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16/32

16 旅人。


 相撲大会が終わると皆いい感じに疲れていて地面に座っていた。闘いの中でそこかしこで友情が生まれていたようで、それぞれ座り込んだまま「お前強いな」「お前もな」とか「さっきの技、教えてくれよ」とかコミュニケーションが発生していた。


 しばらく和気藹々としているとボーダンが遠くを見て、何かに気づいた。


「あれ? 誰だあれ。もしかして旅芸人たちか!」


 皆、驚いて立ち上がってボーダンが指し示す方向を見た。俺も見た。人影が確かにこちらに向かっているのが遠くに確認できた。


 見ながら全員が興奮していた。


「もう来たのか!?」

「すごいすごい!」

「お祭りはやっぱりサイコー!」


 やはり遠望していたガルドが不機嫌そうに言った。


「でもあれ、一人じゃないか?」

「……あ、ほんとだ」

「旅芸人は一人じゃないだろ。おかしいだろ」

「一人だけ先に来たとかそういう感じかな……」


 皆戸惑った気配でその人影を見た。

 人影はまっすぐこちらに向かってきていた。


 十五分ほどかけて人影はここにたどり着いた。


 四十絡みの男だった。服の上に薄汚れた革鎧を身につけていて、剣を一本ぶら下げていた。革鎧は胴部分だけで、籠手は無く、すね当ては木製だった。


 顔立ちは粗野だが、不思議と目に力があった。ギラギラとしたエネルギーを感じた。


 男は俺たちの前に立ち、周囲を見回した。


「よぉ……いい郷だな」


 ボーダンが前に出た。


「あの……旅芸人の方ですか?」


 男は不思議そうに首をかしげ、


「旅芸人? どういうことだ? ……あ、そうか。そうか祭りか。こりゃ、いいときに来たな」

「?」

「俺は旅をしてる。この辺の郷を色々見て回ってるんだ」


 村から出たことがない少年少女は顔を輝かせた。

 セゴが声を上げた。


「……すごい!」


 男はニヤニヤしながらセゴの身体をなめるように見た。セゴはかなり発育がいい。


「はは。素直だな……いい身体してる」

「え?」

「いや、なんでもねーよ。大人達はじゃあ祭りの準備中か?」

「はい」

「楽しみだよなぁ。ご馳走もあるよな」

「母さん達が準備してると思います」

「うんうん。この郷に大人達は何人くらいいるんだ?」

「え?」

「郷の規模を知りたいんだよ。こういう情報も役に立つからな」

「あ……えっと、は、八十人くらいだと」

「じゃあ、男は四十人くらいか。思ったより多いな。ま、なんとかなるだろ」

「?」

「いやいやこっちの話。えーっと、この郷は狩りとかはやるのか?」

「ほとんどやりません。森は魔物が出るので」

「そっかそっか。いいねいいね」


 男はボーダンやセゴと話を続けた。

 俺は険しい顔をしていたら、姉が服の裾をそっと引いてきて、そちらを向いた。

 姉は小声で、


「……おかしい」


 と言った。


「姉さんもそう思う?」

「うん……だってこの世界を一人で旅するってーー変だよ」


 この世界、という表現に違和感を覚えたが、


「そうですね」

「武器も……剣一本だし。魔物とか対処できないよ」

「確かに。それに歩いて旅をしてきた格好じゃないよね」


 男が突然、マイアに声を掛けた。


「おい。そこの美少女」


 マイアはビクッとした。怯えがあった。

 ここは俺が行くべきだと思った。


「なんですか?」


 マイアを護るように俺は前に出た。

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