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46 大戸13

46 大戸13


「ぐすっぐすっ……」


 暫く子供特有のあの泣き方をして、そして時間が経つにつれて落ち着いて来た。


 ここはマルタの銀の塔の一階の玄関ホールである。脇にある長椅子に座っている。シエラがあやしてくれるので早い段階で泣き幼女モードが解除されつつある。


 商業ギルドのイケメン眼鏡が私に詰問して来て、上手い受け答えをしようと考えつつ応対してたつもりだったのだが、詰問の圧力とその後の展開が容易に想像できていた為に泣きモードに入ってしまった様だ。


 精神異常を包括的に回復して集中力を高める魔法を発動する。

 あれです、


 ≪心は私だけの物――コギト・エルゴ・スム≫


 と詠唱するやつ。


 ちなみに私の開発したオリジナル魔法である。表情筋も一気に正常になって思考がクリアになった。



「ありがとうシエラ」



 背中をさすさす、顔をふきふきしてくれたシエラを労う。




 そういえば商業ギルマスは何か変な事を喚きながら外に出て行ったけど、いったい何だったのか……帰ったのかな?


 釈然としない思いでいると、玄関の方から衛兵さんと商マス……名前はなんだっけ?

 えーと……『ちらっ』ユーノ・グラスさんが衛兵さんに連れられてこちらにやって来た。


「朧先生はいらっしゃいますか?」


 衛兵さんが声を張った。


 ユーノは表情に精彩を欠き、体を脱力して衛兵さんに寄りかかるようにして辛うじて立っている状態だ。

 なんでいきなりそんな状態になっているのだろうか……精神状態は【絶望】になっていた。


「はい、わたしだよ」


 とりあえず返事をする。



「あー、すみません、商業ギルドのマスターのユーノ・グラスさんが朧先生を訪ねた後に学園の庭の木で首を吊ろうとしていた所を取り押さえまして……えー、事情を?聞きに来ました」



「うーん、私の使い魔のうーたんがマルタの商店街で買い物をした件で事実確認にきたみたいなんだけど、急に様子がおかしくなって…」


 ユーノがキョドった眼でシエラを視界に収めた後、震え出した。


「あ…あああぁぁぁ…」


 床に手をついて顔を伏せ、息を出すように呻く。


 え、シエラが怖いのかな?こういう時は魔法に限る。先ほど使った精神異常回復の魔法をユーノにかける。


 えるごえるごぉ。


 するとユーノがスッと立ち上がってこちらを見た。


「っは!、失礼、少しお手洗いに行かせてもらおう」


 ホント意味わからない。暫くしてお手洗いからユーノが帰ってきた。



「大変お見苦しい所をお見せした。…なんといっていいのか。とにかく、落ち着けて話をしよう」


 さっきみたいな高圧的な物言いではなく、普通の喋り方になった。

 でも絶対にシエラを直視しない…過去に何かあったのかな?そういう反応でもないんだけど……まぁいいか。



 それでもさっきの高圧的に押しかけて来たのが印象に残っているために相対すると気が引ける。

 『なんかヤダ』というやつだろうか…理屈では邪険にする理由は無いんだけどね。苦手なもんはしょうがない。シエラにぎゅっとつかまってユーノを見上げる。


「……」


「もう変な事は聞かないし、嫌になったら帰って良いから……」


「……うん」


 ともかくも、話をしないと始まらない気がしたので塔一階の食堂の一角のカフェコーナーに移動して座る。

 衛兵さんはユーノにキツめの視線を送りながらも、話の目途が付いたのを確認した為か、塔を出て行った。衛兵さんの株ちょい上がってる感。



「コーヒーを一杯、紅茶を二杯お願いします」


 ユーノがウエイトレスさんが来た時に注文をする。こう言う所はできる感じがするね。しかも前払いしてる。お釣りも無くきっかりと払っている。なんか、さすが商業ギルマス?


「おごってくれるの?」


「はい、どうぞ私に。それでですね、不都合が無ければでいいのですが、買い占めた目的などがあるのであれば教えて貰ってもいいですか?」


「いいよ。えっと、東列島で雑貨屋をしながら開拓のお手伝いがしたいの」


「……ふぅむ、そうですか。個人でそういう目的意識を持って商業が出来る事は尊敬します。特に問題も無いですし、そのままお願いします。わざわざ押しかけてしまってすみませんでした」


「うん?ありがとう?」


 なんか拍子抜けである。向こうもなーんか釈然としないなぁ、みたいな受け答え。



「一応、これに目を通して貰っていいですか?」


「なに?」


 ユーノが鞄から紙束を取り出す。目を通すと、どうやらうーたんが買い占めてきた店の販売歴を書き起こした纏めた物のようだ。こんなのいきなり見せてどうしろと言うのか…


「だいたいで良いので、買い物と内容は合ってますか?」


 陳列したから見覚えがある。大体合ってるねたぶん


「たぶん合ってるかな~?ちょっと書き漏れがあるみたいだけど」


「やはりそうですか、あ、いえいえ特に問題はありません。マルタの商業を預かる身としては、帳簿で売買の実態を正確に把握したいのですが、まだまだ捕捉率が低い様で……」


 な~にが言いたいのかな~?


 幼女にそんな事言ってもね~。でもそんな事を言われると知識チートを発揮したくなる。


「マルタは商品を売る時に税を取ってる?」


「ええ、物に寄ります」


「三面等価の法則と言う物がありまして……。生産、分配、支出が等しくなるって言う考え方だよ。内部で完結した経済ではかなり正確だね。これは様々な大きさで適応できるよ。

 うーん、方程式ってわかる?そうね、例えば街の人口が正確に分かるとして、内訳は現地の住民と旅人に分けるとするよ。住民は税を納めているとして何人かは旅人として税を納めずに、でも住民の権利を享受している人が居るかもしれない。要は嘘の申告を自治体にして脱税する人ね。

 街で考えると、旅人として申告か、住民としての申告が更に正確であれば、街の総人口から引き算すれば残りも正確に分かるよね。

 でも現実には正確に分かることはないよね。ここで、例えば神殿の治療を受ける時に住人として控除を受けた記録、住人の年貢納税の時の記録、門番での旅人の記録もそれぞれ、普通は住人と旅人で重複しないよね。街単位の管理だと分からないけど、地区単位で、更に日時も絞たりすると、消去法で虚偽申告している人や黙っている人が分かったりするのね。

 これが経済でも通用するのね。えーと。普通は畑は逃げられないから、作付面積と不作豊作の視察である程度作物の取れ高分かるから税を設定すると思うけど、街にパンを脱穀して焼いたり加工する施設が一つしかないとして、家庭での小麦の加工を禁じたとすると。小麦の作付け面積測ったりしなくても施設で持ち込まれる小麦だけ見てれば良いよね。

 他にはー、難しいけど、市場を一か所に限定して、街での全ての商いを監視できれば、管理はしやすいよね。

 そうやって実際の金と物の流通を、できるだけ正確で分かりやすい箇所で記録を取って測ることで、他の分かりにくい場所を計算で出せたりするんだよー」


 投資のビジネスライクな概念、貨幣創造、インフレデフレ、証券、その他を軽くレクチャーした。何やってんだろう私は。


「なんと、こんな考え方があったとは!すごい、するとこれはこうなって…」


 やっぱりこいつは経済バカだったか。御した手応え。幼女を言葉責めする鬼畜だしそうかなとは思っていたが…ここは釘をさしておくか


「商マスさん、経済は魔王よりも強大な物です。どうしてかわかりますか?」


「…え?、ん~、見当がつきません…」


「例えば……こうすると金が増殖します、その分の皺寄せが生産職と商売人に伸し掛かって大変だね。例えば……こうするとインフレになる。生活必需品を中心に値上がりして農民、貧民が飢餓で死に絶えるね。例えば……こうすると国が税を徴収してないのに国民から徴税した様な効果がでるよ。……」


「そういうわけだね。特に経済を良く回そうとして流通貨幣を増やすことに囚われるとインフレになるよ。物の量は急に増えないからだね……。この様に、意図的に介入すると殆どの人に気づかれないままに、村を滅ぼしたり、人を身売りさせて奴隷にしたり、金を奪うことが大規模にできるんだよ。……だから、経済のバランスには気をつかってね。おかしな事をしたり悪用したらダメだよ?」


 『ダメ』というのは、世界のバランスを故意に崩すような事をしたり、庶民から搾取したりした場合は『パーン』するよ?っと言うことである。


 経済の概念が発達していないこの世界で。この手の操作をするとまず間違いなくやりたい放題になるからね。

 転生者もいっぱいいるからそのうち変な事を考える奴も出てくるだろう。ここは重要なポストに位置しているユーノに『経済』の仕組みを教えて上手くバランスを維持してもらわねば……と思った次第だ。


「朧ちゃん…そこまで考えているなんて君はいったい……。いや、そんな事は重要じゃない。私にこんな大事な事を教えてくれてありがとう。君はしかも優しい。これから経理顧問とお呼びしても?そうだ、商業ギルドカードを発行しましょう。…」



 流石経済バカ、シーゼルに魔法をチラチラした時よりも強力に食いついて来たね…でも面倒なんで。そこは自分で試していけよ~。



「面倒な事は嫌いだよ?機会があったらなんか教えてあげるけど……。そうそう、経済は人々が全ての物事に値段を付ける事が根幹にあるんだよ。

 これが一番大事な事。不安、好意、期待、嫌悪、などの感情が経済の中の数字に反映されるんだよ。これがどういうことなのか、経済をよく分析して確かめてみて。経済を通して人の顔が見えてきたら、今度は経済を通して皆を笑顔にするんだぞ~」



 話は以上だとでも言うように紅茶をグイッと飲んで落ち着けてユーノを見据える。


「経済から人々の感情を読み取る……か。言われてみれば、噂で値段が上下する商品はあるね。貨幣と穀物のレートなんかもその時々で変わる。……ありがとう、君に会えてとても良い刺激になったよ」


 よし、経済面でのバランス調整を無理やり商業ギルドにねじ込んで解決した気になった。人も物も使いようってことだね。がんばってね~。


「じゃあね~」


 ユーノを見送った。さてさて、物資の補給も済んだわけだし、早く東列島に戻りますか。


 んー、統計学や投資、株なんかはそうかもしれないけど、商業ギルドのギルマスが居たとして、経済にこんなにアホな訳ないですねw。

 ベニスの商人くらいには色々知ってて知恵回ると思うんですよね。戦争時に不安を煽って食糧を高額で国や人に売りつけて武器もなんもかんも売りつけて、実は相手国とも繋がってて、じゃあ戦争は止めてもらって、安値で食糧を引き取って……くらいは普通にやりますよねw。

 国も国で機会あらば冤罪で一族郎党皆殺し&財を接収は余裕でしますよね。で、お互い軍部に賄賂を積んで情報やりとりして、軍部も司法も腐ってて色々…とか考えると物語が汚っなすぎてリアルな汚物を延々描写する作品になるんじゃよ。ヒャッハァー!!


 そう言う訳で経済の不自然さは見逃してください。奴隷、男尊女卑、世紀末思考でホントに世紀末の無法地帯。犯罪し放題。すぐ拷問や性描写入るのが順当な世界描写ですが、そんな事は無い。


 性善な人々、優しい世界基準ですね。

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