22 エルサル正教国1
22 エルサル正教国1
昨日はオークの村を壊滅しに行った。あの山賊たちはオークより先にあそこに住んでたのだろうか、ばったり遭遇したのだろうか、筋肉、脂肪の部分は食われてたみたいだけど……
山賊の血、オークの血、赤く黒く、生命そのものがドクドク流れて、真っ赤になって、ぬるっと纏わりついてくる……、それはまるで、失われ逝く生命が私を責めさいなむ様であった。何故見捨てた。お前もこっちにこい、そう言って死後の世界から私を引き込もうと纏わり付く手の様で……
起きた。あ、この感じ。おねしょしてしまったか。さっきのぬるま湯につかる感じはこれかぁ… などと納得しつつ、とりあえずひたひたのベッドから這い出す。黄色いプールが目の前にある、ネグリジェの下半身と背中はピッチリ肌に張り付いている。ふえぇ。
村に居た時は、「エレナちゃん、おねしょだね!」などとちょっとテンションが高くなった母が私に着替えをさせてから、ベッドの上のお布団部分の処理をしてくれた。おねしょした事実を犯人にしっかり告げるのは再犯防止の教育なのだろう、か?
昨日は寝る前にジュースを飲んでいたのを思い出す。後でトイレ行くから大丈夫大丈夫…と考えて、結局そのまま寝たんだな。シゴトデツカレテタンダ…シカタナカッタンダ…なんで幼女って寝る前に飲み物飲むとおねしょしちゃうんだろうか…
犯行現場には、家政婦がいた。一部始終を見ていたんだろうな。
「シエラ、ごめん、ぉねしょ…」
ぅう、なんと情けない。
「おはようございますお嬢様。御体に障る前にどうぞあちらへ」
「でも部屋とか汚れちゃうし……」
「いいのですよ」
シエラは私を抱きしめてくれた。
「うん……」
寝起きであんまり脳みそが付いてこない。
その後、浴場の洗い場に直行。体を洗って綺麗になってあとはいつも通りの朝である。そういえば魔法でなんとかすればよかったな。寝起きだったからか、習慣だからか、そういう考えに至らなかった。対おねしょマニュアルに書いておこう。朝のおしっこも普通に出た。快尿なのがなにか憎たらしい。
『も~、なんでおしっこ出るの?もぉ~』と『おしっこのせい』という意味の分からない理屈でおねしょ罪の減刑運動をする気持ちと、『幼女だからね、おねしょとか普通。生理現象だわ』とか『幼女おねしょprpr』と特に意にも介さない思考が混在した。
統合失調の兆しが感じられ……普通のエルフの少女、エレナのあるはずだった平穏な人生、それに付随して"魂"はどうなっているのだろうか、俺が来て乗っ取ってしまったのだろうか。殺してしまったのだろうか。
…深い倫理的命題に直面し精神に相当の負荷がかかる。このままではいけない、神に相談しよう。
「お嬢様?どうかなさいましたか?大丈夫ですか?」
普通の水洗トイレにタラップ、小さい便座、手すりで幼女用に改修されたトイレの個室の中でかなり長い時間居た様だ。
「…だいじょうぶだよ~」
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[理の神]『なるほど、それで悩んでいると』
[朧幼女]『寄生して宿主の幼女を殺めてしまったような気がして、どうにもならん』
[理の神]『貴方の思うような心配はないのですが説明が難しいですね。元のエルフの魂は消えたりしないですよ、今後とも』
[朧幼女]『でもさ、今回の人生は俺が潰したわけでしょ?そういう意味でも両親を、周囲をだまして居るだろうし…このキモチ なんとかしてくれ』
[理の神]『程度の差こそあれ、エルフの受ける精霊の加護、祝福としては良くある事なんですよ。普通は少し気質が変わる程度でしょうが。ん~、わかりました。パラレルで、今回のあなたの世界からの転生してくる魂がない世界を構築して、あなたの言う、"本来の人生"と言うのを、該当する魂に与えましょう』
[朧幼女]『たすかる。それ聞いて少し落ち着いた。…神って凄いんだな、流石神様だな』
[理の神]『私だけじゃできないですけどね』
[朧幼女]『わがままで迷惑かけるわ…』
[理の神]『いえいえ、凄く真っ当な理由ですし、神々はこういう事をしなければなりません。寧ろ良い事言ってくれました』
[朧幼女]『ふう、そうか。お前マジ神だわ』
[理の神]『当たり前です。それでですね…』
[朧幼女]『な、なに…?お代は体でとか?』
[理の神]『違いますよ!?落ち着いてください。貴方の精神…んー、魂が摩耗してます』
[朧幼女]『え?…っと?』
[理の神]『今回あなたは突発的に思い悩んで、精神的に苦しみ、そしておそらく無意識に、解決方法として自身の消滅を願いました。精神、魂にショックが残ってます』
[朧幼女]『言われてみるとそんな感じするわ』
[理の神]『ん、説明すると良いみたいですね。持ち直してきました』
[朧幼女]『お前、カウンセラーだったのか』
[理の神]『神です。それで、慰安旅行というわけでもないですが、神聖な、あるいは幻想的な所にでも行ってゆっくりしてみるのはどでしょう』
[朧幼女]『あーそれ、よさそう』
[理の神]『エルサル正教国あたりがお勧めですね』
[朧幼女]『大聖堂とか、ミサとか、ミッション系お嬢様学校で御機嫌ようか、わくわくしてきた。女神像とかあるかな?』
[理の神]『あると思いますよ』
[朧幼女]『適当だな。教徒は日夜、神を信仰してるだろうに』
[理の神]『人間が勝手に都合のいい神を作って信仰してるだけですし?わたしいませんし?』
[朧幼女]『ええ~ …まぁそうだよな』
[理の神]『雄大な景色、神秘的な雰囲気を味わってください。細かい事は天使の…ダリアに聞いてください』
[朧幼女]『うん、色々ありがとう』
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そういうわけでエルサル正教国へ行く事になった。
我思う、故に我あり。
思う。それは思考。それが保証するのは思考という論理回路が走っているということだけであり、その外には水槽の脳があるかもしれないし、あるいは世界で意識を持つのは自分だけかも知れない。自我などという摩訶不思議なものはなんなのだろうな。
その様な事を考えたが、有益な思索とはならなかった。が、これがこの世界の命題である気がしてならない。




