60 フロンティアにて10
60 フロンティアにて10
先程と同じ要領で騎士団の数人が魔物を引っ掛けて来た。
グォオオオォーッ!……
…オーガ8体、ホフゴブリン16体、シャドーウルフ5体、ハンターベアー3体、デスハニースライム6体、ビックトレント14体が後方から、
そして、複数のロックワームが合体した【メガロックビースト】となっていた。体長は10メートル以上はあるだろう。
このデカい魔物が統率系のスキルを使った様で、丘周辺の魔物達が一丸となって一斉にこちらに来ている。
大迫力の怪物がウワーっと迫ってくる。
必死で駆け下りてくる3騎は必死に駆け下りてくるのに対し、待ち構えていた組が迫り来る暴力の迫力に呆けていた。
「みんなこっちにっ!シエラ、うーたん、回収してきて」
茶キングうーたんを含む4匹が今にも追い付きそうな魔物軍団の先頭のシャドーウルフとハンターベアーにハンマーを叩きつけて勢いを抑える。
残りのうーたんが逃げ帰ってきた3騎をこちらに誘導する。シエラは魔銀の鋼線が柄に繋がった魔銀のナイフを構えて状況を俯瞰している。
……メガロックビーストはその地に居る自身より弱い魔物を操る能力があるらしい。こいつは最後にするべきだったね。とはいえ、普段はロックワームとして居るので仕方がない。
これだけ魔物が来てしまったら、もう卓袱台騎士団の手に負えないだろう。ならば先手必勝、私は乗っている盾の高度を上げ、戦場全体を視野に収める。
竜騎士さんはワイバーンに乗って空中で待機していた。彼は周辺探査や連絡役などが適任で、無理すれば一回だけ奇襲ができるかもしれない。こういう状況では大した戦力にはならない。
私は水魔法で水を出す。凍らせる。超速で打ち出す。魔法での攻撃だが、攻撃属性は物理である。
似たような魔法にアイスバレットなどがあるがあれは魔法防御でほぼ防げる。
バンバンババババババババババンッ!
大きいが存外に簡素な音がして、メガロックビースト以外の魔物の胴体に握りこぶし大の大きさの穴が開き、崩れ落ちた。
「ゴアアアアアアアア!」
ブウーンッ!
メガロックビーストが存外機敏に動き、その長い岩の尻尾を蠍のように振り上げて先端の岩をこちらに飛ばしてきた。直径は1メートル弱くらいである。もう一度氷を作り、超速で散弾の様に飛ばして岩を木端微塵に吹き飛ばす。バラバラと小石が落ちていく。粉砕し崩した土煙は風を起こして森林の方に吹き飛ばす。
今度は魔法攻撃で攻める。光魔法で上位魔法の【ハイル・レイ】を発動。
フー…ッヴーーーーーーン!
天空から極太レーザーがメガロックビーストに打ち下ろされる。その光は視界を真っ白に染める。数秒ほどで光は止み、視界が戻ると魔物は赤黒く熱されて動かなくなった。周囲の地面はガラス質になって煙をあげている。……まだ、生きている。流石は岩系のボス魔物、存外にしぶとい。フラグ回収しておくか。
「やったか?」
バキッ、バキバキ
瀕死のメガロックビーストが顔をゆっくりこちらに向けてきた。もう攻撃の余力は残ってないみたいだ。さっさと介錯してやるに限る。
聖剣ヒノキボルグを念動力で加速させる。徐々に加速し、音速を超えた棒はメガロックビーストを貫通して地面に埋まる。メガロックビーストはついに足を折り、脱力した。
「ふぅ」
地上に降りると、転移者達はボケーっと私と魔物の死体を見ていた。
「…ふ、またつまらんものを倒してしまった。ほらほらさっさと剥ぐのです。早くしないとうーたんとソルティアを参戦させるよ」
「総員、剥ぎ取り開始!」
……。
「こりゃ凄い量だ……」
「…凄いわね、無詠唱のアイスバレットでこんな威力が出るなんて」
「朧先生、さっきの光魔法は【ハイル・レイ】ですか?」
ナガモチが尋ねてきた。
「そうだよ。【ゴッド・レイ】も使えるけど、原型留めないかと思ってやめておいたよ。環境と周囲への影響もヤバそうだったし」
ドヤッ!
「さ、流石です!。では、トドメのあの棒はいったい?」
「聖剣ヒノキボルグだよ!」
ドヤァ!
「え?聖剣ヒュノクボルグですか?木の棒で聖剣ですか…不思議な武器ですね」
「…聖剣・ヒノキ・ボルグ、だよっ」
むすっ
「そ、そうですか。聖剣ヒノキボルグ、いい名前?ですね……」
「隊長が働かないなんて示し付かないでしょ。もー早く剥ぎ取りに行きなさい」
ぷいっ
「は、はいっ」
二時間ほどで剥ぎ取りは完了した。素材の約半分は私が貰い受けることになった。ソルティアは血まみれで馬程の大きさになっていた。洗ってあげるとだんだんと小さいサイズになった。
「ソルティアは体の大きさを自由に変えられるの?」
「そうだよ~。今ならママを乗せて飛べるかも~」
おお、ドラゴンに乗って空を飛ぶのはロマンだね。でも私の初めてはきっとシエラだよ。めっちゃこっち見てる。そういえば、シエラのドラゴン形態は見たことない。
「お嬢様、私の真の姿をここで晒すと騒ぎになってしまいますから。……いつか人里離れた所へ行きましょう」
「うん、いつか旅行に行こうね」
駆け落ちフラグが立った。
今はもう午後2時程である。ナガモチは夕方までに丘に簡易拠点を作ろうと画策しているようである。
私達はそんなの知らんので、のんびり丘の開けた場所でピクニック昼食中である。スズカとシエラとテーブルを囲み、サンドイッチと紅茶と焼き肉を出してゆっくりしている。テーブルとイスは土を圧縮成形して作った物である。
さっきの土の柵やら塹壕みたいなの良かったからパクってみた。天界通販で揃えちゃうと後片付け面倒だからね。土ならほっといても大丈夫。エコだね~。まぁガッチリ圧縮しすぎて陶器みたいになってて雨風で分解されるか分からんけど。
「お昼ごはん食べないのー?」
「時間がないですからーっ!」
がんばるねぇ、ポールアックスさん、ハルバードさんは出来る十徳武器。木もバッサリですことよ。でもそういう用途じゃ無いと思うんだけどね。
魔法職の人は土魔法で整地したり、レンガもどきを焼いて積んだり、切り倒して運ばれてきた木を整えて積み上げたりしている。
脳筋組みは手斧やらスコップやらハンマーやらを手にしてなんかやってる。
みんな不慣れで手際が悪い。キャンプっぽくて良いね~。でも私はここでまったり応援してます。はたらけはたらけ~。
「う~」
うーたんは片手を出して立ち尽くしている。はっと何かに気づいた騎士団の一人が銀貨を一枚置く。
「う~ううー」
うーたんは土木作業を30分程手伝った後、また片手を突き出して立ち尽くした。
あざとい!かわいい!
小銭を握りしめて余っているうーたんの所へ歩いていく。
「う~~うっ!」
お金はいらない?なんとプライスレス!オーナー特典!ヒュー!うーたんは私を肩車してブインブインと駆け回る。抜群の安定感じゃ。
夕方になって、適当なログハウスが一件出来上がった。間に合わなかったら手伝ってあげようかと思ったが、気合で間に合わせた様だ。隣にはレンガっぽい土のブロックと丸太が積んである。
卓袱台騎士団は疲労困憊である。おいおい君たち、私はこんな雨風も凌げなさそうな小屋で一泊する気は無いんだけど~。帰るまでが冒険だよ。このまま開拓村に帰ったら夜になるよ。魔物と遭遇したら危ないし、更に帰りが遅れちゃうよ。
「乗り物モンスター仕舞って~。私の転移魔法で開拓村に帰るよ」
全員の時空魔法適正が問題ないか確認して、魔法陣による転移で私の店のある開拓村の門まできた。
門番さんに挨拶して村に入り、仮設ギルドに立ち寄る。転生者が多い、現地の冒険者も多い、つまり人が多い。何人かで集まって話し合っている。喧騒に満たされている。ガヤガヤ、ザワザワと聞こえてきそうな煩雑っぷりだ。
「朧殿!大丈夫だったか、よかった」
「華代さんこんばんはー」
今日の活動報告を済ませる。あんまり使わなそうな素材、大量に手に入った素材をいくらか売却する。白金貨372枚も貰った。
いつも思うけど、ギルドって凄い金持ってるよね。間違いなくこの世界最強最大の組織である。いや、最強はアカデメイア学園グループかな。
どうやら私の光魔法がここからでも分かったらしい。万が一にも魔物の攻撃だったら、と華代さんは気が気じゃなかったらしいが、転移者のネットワークからそれとなく私の魔法だと知れた様だ。
たぶんあの幽霊の参謀さんか、ワイバーン竜騎士の彼だろう。イベント最前線の冒険者ギルドみたいなこの一体感、嫌いじゃないよ。
ちらっと見まわすと正方卓袱台騎士団の様なクラン規模の団体さんは
【七色まじっく】
【筋肉あるのみ】
【エンドレス・ソード】
【絶対エルフ護衛連合(※但し女の子に限る)】
【レガフロ・ウィキ】
……
などなど、ここに来て一気にクランが発生していた。ツカサ達も何処かに所属しているのだろうか。今度会ったら聞いてみよう。
華代さんにギルドの予定を聞いたりナガモチ達と話をしてみると、明日から大きく開拓に乗り出す様だ。華代さんもわかっているようだが、新人冒険者が無謀に先走らない様にと念を押しておいた。
転生者もある意味ベテランだと思うけど、ゲームじゃないからイレギュラーには気を付けて欲しい。多分、今日の私達の戦闘も知れ渡っているだろうし、そのあたりの警戒はしてくれるだろう。 それでも実際に経験をしないとどうにも分からないだろう。ゲームだと初心者でもゴブリンと一対一ならこちらの先制攻撃一発で終わるだろうけど、実際だとゴブリンの個体差あったり、切った後も少し動いて剣でも腹に刺されればヤバイ。それに、血の出る醜悪な人型の生き物と殺しあうのだ。まずゲームの様にはいかんだろう。
私もゴブリンくらい余裕とか言って土壇場で酷い目に合いそうな性格である。気をつけねば。とにかく慎重に行ってくださいね~、と念じておく。
「朧先生。今日はありがとうございました」
「開拓するのは結構だけど、無理しないでね」
ギルドでナガモチ達と別れ、外に出るとすっかり日は落ちていた。ゲコゲコと蛙の声がよく聞こえる。村は建物の間隔が相当広く、その間にポツポツとテントが組まれ、近くには焚き木を囲んでいる冒険者達が散見される。村に帰って来てから皆が私を見ていた。きっと掲示板で私の事を噂してるんだろうなーと思うと恥ずかしくなってきた。さっさとお店に帰る。




