61 エルフの森1
61 エルフの森1
お店に帰ると繁盛していた。皆がこっちを見る。ここは私のマイホームだよ、なんかそういう目で見るのやめてよね。
ラーメン屋さん家の子供がランドセル背負って家に帰ってきたら、ガタイのいいおっさんが『なんだぁ、このガキぃ!』って感じで麺を啜りつつジロリと見る感じ。ではなく『おっほ、幼女だぁ!』ってギラギラした眼で見る感じ。なお悪い、ふえぇ。
「ただいま~、うーたん、何か問題は無かった?」
「うー、う~」
カウンターの向こう側にあるソファー座る。今日は気持ちよく魔法使ってしまったのでウズウズしちゃう。静まれ我が封印されし暗黒の魔力よっ!。大きい転移魔法を使った為、魔力減っちゃったかな?お薬増やしておきますね~と言う感じでアムリタンZと天界ネクターを飲む。最近私がジャンキーになってるのをシエラは気にしている様だ。こっち見てる。
「シエラ、これ甘いけど、凄い万能薬だから大丈夫だよ。すごいんだよ」
「……」
みてる。
そうしていうと、不意に、突然、転移魔法の予兆が私の目の前に現れ、ほぼ一瞬で誰かが転移してきた。押し込み強盗犯は、私の母ユミル・ルビーライト。
「エレナっ!」
「ママ?」
「エレナ、こっちに来なさい!」
ママは、今まで見たことない顔を、している。全身に魔力が漲り、一瞬で隠蔽状態で無詠唱で数十、いや数百の魔法陣が展開した。私とシエラに注目している。まずい
「違うのっ!私がやったのっ!」
とりあえず私がやったという事で話し合いをしようとしたが。
~~~~
お嬢様の意識が一瞬で刈り取られ、エレナお嬢様の母君ユミル・ルビーライトの脇に抱えられている。それが魔法の効果だと言う事しかわからない。私の竜眼では彼女がエルフであり、こちらを敵視していることしか読み取れない。
人間形態ではまず勝てないと瞬時に理解した。竜の威圧と魔法干渉、その他の能力がまるで効力を発揮していない。
≪あなたはシエラ、竜に相違ないか?≫
魔法言語による問いだ。この形態であっても抵抗はできる。
「はい、私はシエラ。エレナお嬢様のメイドとしてお仕い申し上げています」
「ママを返せ―っ」
ソルティア様がユミル様に突貫しようとする。今日生まれたとは思えないエネルギーの集約が感じられる。が、何重にも編まれているであろう魔法陣の塊からいくつかが反応し、ソルティア様は空中で停止した。正確にはソルティア様の時間がとてもゆっくりになっている。
≪そこの幼竜は何だ、誰か明かしなさい≫
スズカ君が魔法言語の精神支配を受け、虚ろな目をしながら声を発する。
「……推定エレナの娘ソルティア。そうエレナ本人が発言していました。しかしドラゴンの赤子としては不思議で――」
≪もういいわ。この幼竜の父は誰かしら?≫
「……わかりません」
≪シエラ、貴様が我が子エレナを孕ませたと推察するが、相違ないかしら?≫
「いいえ、私の知る限り、エレナお嬢様は精を受けずにその娘ソルティア様の卵を肛門から生み落としました」
≪ここに、真実の実がある。身の潔白を証明しなさい≫
ユミル様が私に真実の実を投げて寄越す。この実は飲み込む直前の発言が虚偽の場合、実は芽を出し体内からその者を食い破る実だ。これは事実の如何に関わらず本人の意識によって判断される。
「私、竜種、シエラ・チノフィエラ・アラバスターは、エルフ種、エレナ・ルビーライトを犯し、孕ませて無い事をここに宣言致します」
ぱくっ
当たり前だが潔白は証明された。
≪……、竜シエラよ、我が子に仕えているのなら、その様子を話してみなさい≫
私はお嬢様に会った時から今までの経過を掻い摘んで説明した。話し終わる頃にはユミル様の表情はだいぶ軟化していた。そこには警戒心を残しながらも娘を愛する母が居た。
そういえばと、私はエレナお嬢様が吸血衝動に目覚めた事を告げる。
「ひょっとしてその幼竜……シエラ、ソルティア、貴方達にはエルフの森に来てもらいます」
お嬢様の手荷物を手早く取って来たのち、両脇にエレナお嬢様とソルティア様を抱えたユミル様に連れられて、恐らくはエルフの森へと転移した。
~~~~
目を覚ますと、母に膝枕されていたる様だ。天井を背景に母が私を見下ろしている。垂れる金髪、見下ろす橙色、優しいまなざし。
「ママ?」
「おはようエレナ」
場所を把握する。ここはエルフの森の、私の実家の寝室だ。とにかく謝らないといけない気がした。
「えっと、ママ、私、ごめんなさい」
「エレナちゃん、悪い事したの?」
「え、してない……と思う」
「じゃあいいのよ」
思考回路が日本社会ベースだったのかもしれない。王族のご令嬢でもないのだから、座学漬けの生活を強いるような母でもない。まず謝罪から入るのはおかしかったか。
体を起こす。服装は綿でできた簡素な村人スタイルである。エルフ村謹製でかなり丈夫。
「エレナちゃん、シエラと言う竜の血を吸ったわね?」
「……はい」
「あまり知られてないけど、生きた竜の血は強い毒性があるの、エレナちゃんがエルフの血を引いて無かったら、死んでたかもしれない」
「……ご、ごめんなさい」
「次から気を付ければ良いのよ。エレナちゃんは種族がエルフだから吸血衝動は出ないと思ったんだけどね。ダインは強力な吸血鬼の一門だからかしらね」
「私、そういうの知らなくて……」
「いいのよ、私も調べるまで知らなかったから、まさかそれで血を卵として排出するなんて思わなかったわ」
「まさか、ソルティアが?」
「そうみたいね。……それで、エレナちゃんはやっぱりお外行きたい?」
「お外行きたい、かも」
「……」
無言でママが私の体を包み込む様に抱く。母としては、娘にはずっとこの村に居て欲しいのだろう。けど、決してそうは口にしない。
エルフは成人になる前に世界を旅しないと数百年で自殺してしまうと言う言い伝えがある。地球人出身としては、その原理は分からなくもない。
「エレナ、約束して、レミリアちゃんと一緒に行くこと」
「ママ、それじゃお店が…」
「子供がそんな心配しなくていいのよ。レミリアちゃんも、また旅をしたいってウズウズしてたみたいだから、ちょうどいいわ」
木版で出来たカレンダーを見ると5月12日、昨日母と東列島で会ってから次の日になったようだ。
「ありがとう、ママ」
……。
やっぱりママが最高かな、と思い至ってから寝室から出ると、廊下にはソルティアを抱えたシエラが立っていた。
「おはよう御座います。ユミル様から話は聞いております」
「おはようシエラ、ソルティア」
「ママ―」
ソルティアが私の胸に飛び込んできた。押し倒されるかと思って身構えたが、上手く勢いを殺して前足を肩に、後ろ足を脇の下に入れてカポッと嵌る。「ちっぱいってレベルじゃねーぞ、ママー」と言われた様な気が一瞬した。
して、朝食である。クロワッサン、ハムのあるサラダ、スクランブルエッグ、コンソメ風味の塩系スープ、ベーコンエッグの朝食をみんなで食べている。なぜかレミリアさんも来ていた。
「んぐんぐ、レミちゃん、こちらがシエラさん、エレナちゃんに血を混ぜて子供を産ませたクソトカゲよ」
「え、ママ……」
「もぐもぐ、で、この子が私の孫のソルティアちゃん。子供に罪はないけど、…トカゲよ」
「ママ、やめてよぅ……」
……。
「竜、今は真竜って言うのかしら、人間形態は私も初めて見るわね。よろしく」
「エレナお嬢様のメイドをさせていただいておりますシエラです。よろしくお願いします」
「ママのせいでなんか~、なんだかな~」
「お、おばぁt―」
ジロッ
「ジョークよ、エレナちゃん。でも一般的に竜種は他種と仲が悪いと思われてるから気を付け…なくてもいいかしら。誰も文句を面と向かって言わないでしょうし」
「レミ姉は私と一緒でいいの?」
「雑貨屋さんやってるんだよね?たまに採集にも行くとか、楽しそうだわ。東列島には数回しか行った事無かったし」
「…ありがと、よろしく、レミ姉」
「エレナちゃんはかわいいからね、私とも子作りしよっか?」
「……」
「この度はメイドの分際でありながらお嬢様に――」
「ママもレミ姉も、なんでそんなに意地悪言うのっ?」
わかってる。私を心配しての言葉だと言う事くらい。でもそんな言い方しなくてもいいじゃない。
「ごめんなさいエレナ。やっぱり私達の言わんとしてる事、分かるのね」
……まるほど気づいた。6歳幼女にしてはありえない言語能力、理解力がある事を確かめるカマかけだったのか。
「…あれはやっぱり特別に強力な精霊だったのね。でも、私のかわいい娘のエレナ、愛してる」
ママン……。
「エレナちゃん、後でちょっとチャンバラごっこしましょう」
レミ姉が優しい顔、でもかなり真剣な顔で提案してきた。
朝食の後に村にある広場に来た。私の力試しと言う事で、魔法やらなんやらを駆使してレミ姉に打ち込んで来いと言う事だ。周囲をママンが何重にも時空障壁で囲っている。エルフ族に伝わる、エルフ固有魔法の多重複合魔法だ。
「レミ姉、私、結構強いよ?」
「エレナちゃん、私、そのセリフで強かった人見たことないわよ」
金髪碧眼の細身だがナイスバディーなレミリアさん、冒険者でランクはA、ステータスは全てSを超えている。これがエルフ種が最強たる所以、年齢に比例して能力が上昇するという種族チートだ。
更に身体強化、各種能力強化、対物理魔法障壁、妨害系魔法障壁を何重にも重ねてかけている。真理の魔眼は確かになんでも解析するが、これは理解できる範囲を超えている。
恐らく長い時間をかけて改良し、短縮し、試し、そして改良し…と、そう、まるで人類が長年改良し続けるプログラムの様な緻密さが見て取れる。
これは、胸を借りて全力を出してもいいかもしれない。…流石にちょっと気が引けるので、段々とやってみよう。
「れみ姉、いくよっ」
一応こちらも各種補助系魔法と防御魔法を展開しておく。まずは単純な力押し、私はレミ姉の足元を狙って火魔法と土魔法を複合した【シューティングスター】で、魔力は良く練ってつぎ込めるだけつぎ込む。
腕をレミ姉に向ける。魔法陣は隠さず見せる。茶色の魔法陣は赤く輝き、回転する。魔法陣は射撃段階に入り、つぎ込まれた魔力を燃え盛る溶岩弾にして打ち出す。あっという間に魔力を消費して10連射を一気に打ち出した。
ババババババババババン!
煙と閃光が晴れると、そこにはレミ姉が無傷で立っていた。でも後ろにはクレーターが出来ている。
「ちょ、エレナちゃん、タンマタンマ」
そのままあっさりお開きになった。どうやら魔法と物理の障壁を殆どブチ破ってしまった様だ。防御障壁を貫かれた場合に自動で発動する瞬間回避の魔法と時空魔法が発動したらしい。
「ユミルさん、お願いします」
ゾクの用心棒の先生にお願いするみたいになってる。み、見損なったよレミ姉さん!
「エレナちゃん、いけない子ね、あんなごり押し魔法なんて、フフ。力技で障壁をパリンパリンするなんて魅せつけてくれるわね。ハァハァ」
「ママ、怖い」
「さあ、全力で来なさい」
ママン、死んだらすぐに蘇生するからね。
もう何層にも重なって何が何やらわからない魔法障壁、年輪みたいだな…と思った瞬間睨まれた気がした。そこ敏感すぎ。
魔法は時空魔法であっても回避系魔法であっても魔法を相手にする場合、絶対に効力を打ち消すという物は無い。確かに圧倒的に防御が有利だが、そこには魔法陣があり、魔力が流れている事は変わりない。
例えば厚さ10センチの鉄板でミサイルを防いだとしても余波の衝撃で、あるいは熱で向こう側の人は焼け死んでしまうかもしれない。魔法にも同じことが言える。更なる圧倒的な魔力によるゴリ押し――
≪精霊よ――エレメンタル・ブラスト≫
私の、ママの足元に向けた手のひらに各種属性のエネルギーが収束していく――テレホンパンチも甚だしい詠唱と狙いだが、よーく練った魔力をエネルギーに変換して蓄える。
精霊さんも何処からかやって来て手伝ってくれる。魔法陣にべたっと張り付いて羽を七色にバタバタさせながら、私の魔力をエネルギーに変換しているっぽい。
これ躱されるとヤバいかもね。信じてるよ、ママン。
チュィイイイーーッキュン、
■■■■(色んな音~)
……。
「お、おそろしい子だわ、ハァハァ」
「だ、大丈夫?」
一瞬、ママの足が吹っ飛んだのが見えたような。ママの持っている消費系の魔道具がいくつか吹っ飛んだが、エレメンタルブラストは何とか打ち消された。
実はこれビーム状に連続放出する事も出来るんだけど、単発射撃にしといて良かった。
「ママ、無傷よ!」
「うん、…」
「エレナちゃん、強い…」
「お嬢様、流石でございます」
「ママ強いー ><」
「完全に打ち消したわよ、私が最強よ!」
「やっぱりママが最強」
「えへへ、エレナちゃん、そうでしょそうでしょ~」
……。
「……好きなだけ遊んできなさい。でもレミリアちゃんから離れないでね。さっきは失礼な事言ったけど…シエラさん、エレナをどうかお願いします」
「…はい、必ずやお嬢様に尽くし果たします」
「では、行きましょうか」
さっきの魔法演習?で村の人がちらほら集まっていたので、なんだかんだとみんなに見送られて出発した。村には特殊な魔法陣が掛かっているため、転移は村の外に出て実行した方が良い、一度村の外に出る。エルフなら普通に魔法使えるんだけど一応ね。転移魔法はデリケートだから。
「レミ姉、一応私、朧って言う芸名使ってるから、できればそう呼んでくれると嬉しい」
「分かったわ、朧ちゃんね。確かに、こんなかわいい幼女の実名は知られてはいけないわね。エルフの幼女を付け狙って攫って酷い事しようとするのが普通よ。そんな例見たことも聞いたことも無いけど、そう思っておくのがいいわよ。だってこんなに可愛いんですもの。今日から私が24時間しっかり見守ってお世話してあげますからね。ユミルさんからも公認、これはもう…」
……。
「じゃあ、東列島の私のお店に転移するよ」




