55 フロンティアにて5
55 フロンティアにて5
チリンチリン
「……」
すっごい暗黒系の女シーフっぽい人がご来店した。万引き防犯には声掛けが一番。お互いの意識が犯罪の発生を未然に防止するのです。
「いらっしゃいませ~」
「……」
抜け忍のくのいちっぽいエロい体付きで、髪を後ろで、ふにゃっクルンとまとめている。店の商品をかなりの速さで把握していっているようだ。眼がスキャナーかなんかの様にギョロギョロと動いている。
「お勘定を」
今は勘定をスズカに任せている。かわいいとはいえ、デフォルメされたウサギゴーレムがレジ打ち対応するのはなんだかなぁと感じる。
暇がある時はスズカを積極的に使っていきたい。別に弟子を扱いている訳ではないです。
ただ、便利に使っているだけです。このシーフさん、真理の魔眼で良く見ると魔族の人らしい。見た目は人間なんだけどね。
能力値はかなり高い。Aランク以上Sランク未満と言った程。シエラよりは弱い。
同業者と思われるマリエーラと同じくらいか、少し弱いくらいかも。工作より諜報系が得意みたいだね。名前はミトラ・リカリスタさんである。くっそ噛みそう。職業は、魔王軍近衛らしい。あら、魔王軍の方でしたの。何も起こらないといいなぁ。
ごくごく普通にお会計が終了した。万引きとかも無いらしい。
「朧さんはいるかな?」
…チキッ
よく分からないが八束太刀さんがご来店するなり、ミトラさんを視認、流れるように鯉口を切って抜刀の構えを取った。八束さん、顔が全くの能面で超コワイ。これ、ヤバいんじゃないだろうか。
「あのぉ…お店で暴力沙汰はご遠慮しt――」
「魔王軍の近衛とお見受けするが、人の地に何用か」
「貴方は八束太刀ですね。見ての通り、買い物に来たのですよ」
「人類に仇成す者、出会ってしまったならば――」
「戦いますか?その気ならお相手しますが――」
「お嬢様のお言葉が聞こえませんでしたか?」
シエラが魔銀のナイフを両手に持って私の前に出ていた。こんなに怖いシエラは初めて見たかもしれない。あっあっこれはあかん。
「……」
「……」
「相変わらずですね。シエラ」
「……これは、お恥ずかしい所をお見せしました」
いつのまにかダリアもご来店した。シエラの覇王色の覇気的な物は霧散していく。
「八束太刀、この魔王の家来は買い物以上の目的を持ってませんよ。どうやら東列島を旅している道中みたいですね。
ミトラさんですか?八束太刀はあなた達の気配を察知して来たみたいですよ。
ここで戦う必要はあまりないと思いますが、どうでしょうか」
「……ダリア様がそうおっしゃるなら、僕に否やはありませんよ」
「……確かに、戦うのは得策では無い様ですね」
「では、速やかに解散しなさい」
そうして二人は私の店を後にした。
「ダリア、シエラもありがとうね」
「これも天使の仕事ですよ」
「お嬢様、お見苦しい所をお見せして申しございません」
それにしてもいきなりVIPキャラが三人も来て驚いたよ。魔大陸の人、それも魔王軍の近衛とか初めて見たし、買い物に来るとか。八束太刀さんも大戸に居ないといけないと言ってた割にこちらに来たみたいだし。何よりダリアが現れたのが唐突すぎる。なにか察知していたのだろうか……。
「ダリアはどうして急に?」
「前々から魔王軍が南下してたので、観察してたんですよ。この付近で本隊が止まった物ですから、何かあるのでは、とやって来た次第ですね」
「へぇ、なるほど……。魔王軍って悪い事しないの?」
「今は新天地を探しているようですね。多少個体が強力で気性が荒いくらいで、人間とそう変わりません。人間の国家同様に…それ以上に、争い事も絶えないですが、生まれながらに性悪的では無いでしょう。ちょっと私も外へ様子見に行きますね」
ダリアがサバサバと外へ出て行った。私も野次馬根性で外に出てみる。
「ミトラ、何かイレギュラーがあったのか?エルザの予測が外れるとは珍しい…」
「申し訳ございません陛下」
「ほう、魔王が自らお出ましとはな。気楽なものだ」
ついでに私も様子見で外に出ると、蝙蝠チックな翼と真っ黒な角を生やした、ゴツイがダサくない漆黒の鎧と真っ赤なマントのいかにも魔王然とした男がやって来ていた。
「魔王ですか、目的は果たしたでしょう。早々にここを離れなさい」
「天使か。ふむ、ここは引くとしようか。ミトラ、行くぞ」
「御意に」
「ふん、二度と顔を見せるな」
「お前は、そうか。クックック、そうやって人間に罪滅ぼししている訳か。まったくお笑いだな」
瞬間、空間が歪んだ。八束太刀さんが魔王に切りかかっていた。
ガキィン
「ほう、ミトラが反応できないとはな。お前の遊戯も中々に様になって来たんじゃないかぁ?」
魔王の鎧から黒曜石の柱が生えて、太刀を受け止めていた。オートで発動する何かの様だ。
「そこまでですよ」
……ありえない。
この村一帯に白色光が天から降り注ぎ、日中の様に明るくなっていく…。
そして、天使が降りて来た。ピカピカの鎧を身にまとい、槍と盾を持っている。あの槍は……ロンキヌス!ヴァルキリーと言う奴だろうか。めっちゃ強そうだ。真理の魔眼で情報は読み取れない。
「愚か者!神威は解除して来なさいと伝えたでしょう」
「えぇ~?でも神威で下界を照らすのは善なる行いですよ。それで、そこの魔族は全部殺していいんですか?」
周りを見ると、八束太刀と魔王一派、それに遠くに見える村人、シエラまでもが膝を地に着けていた。これが【神威】という物の効果だろうか?立っているのは私と天界の関係者だけの様だ。
「いいえ、貴女はそこで立ってなさい」
「はぁ~?それ、神の命令ですか?」
「ええ、そうですよ。ここに委任証もあります」
「ふ~ん、でもそれを私に見せるより早く殺しちゃったら問題ないよねっ!」
ギューーーーーーー…ン
一瞬でロンキヌスの槍が魔王に飛んでったと思ったら、逸れて空に飛んで消えていった。
「なっ!」
≪『「リコール」』≫
ヴァルキリーさんが消えて、辺りは暗くなった。魔王の横に如何にも女神らしい人が立っていた。女神らしい何か、としか分からない。
「貴方様はっ!」
ダリアが自分から膝を折り、誰何の声を掛けた。
「声掛けを許した覚えはありませんよ。あなたは確か、ダリアでしたっけ?天使がヴァルキリーを要請する際は予め書類で縛ってからにしなさい。リッちゃんは……なるほど、そう言うことですか」
女神さんがこちらを一瞥する。
「今晩は、エレナちゃん。私は、そうですねぇ、希望の神とでも呼んで下さいな」
女神さんの顔がはっきりしてきた。おっとりした雰囲気の美しい歌姫、という印象を受ける。その恐ろしい美貌と神々しさは見る者を害するに十分なソレである。下賤な地上の生き物が直視したならば、全てを委ねなければならない。
が、逆だ。そんな気がした。真っ当に、精一杯生きている地上の生き物の上位存在として偉い気になっているソレは滑稽で、醜悪で、……そういうのがデジャヴみたいな感じで私の中にある。それはさておき。
「こ、こんばんわ、希望の神さま」
理の神とは出会い方が違うので少し緊張してしまう。だって、明らかにこの場を制圧している。怒らせたらヤバいに違いない。
「そんなに畏まらないでいいですよ~」
はぐっ
だっこされた。とても幸せな気分になった。。。
気づけば、うーストアのカウンター脇の椅子に座っていた。アレ?何してたんだっけ私……隣にシエラが居たので聞いてみる。
「シエラ、私がこのお店を出た後、私は何してたか分かる?なーんかぼーっとしてたみたいで記憶無いんだけど…」
「お嬢様?…私の覚えている限りでは、今日はツカサ君達を送り出してからずっとこちらに居たと記憶していますが…」
ありゃ、これは何か変な事になってるな。
「魔王軍の人来てなかった?」
「来ましたね。暗殺者風の魔族の女性が一人」
「その後に八束太刀さんが来て、ダリアも来たよね?」
「いいえ、私の記憶ではその魔族が買い物を済ませてからは誰も来て無かったかと」
うーん、どういうことだろうか。大方、さっきの希望の神、とやらが神力で何かしたんだと思うけど……。




