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13 郷の子供達。


 東側は街道や森に面しておらず、比較的安全だと思われていて、家畜の放牧は主にこちらで行われていたが、今日は家畜はすべて小屋の中に入れられているようでいなかった。


 この世界ではお祭りというのは郷の民全員にとって最大の娯楽だった。郷全体が仕事を休んで全力でお祭りを行うのだ。とはいっても子供は準備の段階ではやることがなく、郷の東側には似たような年頃の子供達がやはり手持ち無沙汰な感じでうろうろしながらそわそわしていた。


 この世界では十四歳で「成人」扱いになる。「成人」になると結婚できるようになるのだがそれ以上に重要なのが選抜の儀と呼ばれる儀式で、子供はその儀式でそれぞれの特性(・・)が明確にされる。それに合わせて、都に行ったり、軍隊や教会に入ったり、郷に残って農民になったりするのだ。


 この郷は全体で百名程度で、現在子供は十五名いた。


 子供達は皆、郷の東側の開拓前の荒れ地に集まっていた。


 全員が痩せていて服はボロボロで汚れていてさながら子供だけの難民キャンプという風情だったが、俺とマイアが到着すると、突然静かになってこちらの様子をうかがっているのがわかった。


 しかもなんだか少年達の視線は熱っぽい感じでマイアに向いていた。


 不快だった。

 これは俺のものだ! という気持ちになっているという自覚があった。


 とは言っても姉だから当然俺のものではない。

 それでもムカムカしていると、


「君たちがカイザさんの子供のマイアとアルカスだね。みんなここで祭りの本番を待ってるんだけど、マイア達も一緒にここで待てば、と思って呼んでもらったんだ。あ、僕はウハルの子のボーダン。はじめまして」


 ボーダンという子供の中で一番年かさの少年が、マイアをチラチラ見ながら言った。ちょっと頬が赤かった。


 絶対こいつはマイアに惚れている、と思った。

 俺は警戒した。激しく警戒した。一歩たりとも姉を近づけてはならぬ、と思った。


 だが前に出ようとする俺をそっと押さえてマイアは慣れた感じで微笑んで、


「はじめまして、ボーダン。それからありがとう。うん。私たちもセゴに呼ばれてそのために来たんだ」


 ボーダンの顔がわずかな怯えから、ホッとしてさらに上気したような雰囲気に変わった。これはあれだ。好きな子に話しかけるのにビビっていたのが、普通に話してくれたことで脈ありだと勘違いした顔だ。俺にはわかる。なぜなら中学生の思春期の頃の俺と同じだからだ。


 俺は心配になってマイアの顔を盗み見た。幸いマイアの顔は冷静で、ただの社交辞令だとわかって俺はホッとした。


 ボーダンは少し気負いがある様子で続けた。


「よかったよ。こんなことでもないと話す機会もないからね。今年の祭はすごいらしいよ。何しろ天眼師様がいらっしゃるらしいからね」


 皆の顔に驚きが走った。俺だけちょっと良く分かってなかった。


「天眼師って……?」


 ボーダンは「え?」とショックを受けた顔を俺に向けた。


「知らないのか。都で未来を見る仕事をされている方たちだ。普通は都にしかいらっしゃらないんだぞ」


 未来を見ると言うことは占い師ということだろうか。ありがたさがよく分からなかったが、とりあえず俺は驚いて見せた。


「ふええええ、すごいですね」

「そう。すごいんだ」


 ボーダンが自分の手柄のように頷いた。ようやく子供達から緊張が抜けた。

 ボーダンはマイアをちらっと見て、


「さて何をしようか? マイアは何かしたいことある?」


 愕然とした。なんて野郎だ。ボーダンは優しい顔して策士だった。ここを自分とマイアの親睦を深める場にするつもりらしい。なんという我田引水。ぜひマイアには「そうね。エルメスのバーキンが欲しいわ。あと三つ星レストランでシャトーブリアンのステーキが食べたいの」とか言って欲しかった。


 マイアは首をかしげた。


「う~ん。ごめんなさい。思いつかない……アルカス、なにかある?」


 マイアが気を遣ってくれたのかわざわざ俺に振ってくれた。俺はそこで大事なことに気づいた。俺のやりたいことは聞かれてないし、紹介さえされていなかった。マイアのインパクトに隠れてそもそも認識さえされていない可能性があった。


「あ、えーっと、僕、アルカスとしてはーー」


 突然だったので俺が少し慌てていると、少年たちの中からひときわ体格が大きいのが身体を左右に振りながら前に出てきた。不良が威嚇に使う時のムーブだ。この辺は世界が変わっても変わらないらしい。


「おい。お前がアルカスか? なんかえらく強いとか言われてるらしいけどよぉ。ひょろひょろじゃねぇか」


 そう言って俺を上から見下ろした。

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