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20 郷の混乱。


     @


 時間は少しさかのぼる。


 祭りを間近に控えた郷は、東側だけ大混乱だった。


 俺が盗賊らしい男に斬られかかった瞬間は驚きのあまり固まっていた子供達は、俺が攻撃を弾き返し、男がなんだか慎重になって、笛で仲間を呼んだ瞬間に我に返ったらしく悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。力自慢の乱暴者のガルドも、リーダー気取りのボーダンも、なんだか子供のくせに色っぽいセゴちゃんも逃げ出した。残ったのは俺と、俺が何度言っても逃げてくれないマイアだけだった。挙げ句の果てにマイアは何度も俺の前に出て俺をかばおうとしてくれてそれを押しとどめるのがたいへんだった。


 何とかマイアを俺の背後に置いたまま、俺は男をにらみ付けた。


 旅人はやっぱり盗賊サンだった。


 その時俺は大切なことに気づいて、憤慨した。この世界では十歳の俺だって働いているのに、この三十歳を超えていると思われるおっさんは、働きもせず盗賊活動で生活しているのだ。


 あり得ない。


 俺は盗賊サンが反省するまで殴るのをやめない、と決めた。


 盗賊サンは俺の怒りも知らずにこれ見よがしにニヤニヤと笑った。


「た、たいしたもんだが、俺は軍の出だし、俺の組織には軍出身も多い。これから来る奴の中には獣を宿している奴もいる。座の力が自慢なんだろうが、そんなものじゃどうにもならねぇって力の差を思い知らせてやるから待ってろ」

「……その立派な同僚が来るまでの間にあなたは俺にぶん殴られるんじゃないですかね?」


 そう言って腕を上げると、盗賊サンは慌てたように、


「ま、待て待て待て待てーーそ、その幻力(ルン)の操作法。かなり変わっているがどこで習ったんだ? 軍隊で教わる方法とはまるで違うぞ」

幻力(ルン)ってなんですか?」

「……習ってないってアピールのつもりかよ。騙されねぇぞ」

「いや、ほんとに習ってないですよ」

「……信じられねぇ。幻力(ルン)を使っておいて幻力(ルン)を知らねぇってそりゃあ、どう考えてもおかしいだろ!」

「おかしいですか?」

「おかしい!」

「声が大きいですね……あー、なるほど。そういうことか。なんで話しかけてくるんだろうと思っていたんですが、味方が来るまでの間、雑な会話で時間を稼ごうとしているわけですか」


 盗賊サンの気配が変わった。軽い感じが消えて無くなり冷たさしか感じない目が俺を視ていた。


「………………てめえ、見たままの年齢じゃねぇな」

「み、見たままのって、俺は十歳ですよ! どどどっどどう見ても十歳でしょ!」

「怪しいぞ。お前……違うだろ。なんだ? 何者だ、貴様!?」

「うるさい!」


 まずかった。アルカスの中の俺に気づきやがった。なにか怪しい力でも使ったのかも知れない。くそぅ。


 直ちに口をふさぐ必要があった。


 俺は焦りながら飛びかかった。


 即座に盗賊サンの剣が振るわれる。だが慌てていたせいか、刃筋がぶれていた。

 俺はそれを左手で跳ね上げ、右手で盗賊サンの頭を掴んだ。


「ぎゃああああああ」


 握りつぶしてもいないのに凄まじい悲鳴があった。剣から手を放し爪を立てたりして必死に俺の右腕を外そうとする。


 俺は気にせず熱を込めた右手一本で引き寄せた盗賊サンの頭を両手で挟み直し、砲丸投げの要領でぐるぐる二回回転して、それからぶん投げた。


 盗賊サンはすごい勢いで空中にすっ飛んでいった。悲鳴がすごい勢いで離れていった。


 いい感じの放物線を描けた。

 二百メートルは飛んだ。


 飛んだ先に、現れたものに俺は気づいていた。


 砂煙を上げて進軍してきた百人近い軍隊ーーに見える盗賊団。四十騎くらいの騎兵までいた。盗賊サンの仲間だろう。


 その盗賊団の中からなんだかバランスの悪い一騎が進み出て、飛んできた盗賊サンを空中で片手で受け止めた。

 飛んできた八十キロはある人間の身体を空中で器用に受け止めるなど、普通の奴にできるわけがなかった。


 普通でない、ということはこの世界ではたいてい(スローン)の力だ。

 だが受け止めた奴は、そうでない(・・・・・)ように見えた。それほどの体格だった。


 普通の馬に乗っているはずなのに、その馬がポニーに見えた。

 つまり乗っている奴が馬鹿みたいにデカいのだった。


 高さも幅も厚みもデカかった。

 腕も馬鹿みたいに太かった。プロレスラーより立派な体格をしていた。


 凄まじい体格と背中に背負ったちょっとした柱に見えるほど太い槍、気配からでも分かるヤバい奴だった。


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