67 自治都市イカルガ1
67 自治都市イカルガ1
朝食を終えてさてさて。
「朧ちゃん、さっきの人は天使さんよね?天使なんて、今まで遠目にしか会った事なかったんだけど、知り合いさんだったのね」
そうわよ。
「ベーコンエッグのプロエンジェルでしたね~。なんであんなに綺麗な丸型なんでしょう」
コツは風魔法で目玉焼き作る専用の窪みのあるフライパンみたいな奴みたいな構造体を作ってる所やぞ。つまりチート。
「ダリア様は世界の発展と繁栄を目指す素晴らしい方です」
「でもソルティアはあげないよ」
「お嬢様の仰せのままに」
シエラに私とダリア、どっちが大事なの!って聞いたらどうするんだろう。普通に殺し合いそう、昼ドラ空間の予感がするので今はやめとこう。また機会があったらね。
「魔物が各地で活発になるのか~。レミ姉、エルフの森の方は大丈夫なの?」
「ん~、まだ特に問題は無いみたいね。でも魔物の量は少し増えているみたい」
流石エルフは情報が早い。
「ほんとに増えてるんだね。早めに転移の準備を整えて、その後どうしようかな。はいスズカ!」
「えっ、えっ……そ、そうですねぇ……多くの冒険者はぁ……村?村に駐留して?魔物の襲撃とかに備えるみたいですねぇ、はいぃ。アカデメイアの遠征演習もそれに近い感じ……らしいです、よ?」
スズカは念話掲示板見ながらっぽい。目の動きがこう、左から右、上から下にクイクイびゅーんって感じですわ。
「あぁー、ダリアは理事長だからね」
「え、あの人うちの学園の理事長だったんですか?」
「そうだよ、聞いてなかったの?マルタのどっかに住んでると思うよ」
「ダリア様はマルタの貴賓館にお住まいです」
「へぇ~、あ、そういえば朧ちゃんをエルフの村に迎えに来た人も確かダリアさんだったって聞いたような…」
「そうそう、私を迎えに来たのもダリアだよ~。それでスズカは遠征演習の方に行く?」
「いえいえ、私はその遠征演習の試験をパスして無いですし…そもそも戦闘能力皆無ですよ」
いかん、それあれだよね。仮免の人が事故起こしたら教官に責任くるやつ。
「我が弟子よ、試験じゃぁ、構えぇっ!」
この場は既にレジの近く。まだ朝早いからか、今は店に誰も居ないしちょうどいいだろう。私はソルちゃんをソファーに下してから、スズカに向き合う。これは私の身体能力とスズカの身体能力の測定的な物である。
「ッシャーァ!」
まずは腹に左ジャブ、体を一生懸命に動かしてパーンチ、ど素人のスズカの腹に入ったと思ったが、スズカは右腕を私の左手の内側に滑り込ませてパンチを外される。
「ッハ」
そのままスズカの右腕が私の左腕を取ろうとする動きを感じたため、私の右肘をスズカの胴体に打ち込む。
動体視力はかなり向上しているようだ。体は貧弱据え置きなのだが。スズカは私の右腕を警戒してか、受け身の体制になった様で私の左腕をあきらめた様だ。
「あっ」
スズカは私の右肘をほぼ抵抗無しで胴を掠らせ、左手で私の右肘を私の左側に流す。体の重心がずれた為に、右足を下げてそちらに重心を移しつつ、上半身を戻しつつ…と思ったところでスズカがスィーっと私の後退に合わせて体を出してきてそのまま両脇の下からぐわっと腕を入れられて押し切られる。
という主観だったが、傍からみたら幼女がポコポコやってるだけだったかもしれない。
……目の前にはスズカの胸。私の背中に手を回して絞めている様だ。私は床に押し倒されている。痛みは無くケガはしてない様だ、痛くない。おっぱいは柔らかい、だが、苦しい。あ、無理だわ。ギブギブ。手でパンパンする。
「ん~っ、ん~っ!!」
「朧先生、さっきの可愛い女の子パンチはなんですか~?」
スズカが私の身体に身体を絡ませてくる。スリスリぎゅーっとやってくる。やだ、スズカにもてあそばれちゃうんだぁ……。
「ブハッ、ギブギブ…はぁ、はぁ」
そんなことはなかった。
「魔法は強いのに、格闘は全然なんですね」
「っはぁ、スズカ、遠征演習に行っても大丈夫なんじゃないの?」
「いやいや、朧先生に肉弾戦で勝っても魔物に勝てるわけじゃないですよ?」
「実はピンチになったら私の吸血鬼パワーが目覚めるかと思ったんだけど、そんな事なかったねー……」
「私、朧先生にならガブリとヤラれてもいいですよ?」
「え?、いやいきなりそんなこと言われてもですね…あとそろそろ放してちょ」
「…ほら、おっぱいですよ?」
「まぁ、そりゃおっぱいだけど…」
「朧先生はおっぱい嫌い?」
「嫌いじゃないけど」
「…」
「…」
なんか、ドキドキしてきた。
「…」
「…」
なにこれ。
「スズカさん…私、転移の魔法陣を作りたいんですが」
「…私と先生、汗掻いちゃいましたし、シャワーしに行きましょう」
「スズカさん、お嬢様のお世話は私の仕事でございます」
「シエラさん、私、知ってるんですよ?悪い様にはしませんから」
シエラがびくっとした。え、なになに?
「いえ、そういう訳には参りません。しかし、そうですね。御一緒に湯浴みでもいいでしょう。お嬢様、よろしいですか?」
「う、うーん。私は汗掻いてないけど…」
良く分からないままにお風呂である。ここのお風呂は汲み上げた水を下に流す時に火の魔法でパイプを暖めるという原始的な方法である。水とお湯を混ぜて丁度いい温度にするタイプで、一応シャワーも可能にしている。
……。
ママと自分以外の女体を見てしまった。なぜかシエラも全裸になってやって来ていた。猫耳と猫尻尾はやっぱり取れました。
「……」
「朧先生、気持ちよかったですね」
スズカは、こう、クラスの憧れのあの子のって感じで、シエラはもう芸術的な何かだった。彫像みたいな染みのない肌、血の通った生き物って感じがしない。
最近はめっきり幼女の自覚があるのだが、何かが目覚め始めてきたのかもしれない。前世のおっさんの魂が揺さぶられたのか、あるいは百合の蕾がぷっくりと出来たのか……わからない。
ゴシゴシ、スルスル洗いっこしたり、お風呂に入って膝の上に乗っけられたり、えっと、うん、スズカが何かね、私にね…ここはこういう場所なんだよって、ニヤニヤしてぇ…でも満更じゃない顔でぇ……。シエラもいつもよりテクニシャンだったしぃ……。
「さぁ、転移魔法陣作るよ」
監修は私で、助手はスズカ、技術担当はレミ姉、魔力提供はソルティア、安全管理はシエラ、その他雑用はうーたんでお送りする。
ギルドや学園にある転移魔法陣と同様に、手動で陣を描く必要があった。ソルティアから魔法を汲み出して、いつものように直接無詠唱で自由に魔法が使えるかと思ったが、そうはならなかった。
やはり物質の魔法陣など、何処か安定した場所に魔力を一度汲み出す必要があるらしい。天界通販カタログも上手く使えない様だ。理の神との念話に依存してるシステムだからかな。
そう言う事で転移門を作るには材料が足りない。ので、屋上に魔法陣を作った。これでこの魔方陣の行き先とか工夫すればマルタのお城とお店と魔方陣で転移で繋がるので便利になるだろう。
【深淵への道】のダンジョンコアの近くにも魔法陣を作り双方向の移動を可能にした。レミ姉は転移魔法を使えるので私の専用タクシーにしてもいいんだけど…、移動手段は沢山用意しておくのも悪くないと思います。
ダンジョンコアは攻撃しないモードに変更し、立札を立てておいた。『ダンジョンコアは壊さない事。ダンジョンさんも一生懸命生きてるんだよっ!壊したら…み・ん・な・い・き・う・め――大魔法使い 朧 』
モニターを見たら野良魔物がそこそこ入って来ていた様で、DPは4000程溜まっていた。ダンジョンも強化・拡張されているみたいだった。
その後に時空障壁を張る魔法符、私に念話が飛んできた場合に音声会話する魔法符、ファイアーボール、ウインドウォール…やらなんやらの符を作った。魔水銀で作った物なので結構な使用回数に耐える。魔力は逐次注ぎ込む必要がある。
そろそろお昼かと言う頃になって、華代さんがお店にやって来た。
「いらっしゃい華代さん、魔物の件かな?」
「お早う朧殿、もう知っていたか。今は山から人里に下りて来た弱い魔物が増えている段階のようだ。それで、少し頼みたいことがあるのだが…」
お店の応接間に来ました。うーたんが緑茶とクッキーを持ってくる。華代さんがお茶を一口飲んでから喋りだす。ちょっと寝不足気味な顔をしている。
「今朝に、ここから南東の方角、約200キロメートルの距離にある自治都市の斑鳩から救難の連絡が入った。どうやら強力な魔物の集団が接近中、一部交戦中との事だ」
「ほっとくと壊滅しちゃう感じ?」
「その可能性がある。斑鳩の冒険者ギルドは十分な戦力を擁してない。自治都市の戦力として武芸者の集団が居るのだが、それでも全方位からの魔物の進行に籠城戦を強いられているとの事だ」
「ん~、今朝の話だよね?」
「それが、数か月前から昼は獣系の魔物、夜は妖怪の類が攻めて来ていたらしくてな。今までは素材が多く手に入って益があったらしいのだが、魔物が勢い付いて、戦線の維持が厳しくなって来たらしい。あそこの領主は聡明と聞く。恐らく都市に大きな被害が出る前に救難要請と言ったところだろう」
「ここにはいっぱい冒険者いるよね?依頼を出したらいいんじゃないの?」
「要請の内容だが、戦力と物資の大規模な補給が必要なのだ。そこで朧殿にはここと自治都市斑鳩と転移が出来るようお願いしたい」
「なるほどです。でも私、今ちょっと子育てで魔法がかなり弱体化してるから、ここからいきなりポンと転移魔法陣を設置するのは難しいかな。レミ姉、斑鳩って所に行った事ある?転移出来るとグッドなんだけど」
「ここから南東よね、たぶん無いかしら?東列島にはあまり来た事なかったから」
「一度行った事のある場所なら転移魔法で双方に飛んで転移魔法陣を設置すれば大丈夫なんだけどね」
「ふむ、中央大陸のギルドから魔法使いを呼ぶしかないか……しかし斑鳩に行った事のある転移の使える魔法使いなど都合良く居るのか……。しかも斑鳩は強力な防護魔法陣を設置している。内部に直接転移するのは余程の使い手で無いと難しい……」
「200キロくらいなら空飛んで行ったらいいんじゃ?」
「周辺には空を飛ぶ魔物も居るらしくてな。竜騎士でも突破は難しいのでは、と言われているので空からは諦めた方が良い」
「で、斑鳩は魔物に囲まれているから駆けつけていくのも難しい状況と」
「そのようだな。大戸周辺は現在、開拓範囲が広くて防衛しなければならない範囲が広い。他所へ大々的に戦力を回す余裕は無いのだ」
「どのくらいで魔法陣が設置できればいいの?」
「斑鳩の領主、『斑鳩 磨桐』殿の話では都市の門まで魔物集団の中心が到達するまで早くて三日、遅くて一週間程との事だ」
「そこで幼女の出番なのね、ちなみに報酬とかありますの?」
「あくまで救援要請なので、報酬は斑鳩の領主から直接、という事になる」
「へぇ、お勧めの報酬とかあったりする?名産とか、伝説の妖刀とか、近くに凄いお宝スポットがあるからフリーパスとかそういうの」
「自治都市斑鳩と言えば翼型の魔道具があると聞く。周辺の飛行する魔物の翼を加工した魔道具で、背中に付けると飛べるとか」
「おー、それは欲しいかも」
「ママは軽いからソルと一緒に飛べるよ?」
「私の~背中に~かわいい~翼を~ください~♪」
「…では、行ってくれるか?」
「自治都市とか面白そうだし、丁度各地を回ってみたいと思ってたから。あーと、この村の近くの岩場にダンジョンを作ったから、発見したら宜しくね。見れば分かるから。一階層で麦と稲が採れるから食糧難になったら活用してね」
「それはまことかっ!」
『ガタッ』っと華代さんが身を乗り出してきてビックリした。あーはいはいびっくりしちゃったね。
おざなりに【深淵への道】の概要を説明しておいた。途中で華代さんがモジモジし始めたので、その辺で話を切り上げて昼食へ。
メイドイン天界のサンドイッチは現在品切れなので、冒険者ギルドの狭いカフェでランチする事に。ウエイトレスさんはまた割烹着に鎧のお姉さんでした。
「華代さん、補給用の物資と食料、その他諸々買い込んで行きたいんだけど、ここで買えるかな?」
「すまない、忘れていた」
「仕方ないよ、だっておしっ――」
華代さんに口を塞がれた。
「…はしたない事を言ってはならぬよ」
お、今の華代さんぐぅかわいい。照れ隠し逆壁ドン的な何かだ。
良く分からない肉ブロックの燻製、野草、薬草、お芋などをそこそこのお値段で買う。ささっとその、斑鳩に救援に行って、何か謂れのある人脈やアイテムや情報なんかを収集したい。
聞いた感じアカデメイアとギルドの影響の少ない自治都市みたいなので、きっと珍しい出会いがあるに違いない。




