59 フロンティアにて9
59 フロンティアにて9
開拓村を出て北東に進む。最初こそ馬車が通れそうな道であったがすぐに獣道程の細さになり、未開拓らしい原生林、材木を切り出した株などが入り混じる。
ナガモチ騎士長を中央に卓袱台騎士団は隊列を組んでパカパカ、ドコドコ、バッサバッサと進む。ギルドの地図でも未開拓な丘を目指す為か、進むにつれて緑が濃くなる。隊列を維持して騎馬が通るには厳しくなって来る。
≪行く先へ追い風を――ウインドウォール≫
魔法騎兵っぽい女の子が魔法を発動する。隊列を包むように風の壁ができて枝葉を軽く押しのける。
魔法って便利だなーと感じながら卓袱台騎士団の後方を、念動で浮いた盾に乗って付いて行く。スズカを背負ったうーたん達は私の周りに、シエラと一緒に随伴する。
≪敵を見つけろ――エネミーサーチ≫
≪守りの幸運を――セーフガード≫
更に魔法で索敵と防御を重ねる。この世界に来て一週間程でここまで様になるとは関心である。魔法使いこなせるんじゃんね。
坂の勾配が大きくなり道が細く悪くなる。2、3列になってゆっくり進む。濃い森に沢や大岩がちらほらと出てくる。一応道はある。
こいつら良い感じにご新規さんとして楽しんでるな~。ロバ乗ってるくせに。
「ママー、どうしたの?」
私がお腹の前で抱えていたソルティアが話しかてくる。私の子どもかもわからない、得体のしれないドラゴンベビーが生後数時間にして私の機微を敏感に悟り、その愛らしいクリクリとした顔をこちらに向けている。
ぎゅ~
「ママー、あったかい~」
ぎゅーっとやっていると、シエラが何やら頬を赤らめながらこちらを見ている。シエラさんは私のお母さんプレイを見て興奮していた。
ドラゴンをハグハグしている行為そのものが感じ入ったのか、なんなのかはわからない。
「シエラもぎゅーってしたいの?」
……私がシエラにおんぶされ、私はソルティアをおんぶしている。その周囲を盾が念動で空中に漂っている。これは予想外に居心地がいい。
道が沢から離れ、道が広くなだらかになってきた。切り株が多く、開拓最前線はこの辺りなんだろう。
道が良くなって進軍速度は時速10キロメートルは出ている。一応切り出した木材なんかも運んでいる跡があり、馬の入れない様な細い獣道ではない。
となりにはうーたんに背負われたスズカが私をネバネバした目で見ていた。いやね?もうこれ以上派生しようがないからね。シエラと私の間になら入れるかな?ま、ええやん。
む、ゴブリン集団の気配が進路上に存在している。
「騎士長、前方にゴブ複数です」
鳥に乗っていた女の人が報告。探知魔法で捉えたらしい。
「ここは場所も悪くないですし、肩慣らしも含めて突破しましょう」
お、参謀の人かな。それっぽいこと言ってる。
「そうだな、……前方にゴブリン集団!総員戦闘ぅー準備!」
と、隊長。
今まで全然気にもしてなかった参謀さんが喋った。影が薄い中性的な参謀さんである。
リアルに性別がわからないので目を凝らして見てみると種族はゴーストであった。
男で、体もちょっと透けていて服と防具が騎乗しているようにも見える。なぜか目立たない。
ユニークスキルは、
【魄霊】『陰の精神を持つ霊体』らしい。
名はユウヤキさん。
ゴブリン小隊は11匹。先に発見したので、私達は開けた場所で待ち構えている。ゴブリンが人の気配を感じて来るが、こちらの陣を見て少し怯む。が、粗末な武器を構えて走りこんでくる。
「グググ、ギャギャー!」
「魔法斉射、放て!」
ドドドドーン
「魔法各個攻撃、騎馬隊、突撃!」
ドドドドドド……
土系範囲魔法攻撃の斉射、続くランスとポールアックスによる突貫によりあっという間に殲滅。ゴブ小隊は反撃らしい反応を見せる間もなかった。やはり騎兵の攻撃は決まれば強力だね。
見ると、そこそこの武装に身を包んだゴブリン達であった。人間サイズであっただろう装備を改造した物、木と石を加工したであろう武器、何かの皮を雑に加工した服と鎧である。よく見ると雌ゴブも居た様だ。魔物にも文明的な生活があるのだろう。しかし人間とは絶対的な敵である。南無。
「よし!ここで一息入れて、ついでに使えそうな物は剥ぎ取っていこう。総員、警戒しながら戦利品整理、装備と体調の点検をして休憩」
「ママー、食べていい?」
「耳以外ならいいよ。でも美味しくないらしいよ?」
ソルティアがゴブ腹に齧り付く。
「おいしくない~」と言って、今度は口から火を出して肉を焼きながら食べている。こんがり…ほぼ真っ黒にして食べている。美味しいとも不味いとも取れない、携帯食料を食べているような顔である。
その焦げ肉を一切れ念動で浮かせて目の前に持ってくる。ゴブ肉、ちょっと食べてみよう。
「ん~っ……うぇ、……」
炭化して筋張った肉はとても噛み切れそうにない。美味しいタレを付けた不味い肉の味である。なんだろう、火タレ味?炭火焼っぽい。でも香ばしさとは違う何かである。
目の前にはちっこい歯形が付いて私の唾液がベトーっと付いた肉。口を付けた物を捨てるのはお行儀が悪いと思い、周囲の人物の隙を見て捨てようとする。…みんなこっちをチラチラ見ている。え、捨てるよ?捨てるよ?
「マズ……硬くて噛み切れないや、捨てよう」
「お嬢様、僭越ながら私が――」
シエラが口内ミキサーでペーストにしたそれを口に入れたまま、こちらを見ている。いや、その肉そんなに美味しくなかったからさ……。
「え、私はもういいよ」
少ししょんぼりした顔でシエラはごっくんした。なんやねん。女の子が主従でユリ百合ですかね。見ている分にはいいんだろうけど、当事者的にはちょっと……と遠慮したい気持ちが強い。男ならいいかと言うとそうでもないし、勿論シエラは好きなんだけどね。
「シエラ、おんぶ」
ゴブリン小隊を剥ぎ散らかして、さて出発である。そこそこ進んでいくと後数キロで丘の頂という場所まで来た。
「ここで待ち構えて、敵を少しずつ引き付けて各個撃破していきましょう」
「うむ、俺を含んだ数騎で端から引っ掛けて行こう。音の立たない魔法を使って弓騎兵で少しずつ、確実に」
待ち構える役割の卓袱台騎士団と、兎蔵のメンバーはここで待機である。私はあくまでも保険のつもりである。
皆は倒木を積んだり穴を掘って腰ほどの高さの簡単な柵というかただの障害物を積み上げて迎撃態勢を整える。土魔法で補強すると素早くしっかりした柵に見える。
お前らすげーわ。こんなん魔物来ても遠距離攻撃で一方的に攻撃できるやん!これがキルゾーンってやつか~。
私もなんかすげーことしたいな。この異世界に来てまともに戦闘したことがないのも何か引っかかっていた。こう、超絶ビームをぶっぱなしたり、敵に残像を切らせたり、敵の派手な攻撃を完璧に防いでドヤ顔したいのである。
「シエラ、私も戦ってみたい」
「……はい、御武運を」
≪我が命続く限り――ライフスケール≫
シエラが、おそらくは竜種固有の魔法を私に掛けた様だ。シエラが死なない限り私に攻撃できない、万が一この防護が抜かれた場合もシエラがダメージを肩代わりする物のようだ。
ふむ、私はその外側に時空障壁を張り直す。マジンの杖を構える。ヒノキボルグを二本と鋼鉄の盾を四枚、念動で浮かせる。グングニルを慎重に取り出してみる。私でも持てる小さいよくわからない金属で出来ている軽い投げ槍である。
≪忍び寄る無音――サイレンサーウォール≫
無音で魔法杖のディアトリーに乗った女の子と、ハンターウルフに乗る弓を持った男、そして隊長のナガモチがロバに乗って、魔物の居る目的の丘へ行く。
「ガァァー!」
矢が刺さったハンターベアーが二匹とシャドーウルフが四匹が丘を下りてこちらに駆けてきた。時速30キロは出ている。
魔物を引っ掛けてきた3騎は霧っぽい魔法で両脇の茂みに隠れていく。
「ハァッハァ、魔法斉射!」
ドドドドン、ドドン
茂みから隊長の号令。魔法と弓の斉射。ゴブリンとは違い、見て躱したり、体力があるのか魔物はまだ元気だ。
「射撃止め!……騎馬隊、突貫!」
最初の柵に衝突して取り付いて凶悪な爪で粉砕しようとしている魔物達の両脇から騎馬隊が突撃。
「騎馬隊、そのまま散開!」
こちら側から、ランスとポールアックスを持った騎馬隊が隊列を組んで突撃系のスキルを発動させて、勢いの無いハンターベアーとシャドーウルフを削るように攻撃する。
スキルの効果の為か、衝突時に魔物が反撃するが、こちらの部隊に大きなダメージは見られない。
魔物の爪や牙は長柄持ちには届かず、武器を振り払うのが精々で、振り返る頃には駆け抜けている。
また開けた場所で勾配がほぼ無いので上手く行った感がある。
ハンターベアーが一匹重症、シャドーウルフが一匹致命傷である。魔物達はいくつもの柵を破壊してこちらに来るか、今抜けた騎馬を追うか一瞬迷った後に騎馬を追い始めた。
こちら側の遠距離攻撃の部隊から矢と魔法が集中砲火する。魔物は躱したり姿勢を低くしたり防御したりして、その場に足止めされる。
「グゥウ、グワッ!」
魔物の長らしき大きなハンターベアーが叫び、坂を登って引き返す。他の魔物も付いていく。シャドーウルフ一匹が息絶えている。他のウルフも動きが悪い。重症のハンターベアーは重症に見えるだけでまだ機敏に動く。
先ほど突撃して駆け抜けた騎馬隊が、再集合し隊列を組んで、丘を下りながら突撃する。
坂の勾配と魔物の損耗も有ってか、長柄武器の攻撃が魔物にザックリと入って致命傷となる。
「グゥアァァー!」
最後に残った、一番大きい手負いのハンターベアーが咆哮した。ナガモチさんのポールアックスを腕で受けた様だ。暴れ狂い、腕に刺さったままになっている。ナガモチさんは無手である。
柵を迂回してこちらに駆け抜ける騎馬隊の後ろから、死に物狂いで迫るハンターベアーが騎馬隊の後方に追いつきそうになっていた。もう一匹のハンターベアーとの衝突で勢いがなくなったトリに乗った人が危ない。トリも少しバテている。
「ぬん」
念動で浮かせた鋼鉄の盾を一枚ぶち当てる。
熊が止まる。
グングニルを熊の魔物に向かって放物線を描くように上に、ぺいっと投げる。私が投げても数メートルしか飛ばないであろうその槍は、空中で不自然に加速し、大きく円を描くように飛び、上からハンターベアーの胸に突き刺さる。そして火柱を上げた。火柱が消えるとそこには黒焦げになったクマさんがいた。
槍は一瞬で私の手元に戻っていた。やはり神話の武器の名を冠するだけあって大概なチート性能であった。
「朧先生、ありがとうございました。まさかあそこまで攻撃を受けても動くなんて思わなくて」
「戦いなんだからそういうこともあるよ」
丘からの魔物を警戒しながら剥ぎ取りを進める騎士団。クマって美味しいらしいよね。ほら、手が5万円くらいするらしいじゃない……。
あ、クマはお肉も素材なのね……ハンターベアーの要らない内臓と皮を剥がれたシャドーウルフが穴に捨てられている。うえっぷ、グロイです。ソルティアが穴に体ごと突っ込み蠢いていた。
そして、真っ赤になった血塗れの娘が塚から這い出してきた。悪食すぎる、怖いわ。一回り、いや二回り大きくなっていた。お腹が膨らんだのでは無く、しっかりかっこいいドラゴンのフォルムで大きくなっている。水の魔法などでソルティアを綺麗にした。
そうしていると、私が抱けるくらいの元の大きさになっていた。
「ママー、だっこ~」
「……、よいしょっと」
「えへへぇ~、ママのにおい~」
ソルティアは頭を私の襟から服の中に突っ込んでくる。スーハスーハ、舌でペロペロ。…私はソルティアの首を掴んでグイっと引っぱり抜く。
「ん~、めっ!」
「ママ、ごめんなさい…」
ソルティアがしょんぼりと謝ってきた。賢いのかなんなのか…地球人が転生してたりしないよな?
ぎゅ~っとやって、ソルティアを背負う。これ、外付けの羽みたいで結構好きなんだよね。天使の羽のついたランドセル的なね。
「ちょっと男子っ、見てんじゃないわよ!」
スズカが男子達に向かってオラオラしていた。この世界にはまだゴム製の衣服は発達してない、襟や裾には紐や帯が使われる。
シエラが凄い速さで私のはだけた衣服を直す。そこでやっと私は状況を把握し。男子組をキッと睨む。のぼ~っとした目でこっちを見てやがる。大丈夫?幼女の胸チラ見て欲情したりしてないよね?……この、ロリコンどもめ~!
「…よし、そろそろ二回目を始めるぞ!」
各自身体を休めて、騎獣や装備の調子を確認。柵を補強して、魔法地雷なども設置した。
うーん、皆疲れてるし危うい。
丘の魔物を一掃するのにあと何回戦闘をすればいいのやら…と心配になり始めていた。
同じペースだとあと十回以上必要かな……。




