23 エルサル正教国2
23 エルサル正教国2
おねしょに端を発するという、締まらない始まりであったが、自分の存在、この状況を落ち着いて受け入れ、前に歩き出せた。
多くの人が、『気にしすぎ』と笑うかもしれないが、こういう自分の整理は大事だと思う。
特に刺激の多いファンタジーの世界では倫理観や価値観をかき回す出来事が目白押しである。地に足着けて歩いてかないと、歩く方向も、自分さえも見失ってしまうだろう。いわゆる『闇落ち』や、昔の自分が見たら明らかに異質な何者か、に変貌しているかもしれない。だが、臆病になって立ち竦んでいてはどこへも行けない。ゆっくりイベントを消化し、納得できるストーリーラインを引いて行くのが大事なんだと思う。
今は九時くらいだろう。相談の念話の後に朝食は済ませた。エルサルに行くのは何時になるだろうか、ダリアの事だから、早ければすぐにでも、となりそうだが…。とにかく念話で連絡してみるか
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[朧幼女]『おはようダリア、今大丈夫か?』
[ダリア]『はい、おはようございます。大丈夫ですよ。エルサル正教国の件ですか?』
[朧幼女]『そうそう、話が早いな。どうなりそう?』
[ダリア]『どうしたいですか?』
[朧幼女]『んー、慰安旅行?』
[ダリア]『となると、まずはエルサルのアカデメイア学園に行ってから、周辺をゆっくり観光するのがいいですかね。向こうの学園には礼拝堂もありますし、学園の近くに教会、もっと進めば大聖堂なんかもありますよ。観光旅行者も多いし巡礼者もいますから、もってこいですね』
[朧幼女]『ん~、幼女でも歩いて行ける?』
[ダリア]『ちょっと疲れちゃうかもですね。そういう名所には乗り合い馬車が出てるので大丈夫です』
[朧幼女]『あーいいね、巡礼の旅って感じする』
[ダリア]『本当の巡礼者が結構いますから、その人達に乗っかって観光巡りしてみるのアリですかね』
[朧幼女]『そういえば治安とか大丈夫?私エルフでエルサル教の信者じゃないし、人間至上主義でもないけど』
[ダリア]『大丈夫です。エルフは魔法に長けていて光魔法の神聖な魔法が使える方が多いため、寧ろ崇められるかもしれませんね。エルサル教では神聖魔法を使えることはかなりのステイタスなんですよ』
[朧幼女]『それはそれで嫌だわぁ』
[ダリア]『ふふ、では転移魔方陣は既に調整してあるので、後は身分証を持っていけばすぐ行けます。自由に行き来できるので、思うように旅行してきてください』
[朧幼女]『仕事が早いな、ありがたく使わせてもらうよ』
[ダリア]『はい、それでは、良き旅を』
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相変わらず有能なダリアだね。転移魔方陣は中庭の地下室だったかな。別段用意する物も、予定も無いのでさっそく行ってみよう。シエラを伴って地下へ。
石造りの階段を降りて、地下の転位魔法陣がある一室に到着した。
「なるほど、良くできた魔法陣だ」
許可された者しか使えない設計になっており、また向こうに問題がある場合も転移ができない様になっている。シエラも一緒で問題なさそうだ。魔法陣の上に乗って魔力を流し、ぴかっと転移した。
転移してみると、レンガか石造りの上にモルタルか石膏で舗装した、こっちも地下室だろう部屋だった。
そういえばこちらでは誰に頼ればいいのかね?今の所、学園の地下室に発生した正体不明な幼女とメイドのセットなんだけど、
『ッカッカッカッカ、ガチャ、ギィーィ』
と、シスターの装いの人が扉を開けて入って来た。話が通っていたのかな?
「こんにちは、ようこそエルサルのアカデメイアへ。私はシスターのマリエーラで、この学園にある修道院に籍を置いています」
気の抜けた、人生を舐めきっているかのような『ふわぁ~』という擬音の似合う声で、赤髪、赤目でウエーブのかかったモッサリロングヘアで、フード的な物で顔の半分程を隠した、骨格は細身で…何歳に見えるかな?、若くて肌は白い修道女のマリエーラさんから挨拶を頂いた。
「私は朧って言います。こっちはメイドさんのシエラ。よろしくおねがいしましゅっ…」
噛んでしまった。怪しい香りがしたので真理の魔眼で見てみると、やっぱり怪しい人物だったようだ。
種族は魔族で、歳は数世紀ほど、基本の能力値は全てB以上で、筋力A、物理防御性能A、俊敏性、器用さはS 職業はアサシンとなっている。 仕事の出来の良さを天界関係者から称賛。称号は[闇夜の死]となっていた。ダリアの知り合い、こんなんばっかりなのか。
「ふもぉ~、朧ちゃんかわいいね。私はマリーで良いからね、とりあえずお着換えしよっか?さぁさぁあちらへ、さぁさぁ…」
いきなり獲物としてロックオンされてしまったようだ。
「マリエーラ、煩い」
「こわえぇ~!シエラちゃん、スマイルスマイル…この前、美味しい紅茶の淹れ方教えてえあげたじゃないですか、それで朧ちゃんひとタッチぶんです」
さわ、ぷにぷに
「うほぉたまんないっすねこの肌…ぶほっ」
シエラの縮地的な何かが決まり、マリエーラは壁に埋まっていた。シエラの残心を見るに、どうやら腹パンのようだ。
「とっとと案内しなさい、シスター」
「…いやぁ~、その縮地、どんな原理なんですかね?あいかわらず意味わかんないっす。かけっこでは私の方が早いハズなんですけどぉ…。あ、朧ちゃ~ん、あっちだよ~?」
何事も無かったかのようにめり込んだ壁から出てきて近づいてくる。
やっぱり獲物を見る目だ!濁ってるよぉ…シエラにぎゅっとする。
「っち、シエラ、貴様ぁ~その余裕ヅラぁ~」
そんな感じで、地下から地上に向かう。やはり地下には多目的な小部屋と鉄格子の嵌っている部屋がある。牢屋は内装を見るに、動物的な何かを飼っておく目的の様だ。
こちらの学園も地上に上がると中庭…というか庭園になっている。あたりは石材系で綺麗に舗装されている。校舎も直線と曲線で荘厳で華やかな造形美を造りだしている。ロマネスク風ミッション系の学園、と言った感じだ。ロマネスク風はロマネスク風だよ?