21 企画外すぎません?
スーパープロレスラーはなんというか豪傑の風格を持っていた。
強そう、というよりは、勁そうといった雰囲気で、ギリギリに絞られたバネの気配というか、見ているだけでどこか萎縮を感じてしまう。
暴力の雰囲気と言うだけではなかった。そこには意志の強さが感じられた。何にも負けない、何にもぶれないだろう気配。
こいつに付いていけば楽だろうな、と俺の心の奥底で燻っていた下っ端本能が囁いていた。
そんなスーパープロレスラーを前に俺は逃げ出したくなったが、俺のすぐ後ろにマイアがいるという事実がなんとか足を止めさせた。
そのスーパープロレスラーは大の大人をぶら下げたまま俺を黙って見ていた。
俺も黙っているとスーパープロレスラーの横にいた派手なおっさんが馬に乗ったまま進み出た。
「おいおいおいおい。少年……俺たちをジルガンの鷹だと知ってこの狼藉かい?」
なんだか気取ったしゃべり方で、えらそうな態度とどこから手に入れたのかやけに装飾の多い鎧からどうやらこの普通の体格の全然強そうではないおっさんが盗賊団の頭目らしかった。
イケメンがスーパープロレスラーと比べるとずいぶんと格下に見えた。
老けたホストといった感じの元イケメンで、酒焼けしたのか顔がずいぶん赤かった。スーパープロレスラーとはどういう関係なんだろうか。頭目の弟だったりするのだろうか。あるいはあんな感じの奴がゴロゴロしているのだろうか。
俺は少しビビりながら盗賊団全体を見た。強そうなのが何人もいた。全員剣とか槍で武装している。鎧の種類はバラバラでまったく統一が取れていなかったが、動きはかなりちゃんとしていて「集団行動」ができていた。
だが、一番ヤバいのはやっぱりスーパープロレスラーだった。こいつ一人については勝てるイメージがまったくできない。
俺は素直に頭を下げた。
「いや、知らなかったですね。なんだかすみません」
謝ったにもかかわらず元イケメンは許してくれなかった。髪をかき上げて、
「いや、知らんじゃすまんだろ」
「いや、だって知るわけ無いじゃないですか。名札をつけてないし、それに名乗らなかったですもん、その人」
俺はスーパープロレスラーにぶら下げられたままの盗賊サンを指さした。
スーパープロレスラーにぶら下げられたまま盗賊サンが叫んだ。
「そ、そいつ、妙な幻力を使う!! 気をつけてくれ!」
「妙?」
「名乗りもせずになんか勝手に人のことを妙とかルンとか言わないでもらっていいですか」
元イケメンは俺と盗賊サンを見比べたあと、
「盗賊は名乗らんだろ、普通」
「じゃあ知らないで当たり前ですよね」
「まぁ、そうだな。だがそういう話じゃねえんだよ。俺たちも実際のところ知っているかどうかは気にしてねぇんだ。俺らの名前は恐怖の象徴なんだよ」
「……どの辺が? もしかしてジルガンって地獄とかそういう意味なんですか? 地獄の鷹?」
「ガキだと思って甘やかしてりゃつけあがりやがって」
頭目が剣を抜こうとしたら、つまらなそうに聞いていたスーパープロレスラーが、
「おい。俺の前で子供は殺すな」
と言った。その言葉に頭目は、「おう。そうだったな」と剣を鞘に戻した。
二人の関係は相変わらずよく分からなかった。
この会話の間にも残りの盗賊達は大きく広がった。いつでも郷に攻め入れる体勢だった。
郷の大人達はどうしているのだろう、と俺は思った。逃げ出した子供達が連絡したはずだ。そろそろ動きがあっておかしくなかった。
もしかして既に逃げ出したとかだろうか。
あり得た。
俺は喉がカラカラになった。
俺とマイアを残して逃散とかひどすぎる。
だが、俺の背後に足音がして、俺が振り返ると村の大人達が荒い息を吐いて五人立っていた。郷長もいた。カイザもいた。
俺はホッとした。見捨てられたわけではなかったようだ。
郷長がなぜか俺の横に立った。震えているのが気配だけでわかった。カイザの手が俺とマイアを後ろに下げた。
一人前に残された郷長はビクッとしたあと、絞り出すように言った。
「……盗賊団か」
「おう。ジルガンの鷹だ」
「じ、ジルガンの鷹……だと」
郷長の気配が変わった。より強い恐怖が背中にも顕れていた。有名な盗賊団だったらしい。知らないと言って申し訳ないことをした。
郷長は声を張り上げた。語尾が震えていて虚勢を張っていることがすぐわかった。
「運が悪かったな! 今日にも鎮軍がやってくる。全滅する前に逃げるがいい!!」
郷長の言葉にジルガンの鷹の頭目は目を見張り、それからゲラゲラ笑い始めた。
「な、なんだ……なんで笑う?」
「鎮軍なぞ、相手になるかよ。俺らの半分は軍の出だぜ? あいつらのことはよく知ってる」
「鎮軍は五百人はいるぞ!」
「数は関係ねぇよ。俺らにはとんでもない仲間がいるからな」
頭目は背後のスーパープロレスラーをチラリと見た。
スーパープロレスラーが頭目の後ろでうんざりした感じで頭をかいた。まだ盗賊サンをぶら下げていた。
頭目は薄ら笑いを浮かべて言った。
「兄弟はな、あの覇王将軍イスカンダルの右腕、バンガオだ!」
読んでいただいてありがとうございます。ブックマークや評価をぜひお願いします。
応援よろしくお願いします。




