16 旅人。
相撲大会が終わると皆いい感じに疲れていて地面に座っていた。闘いの中でそこかしこで友情が生まれていたようで、それぞれ座り込んだまま「お前強いな」「お前もな」とか「さっきの技、教えてくれよ」とかコミュニケーションが発生していた。
しばらく和気藹々としているとボーダンが遠くを見て、何かに気づいた。
「あれ? 誰だあれ。もしかして旅芸人たちか!」
皆、驚いて立ち上がってボーダンが指し示す方向を見た。俺も見た。人影が確かにこちらに向かっているのが遠くに確認できた。
見ながら全員が興奮していた。
「もう来たのか!?」
「すごいすごい!」
「お祭りはやっぱりサイコー!」
やはり遠望していたガルドが不機嫌そうに言った。
「でもあれ、一人じゃないか?」
「……あ、ほんとだ」
「旅芸人は一人じゃないだろ。おかしいだろ」
「一人だけ先に来たとかそういう感じかな……」
皆戸惑った気配でその人影を見た。
人影はまっすぐこちらに向かってきていた。
十五分ほどかけて人影はここにたどり着いた。
四十絡みの男だった。服の上に薄汚れた革鎧を身につけていて、剣を一本ぶら下げていた。革鎧は胴部分だけで、籠手は無く、すね当ては木製だった。
顔立ちは粗野だが、不思議と目に力があった。ギラギラとしたエネルギーを感じた。
男は俺たちの前に立ち、周囲を見回した。
「よぉ……いい郷だな」
ボーダンが前に出た。
「あの……旅芸人の方ですか?」
男は不思議そうに首をかしげ、
「旅芸人? どういうことだ? ……あ、そうか。そうか祭りか。こりゃ、いいときに来たな」
「?」
「俺は旅をしてる。この辺の郷を色々見て回ってるんだ」
村から出たことがない少年少女は顔を輝かせた。
セゴが声を上げた。
「……すごい!」
男はニヤニヤしながらセゴの身体をなめるように見た。セゴはかなり発育がいい。
「はは。素直だな……いい身体してる」
「え?」
「いや、なんでもねーよ。大人達はじゃあ祭りの準備中か?」
「はい」
「楽しみだよなぁ。ご馳走もあるよな」
「母さん達が準備してると思います」
「うんうん。この郷に大人達は何人くらいいるんだ?」
「え?」
「郷の規模を知りたいんだよ。こういう情報も役に立つからな」
「あ……えっと、は、八十人くらいだと」
「じゃあ、男は四十人くらいか。思ったより多いな。ま、なんとかなるだろ」
「?」
「いやいやこっちの話。えーっと、この郷は狩りとかはやるのか?」
「ほとんどやりません。森は魔物が出るので」
「そっかそっか。いいねいいね」
男はボーダンやセゴと話を続けた。
俺は険しい顔をしていたら、姉が服の裾をそっと引いてきて、そちらを向いた。
姉は小声で、
「……おかしい」
と言った。
「姉さんもそう思う?」
「うん……だってこの世界を一人で旅するってーー変だよ」
この世界、という表現に違和感を覚えたが、
「そうですね」
「武器も……剣一本だし。魔物とか対処できないよ」
「確かに。それに歩いて旅をしてきた格好じゃないよね」
男が突然、マイアに声を掛けた。
「おい。そこの美少女」
マイアはビクッとした。怯えがあった。
ここは俺が行くべきだと思った。
「なんですか?」
マイアを護るように俺は前に出た。
読んでいただいてありがとうございます。ブックマークや評価をぜひお願いします。
応援よろしくお願いします。




