24 エルサル正教国3
24 エルサル正教国3
さて、エルサル正教国のアカデメイア学園はロマネスク風の見ごたえがある場所である。無神論者がふらっと立ち寄ったならば、思わずエルサル教に入信してしまいそうだ。
「あっちが教会、隣が修道院、反対側のそっちは勉強とか運動する建物ですね~。礼拝堂は小さいけど教会にありますよ」
前世では十字がシンボルだったが、こちらでは*(アスタリスク)の下が伸びた物がシンボルだ。あちらこちらの建物の目立つ所に散見される。シンプルなシンボルというのは大衆向けの宗教にとっての必須条件ではなかろうか。
「朧ちゃんはここを拠点に観光するのが良いと思うけど、何処を宿にする?教会の職員用の所か、修道院の居住区のどちらか、大穴で使われてない部屋がちょこちょこと各施設に余ってるからそれ使っても大丈夫」
ふーむ、別にこっちに泊まらなくてもいいんだよな。転移魔方陣もあるし。
「私、マルタにおうちあるし、転移も簡単だから大丈夫だよ?」
「むぅ~、観光はお泊りもセットで楽しんでこそだよ?お泊りしようよ~お泊まり」
言われてみるとそうかもしれない。無難に修道院か、静かな教会か… 適当に選んだ、修道院にしよう。
「じゃあ修道院に泊まる」
そういうわけで修道院に来た。今はお昼前だからか学生や教師らしい人は見かけず、施設を管理、維持していると思われる人がポツポツと居て、自分の仕事をしている。 内装は豪奢な造りでも無く、また華美な造りでも無いが、しかし整然と統一された造りの綺麗な廊下が、ホールが、階段が、すれ違うシスターさえもが違和感なく調和している。規則正しく陽だまりと陰影をも配置したその様は、なるほど神秘的な一つの世界を魅せている。
「なかなか良い雰囲気でしょ~。初めて来た人はみんなそういう顔をするっすね。この部屋がいいと思います。従者を連れている人、御令嬢さんが住むタイプのお部屋っすね~」
案内されて部屋に入ってみる。中はそこまで広くはない。スイートルームの水回りが少なくなったバージョンとでも言う感じか。
内装も家具も簡素だが、統一性があって高価な一点物があるよりも調和が取れている。建物全体の色合いをそのまま個室にも反映しているのか、壁は白塗りを基本としている。窓が大きく日の光を大きく取りこんでいる。日中は明るい太陽の色を視界に満たし、夜は神秘的な夜景を映し出すのだろう。悪くない。こちらに来た時はここを拠点にしよう。
「むふふ~、気に入ってもらえたみたいですね~。貴族の御令嬢なんかも、最初は「こんな所に住むなんて!」っと言って難色を示すんですが、なんだかんだ言って住んじゃうんですよね~」
彼女はポッケの中をゴソゴソと漁って何かを取り出した。
「あとこれを…っと、朧ちゃん、もうアカデメイアのカード持ってるっすよね。ちょっと貸してもらってもいいですか?」
ホテルによくある感じの何か更新的なのがあるのだろうか、とりあえず渡す。
「はい……………はい、これで朧ちゃんはこの部屋に住んでいるシスターということになるっす。部屋が魔法刻印での開閉式なので、それをかざして貰えば扉が開きますよ。あ…もちろんマルタの方での身分も残ってるので大丈夫ですよ~」
話の途中でシエラの目のハイライトがすぅーっと薄くなっていた。私を取られるとでも思ったのだろうか。
「これで後は好きにぶらぶらしても大丈夫なんですが、何処に行くにしてもお着換えした方がいいですね」
シスター装備か、なかなか燃えるものがあるな。
私に合う修道服を探しに倉庫の方へ移動。一番小さいサイズの修道服なら着れるみたいだ。
「これなんか丁度いい大きさみたいですね。じゃあお着換えしましょうね~。初めては先輩が新人に修道服を着せるのが習わしなんですよ~。シエラはそこで待っててくださいね~」
本当か?本当にそんな習わしがあるのか?如何にもそれっぽいが…今考えたんじゃないだろうな!
「くっ…お嬢様、お気に召さないならすぐにでもお申し付け下さいね!」
マリーが私の服を脱がしていく。特に変な事は無いが、ゆっくり確かめるように服を脱がす。あ、シエラの唇から血が……大丈夫だろうか。
その様な不安な顔でシエラを見ていたのがイケなかったのかもしれない。シエラの目から色が失われたかと思った刹那、ついでその姿も消えた。
「マリエーラ、妙な事をしたら…分かるわね? 早く済ませなさい」
マリーの首に怪しく光る銀色のナイフの刃が向けられていた。
「ひぇ~、めっそうもない、普通にお着換えしてたよねわたし、ただ朧ちゃんの服がかなり良い素材だったから、もちろん朧ちゃんもいいけど… ひぃ~、刃が触ってるよ? ごめんなさいごめんなさい…」
首から血を垂らしているマリーにテキパキと修道服をきせてもらった。姿見を見ると、シスターコスの幼女が居た。銀髪と実によくマッチしている。
「朧ちゃん、シスターも似合いますね~、かわいい」
言うだけでおさわりはしない。今のシエラの前でそれをすると首が分離するからだろうか。でもシエラもこちらを見て、なにやら満足そうな顔をしている。一人死にかけたが、無事に観光準備が整った。
「そろそろお昼っすね。ご飯を食べてみますか? 食堂で、食事前にちょっとお祈り的なのしますよ」
おーそれっぽい、私も混ざってお昼ご飯を食べてみよう。
食堂のあるホールに移動した。学生がだいぶ集まって来ていた。大きくて長い机が並んであるあたりに各自昼食が乗ったトレーを持って行き、着席していく。
教員と神父さん以外に男性は居ない。こういう所に配属されると、女生徒との爛れた生活をしてそうだがここはどうだろうか、…いや、たぶん肩身の狭い思いをしているんだろうな。
二階の方でも席があるようだ。そちらは比較的小さいテーブルが並んでいる。長いテーブルの方に座るよりこちらに座る方が私としては好みなのだが、あまり人は来ていない。…なるほど、食事を配る所から遠いからか。
私たち三人も並ぶ。ちなみにシエラは已然としてメイド姿だがぼっちで浮いたりはしない。貴人の御付きの者や、給仕の人は修道服の上からエプロンだったり、普通の服の職員も居る。ただ目につきやすい。この中でお嬢様を探すなら、従者を探したほうが速い程度には目印になる。
ここでは全員が並び、一人一膳持って行く。御令嬢も、従者もだ。なかなか悪くないシステムだと思う。私にも問題なくお盆を持てた。献立は、マルタの冒険者御用達の食堂のランチセットよりちょこっと上品かな?というくらいだった。
折角なので二階に行く。そのままこのお盆を持って行くのはきついので、魔法で浮かせてそこに手を添えて楽をした。椅子の上に魔法でクッションを時空アイテムボックスから出して置き、小さめのテーブル席に着く。少し待つ。食膳を取りにくる人が捌けて、立ち上がっている者が見えなくなったあたりで神父さまがやってきて、言う。
「それではみなさん…」
「「「今日この時、私たちが日々の糧を得、平穏なる日々を享受できる事をエルサルの神に感謝します。シグーラ」」」
『シグーラ』と言うのは音だけが残った言葉らしい。霊験あらたかさが確かにここにあるという様な意味らしい。イエスとかアーメンとかそういうのに近い。
普通の昼食メニューだけど、なんだか美味しい気がする。日々の糧のありがたみ的なのが食事に加わって滋味深い。良く噛んで食べていく。
もきゅもきゅと食べていると、食べ終わった人がこちらをチラチラ見てくる。
む~、見せもんじゃねーぞ!もきゅもきゅ……。うめぇ。




