私はカップを持つ手に力を入れないよう、意識して指を緩めた。


『反応しないで続けて』


御影が言う。


私は静かに尋ねた。


「奥様がいらっしゃる方なんですね」


玲奈は目を伏せた。


「はい」


その一音で、十分だった。


けれど、ここで止めてはいけない。


「お子さんは?」


玲奈の肩が小さく揺れた。


「います」


内側で、何かが焼け落ちた。


知っていた。


知っていたけれど、玲奈の口から聞くと

怒りの質が変わった。


この女は、知っている。


亮平に妻がいることも。

子どもがいることも。


その上で、私の夫とホテルへ行き、日曜の朝に会い

昇進を待っている。


知らなかった女ではない。


玲奈は、知っている女だ。


私は、唇の内側を噛んだ。

この時怒りでコーヒーカップを投げつけそうになるのを

グッと堪えた。


今すぐ立ち上がりその奥さんは私ですと言えば、どんな顔をするだろう。

紅茶のカップを落とすだろうか。

白い顔がさらに白くなるだろうか。

それとも、被害者のように泣くだろうか。


見たい。


でも、まだだ。


まだ足りない。


もっと自分の言葉で語らせる。


『彼が奥さんに対してあなたにどう伝えている聞いて。

彼の説明を引き出して』


御影の声。


私は、律子として言った。


「その方は、奥様との関係について、桐島さんに何か話していますか」


玲奈は少し迷っていた。


けれど、ここまで話したことで、もう戻れなくなっていた。


「彼は夫婦としては、もう終わっているって」


出た。


亮平の嘘。


録音の中でも聞いた言葉。


「子どもがいるから、今すぐには動けない。でも気持ちはもうないって。奥さんも彼に関心がないみたいで」


私は呼吸を止めそうになった。


気持ちはもうない。


奥さんも彼に関心がない。


亮平。


あなたは、私をそう言ったのね


家で子どもの弁当を作る私を。

あなたのシャツを洗う私を。

あなたの帰りを待っていた私を。

あなたの嘘に気づかないふりをして、証拠を積み上げている私を。


関心がない妻として、愛人に差し出したのか。


胸の奥で、怒りが濁流のように膨れた。


『目線を落として。怒りが顔に出ている』


御影の声が鋭く入る。


私はカードに目を落とした。


「そう聞いているんですね」


「はい」


玲奈は頷いた。


「でも、家には帰るんです。子どもがいるからって。わかってるんですけど、時々、私だけが待っているみたいで……」


自分だけが待っている?


私は心の中で、冷たく笑った。


あなたは待っているのではない。


人の家庭が崩れるのを望んでいる。


「待つことが、つらいんですね」


律子の声で言う。


玲奈は目を潤ませた。


「つらいです。好きだから」


「そのつらさの中に、怒りもありますか」


玲奈は一瞬、私を見た。


「あります」


「誰に対して?」


玲奈は黙った。


御影の声。


『直接誘導しないで自分でも認めたくない相手と言って』


私は静かに言った。


「自分でも認めたくない相手に対して、怒りが向くこともありますか?」


玲奈の唇が、小さく震えた。


「……奥さんにあります」


その言葉を聞いた瞬間、頭の奥が真っ白になりかけた。


向かいに座る女が、私に怒っている。


私の夫と不倫をしておきながら。

私の子どもたちの父親を奪おうとしておきながら。

私が何も知らないと思い、私を家庭の中に置き去りにしておきながら。


その私に、怒っている。


ふざけるな。

意味がわからない


喉の奥まで、その言葉が上がってきた。


私はカップを持ち上げ、コーヒーを一口飲んだ。


苦味が舌に残る。


それで、なんとか自分を保った。


「奥様に怒ってるんですね。それはなぜですか」


私は繰り返した。


玲奈は、恥ずかしそうに目を伏せた。


「最低ですよね。私が悪いのに。でも、奥さんは何も知らずに彼の隣にいられる。私は待つしかない。そう思うと、どうしても……」


録音の言葉と重なった。


奥さんは何も知らずに隣にいられる。

ずるい。


この女は、本当にそう思っている。


私は静かに尋ねた。


「勝ち負けのように感じることがありますか」


玲奈は顔を上げた。


御影が耳元で短く言った。


『よく聞いて』


玲奈は、少しだけ笑った。


「あります」


そして、続けた。


「私、奥さんに負けたくないんです」


その言葉が、今度は録音ではなく、目の前で落ちた。


向かい合うテーブルの上に。

紅茶の香りの中に。

昼下がりの上品なラウンジの空気の中に。


奥さんに負けたくない。


その奥さんが、目の前にいるとも知らずに。


私は、微笑んだ。


「その気持ちを、悪いと言うことは簡単です」


玲奈は、私を見た。


「でも、カードが見せているのは、そこではないと思います」


『ここから助言です。彼女が次に取るべき行動として、彼の言葉ではなく具体的な期限、現実の行動を見るよう伝えて。曖昧な約束を許さないようにと』


御影の声が低く入る。


私は、その言葉を高瀬律子のものに変えた。


「月は、曖昧な言葉。鎖は、離れられない理由。代償は、その先で誰かが失うもの」


玲奈は黙って聞いている。


「この三枚を見る限り、桐島さんが今するべきことは、気持ちをもっと強くすることではないと思います」


「じゃあ、何を……」


「彼の言葉ではなく、行動を見ることです」


玲奈の表情が変わった。


「行動」


「はい。二人だけの場所で何を言うかではなく、会社で、家庭で、現実の中で、その人がどうするのか」


御影の声が続く。


『期限。昇進後という言葉があるならそこをついてみて』


私は少しだけ踏み込んだ。


「もし、その方が今は無理と言っているなら、何が終われば動けるのか。いつまで待つのか。そこを曖昧にしない方がいいです」


玲奈の目が揺れた。


「……実は彼、会社で昇進するかもしれないんです」


来た。


「昇進ですか」


「はい。彼、今すごく大事な時期で。展示会がうまくいけば、次長になれるかもしれなくて」


亮平の未来が、玲奈の口から語られていく。


「だから、今は何も揉めたくないって。変なことになったら全部飛ぶからって」


その言葉は、録音と一致していた。


変なことになったら全部飛ぶ。


亮平の本音。

玲奈の認識。

昇進への執着。


全部、一本の線になった。


『聞いてください。昇進後に約束しているか』


私は静かに尋ねた。


「昇進したら、何か変わると話しているんですか」


玲奈は、ためらった。


けれど、もう引き返せない。


「はっきり約束はしてくれません。でも……その時に考えるって」


「何をですか?」


「私との事です。」


その時に考える。


なんて便利な言葉だろう。


玲奈を繋ぎ止め、私を騙し、会社では昇進を狙い、子どもたちには父親でいられる。卑怯な男


私は亮平の事を全部わかっていなかった


何も決めずに、全部をものにしようとする男。


そしてその言葉にすがる女


救いようがない。


「その言葉を、桐島さんはどう受け取っていますか」


玲奈は唇を噛んだ。


「待っていい、という意味だと思いたいです」


「思いたい」


「はい」


私は、代償のカードにそっと指を置いた。


「なら、今日のカードからの助言は一つです」


玲奈が私を見る。


「思いたいではなく、本人に確認することです」


「確認……」


「その人が本当に桐島さんを選ぶつもりなら、曖昧な言葉だけではなく、現実の予定や行動が必要です。逆に、それを避けるなら、桐島さんは月の光だけを見ているのかもしれません」


玲奈は黙った。


私は続けた。


「そしてもう一つ。代償のカードは、桐島さんにこう聞いているように見えます」


御影の声が入る。


『それは誰かの人生をダメなしてまで欲しいものかと聞いてください』


私は、一度だけ息を整えた。


「その恋は、誰かの人生をダメにしてまで欲しいものですか」


玲奈の顔から、完全に笑みが消えた。


ラウンジのざわめきが遠くなる。


玲奈は、何も言わなかった。


でも、その沈黙こそが答えだった。


彼女は初めて、自分ではなく、私の側を見た。


いや、本当に私を見たわけではない。


それでも、奥さんという存在に、ほんの一瞬だけ影が差した。


「……考えたこと、なかったかもしれません」


玲奈が呟いた。

嘘だ、と思った。

悲劇のヒロインのように自分を守っている。


考えたことがないのではない。


考えないようにしてきただけだ。


それでも今日は、その言葉で十分だった。


「考えたくなかったのかもしれませんね」


私は言った。


玲奈は目を伏せた。


「高瀬さんは、責めないんですね」


「責めても、桐島さんは本当のことを見なくなると思うので」


玲奈は、しばらく私を見つめた。


その目の奥に、危うい信頼のようなものが生まれているのがわかった。


この人は責めない。

でも、逃がさない。

もっと話したら、もっと自分のことが見えるかもしれない。


玲奈はそう思い始めている。


私はカードを静かに伏せた。


「今日はここまでにしましょう」


玲奈が驚いたように顔を上げた。


「もう、ですか?」


「はい。これ以上続けると、考えるより先に感情が疲れてしまいます」


御影の助言通りだった。


本当は、私自身が限界だった。


これ以上聞けば、律子の仮面が剥がれる。


玲奈は少し名残惜しそうに頷いた。


「今日はありがとうございました。

また、機会があったらお願いしてもいいですか」


「必要だと思った時に」


「連絡しても?」


「はい」


玲奈は安心したように笑った。


「ありがとうございます、高瀬さん」


その笑顔は綺麗だった。


綺麗で、無知で、残酷だった。



玲奈と別れたあと、私はラウンジを出て

ホテルの化粧室に入った。


個室に入り、鍵をかけた瞬間、膝から力が抜けそうになった。


録音は取れている。

映像も共有できた。

御影も南條も、会話を聞いていた。


同じ会社。

上司。

展示会。

昇進。

奥さん。

子ども。

夫婦は終わっている。

昇進したら考える。

奥さんに負けたくない。


玲奈は、自分の口で語った。


もう、知らなかったとは言えない。


もう、騙されただけの女にはなれない。


私は手のひらで口元を押さえた。


泣きたいのか、笑いたいのかわからなかった。


ただ、ひとつだけはっきりしていた。


次は、亮平の番だ。


あなたが玲奈に吐いた嘘を、

玲奈自身が私に語った。


あなたの昇進も、

あなたの保身も、

あなたのその時に考えるも


全部、こちら側に渡ってきた。


玲奈。


あなたは今日、妻にカードを引かせた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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