19 光を探すものⅡ
あとで聞いた話である。
天眼師のクァイとカランは、都市から街、街から郷へ宿を確保しながら移動し続け、その間、馬車内での会話の花は咲き続け、あっという間に一週間が経った。
そろそろ目的地に近いと思われた。クァイはこのまま旅が終わるのが哀しかった。
その思いが届いたのかカランが言った。
「……こ、この任務が終わった後もクァイ様にご連絡していいでしょうか?」
クァイは顔を上げた。自分の顔が熱いのがわかった。
「も、もちろんです!」
カランはもじもじしながら、
「それで……どのようにすれば? 申し訳ありません。天眼師の方々が厳重に管理されていることは理解しているのですが、どうしてもと思い--」
「私も同じ気持ちです。私担当の従者がいます。カーンと言います。彼に言付けをお願いします……逆に私の方が貴女に連絡を差し上げたいときはどのように?」
細々とした段取りを打ち合わせ、クァイとカランがホッとした顔で微笑みあった、突然馬車が止まった。
何かあったことに気づき、カランの顔が仕事の顔に変わった。
窓を細く開け、周囲に視線を巡らせながら、
「どうした? 何が起こった?」
「目的地と思われる場所がおそらく燃えていますーー」
「なんだと!?」
ちらりとクァイを見ると、クァイは怯えた顔をしていた。
なんとしても自分が護らねば、とカランは思った。カランにとってクァイはこの三日の旅路ですでに任務としての護衛対象を越えた存在になっていた。
カランは馬車から外に出て遠望した。確かに木々の向こうが赤くさらにその上に黒い煙が複数立ち上っていた。なにかを焼いている感じではなかった。炎と思われる範囲、さらに煙の太さや数からカランは明確な異常事態と認識した。
カランは百人隊長の顔で部下に命じた。
「総員、いつでも剣を抜けるようにしておけ」
「ハッ」
部隊の動きが変わった。
騎乗していた兵士達は背中に回していた剣を腰に吊し直した。
全員、剣を鞘に止めておくためのベルトをガードから外した。
突然、馬車のドアが開いた。
「クァイ様はどうか馬車の中で」
「だ、ダメだダメなんだ! 申し訳ない、気づいてしまった……!」
クァイが青い顔で地面に不器用に降り、それからまっすぐ赤く染まり煙が上がっている方を見た。よろよろと歩き、
「光帯なんだ。光帯が立っているんだよ……! あそこだあそこにいらっしゃる。大いなる運命を託されたお方が! 間違いないんだ!」
クァイの視線の方をカランも見た。
そして見た。
巨大な人影を。
木々の向こう赤い揺らめきの中、屹立しながらゆっくりと動く、人間ではあり得ぬ三面六臂の闘神の姿をーー。
その姿を見た瞬間、カランは思わず後ずさっていた。
恐怖を感じたのは自分ではなかった。自らの座にいる彼我の獣が怯えていて、その意識を拾ってしまったのだった。カランの人生において、これまでこんなことはなかった。戦場で敵の武将の座に居座る強大な獣と相対したこともあったが、彼我の獣が怯えることなど無かった。
彼我の獣が怯えたことで、カラン自身の意識も恐怖を覚えた。座の獣が恐れるほどの存在。それは絶望以外あり得なかった。
逃げ出そうとするカランの裾を誰かが掴んだ。
思わず振り払おうとしてそれがクァイだと気づき、カランは振り上げかけていた腕をなんとか降ろした。
クァイはすがるような目で、跪き、深々と頭を下げて言った。
「お願いです。光帯の主を守らねばなりません。どうか、どうかお力を貸してください」
迷ったのは一瞬だった。
カランは部下に告げた。
「全員騎乗。炎上中の郷へ急ぐ!!」
そしてクァイの手を取って立たせた。
「クァイ様はどうか馬車の中へ。指示を出してください」
「ありがとうございますありがとうございます」
カランの手を押し頂くクァイを馬車に押し込み、部下にテキパキと指示を出しながらカランは死を覚悟した。
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