25 逆襲。
格闘技なら審判が積極性の警告を発するタイミングだが、この戦いに審判はいなかった。
だが、バンガオ自身がその状況に納得いかなかったようだった。
同じ距離を保ったままぐるぐると回りながら、バンガオが少し困ったように言った。
「適当にいなして終わりにしたかったんだが、思った以上だった。こっちから手を出さないとやられちまうな」
俺は追いながら笑顔で答えた。
「やられて全然いいと思いますよ」
「そうもいかんだろ。お前をなめるのはやめた」
「そんなぁ……まだ俺ーー僕はガキですよ」
「ガキは自分のことをガキだと言わん。それよりお前、なんて名前だ?」
「なんですか、いきなり」
「ちゃんとした敵なら名前を知っておかなくちゃと思ってな。あ、名前を教えないからって手加減とかはするつもりはねぇ。むしろちょっと強めに殴る」
「アルカスです!」
「そうか。アルカスよ、お前を敵として認める」
バンガオの気配が変わった。
「……がんばって耐えてくれ」
バンガオが踏み込んできた。
凄まじい速度だった。コマ送りのようにバンガオが俺の目の前にいた。俺は死ぬほど驚いた。
「ふん!」
防御も何も無い腹に向けてのアッパーカット気味のフック。かろうじて俺は腹に熱を集めた。
トラックにはねられたような衝撃だった。
気がつくと俺の周囲には何も無かった。
本当に何も無かった。
俺は百メートルほど空中に撃ち出されていた。
本気になったバンガオの拳はとんでもない威力だった。
脚に熱を溜め、地面に着いた俺を、バンガオの蹴りが襲った。技も何も無い大木を振り回すような一撃だった。
俺は下半身の感覚がまるで無かったが、とにかく動かなくてはならなかった。目の前にあるバンガオの右脚に俺は膝をあわせようとして、その直後、力が抜けた。
ガクンと膝が折れて、俺は仰向けに倒れた。腰が抜けたような感じだった。フックのダメージがそこまで大きかったのだ。
倒れた俺の顔の上をバンガオの右脚が通り過ぎた。
それを俺は見ていることしかできなかった。
ローキックでうまく状況を作っていたつもりだったが、たった一撃で盤面をひっくり返された。
力の差はあまりにも大きかった。下半身はまだしびれがあるが痛みと共にゆっくりと感覚が戻りつつある。とはいっても起き上がれるほどではなかった。
バンガオが倒れた俺の横で仁王立ちになって、見下ろした。
「俺の勝ちでいいな?」
反論ができなかった。
次の瞬間、盗賊達が歓声を上げた。
頭目も、
「決まりだな」
俺たちのことは忘れたように部下の方を向いて、
「いいかお前ら、女子供には手を出すな! だが女子供以外は関係ねぇ。お前ら、仕事の時間だぜ! 郷に押し入れ! 稼げ!」
盗賊たちはようやく許可が出たことに雄叫びを上げて郷の周囲を囲う柵を引き倒し、侵入していった。
マイアが涙を浮かべながら寝たままの俺に駆け寄ってくるのが見えた。
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