異世界
すいません。作者の都合で暫く投稿が途絶えていました。まだ打ちきりではないので引き続きこの小説を楽しんで下さいましたら幸いです。
「まず、あなた方はどのくらいこの世界の現状をごぞんじなのでしょうか?」
僕の魔力が無いことの騒ぎが一端収まった後、仕切り直すようにセルドが口を開く。その問いを直接投げかけられた一之瀬はギクリとしたように硬直した。当然だ。すごい魔力はあるが神の使徒なんて全くのデタラメなのだから。仕方なく僕が答えた。
「すみません実は地上に降りてきたばかりでまだあまり把握できてないんです。差し支えなければ一度説明してください。」
セルドは一瞬「何でお前が答えるの?」みたいな顔をしたがすぐに取り繕い説明を始めた。
時は1000年前にまで遡る。東の海を越えた先に住む魔族という種族が海を渡って5つの国からなるここセレス大陸に侵攻したという。
絶望と怨嗟の渦巻く激しい戦争の末に人族は滅亡の危機に瀕した。しかし大陸を守護する女神セレスは人々を見捨てることはなかった。神の御業によって一人の英雄が召喚された。幾多もの死闘の果てに英雄はついに魔王を討伐し、魔族の侵攻を辛くも退けた。
しかし魔族が滅びた訳ではなく今でも東の海を渡った先の大陸は魔族の領域だ。彼らは徐々に力をつけ再び侵攻する機会をうかがっているという。そしてついにその準備が整いつつあるのかここ数年魔族の動きが活発になっている。今ではまだ小競り合い程度だが今後いつまた大規模な戦争に発展するか。
「ここエルシアナ王国は大陸の西端、つまりもっとも安全な領域です。しかし、東のノーラス皇国やグラナビア王国はいつ再開されかもわからぬ魔族の侵攻に怯えています。このままではいずれ人類は滅ぼされてしまうでしょう。しかしこの地を守護せし我らが女神セレス様は人お見捨てにはならなかった。魔族におびえる我々のために再びあなた方のような素晴らしい英雄を使わしてくださったのですから。神の使徒様どうか我らに力をお貸しください。」
恍惚の表情で力説しセルドは説明を終えた。セラはうつむき黙ったままだ。その表情は影に隠れて読みとれない。
一瞬だけセラと目が合った気がした。その目がぞっとするほど冷たい色を宿していたのは僕の気のせいだろうか?
しかし彼女の表情はまたすぐに影に隠れそれ以上何かを読み取ることはできなかった。それに今は他に優先すべきことがある。あまりに急な事態に大人である教師でさえも言葉を発せずにいた。場に重苦しい沈黙が落ちる。しかしずっと黙っていては怪しまれる。フミ姉のせいで無駄に肝が据わってるため比較的冷静な僕が返答した。
「すみません想像以上の深刻さに言葉を失ってしまいました。一度我々だけで話をさせてもらえないでしょうか?」
「分かりましたごゆっくりどうぞ。」
セルドとセラが部屋から出た後、僕は念のため部屋の周囲の気配を探る。盗み聞きなどはされてないようだ。
「さて、やっとゆっくり話せるな。」
「私、こんな感じの状況本で見たことあるわ。」
僕が口を開いた直後、真っ先に手をあげて発言したのは雫だ。
「異世界転生ってやつですよね。」
「正確には転移だけどね。」
「てことは俺達、これから魔族と戦うってことか?」
静乃の言葉を雫が訂正し、速水先輩が不安げな声で恐らく全員が薄々思っていた予感を明確に言葉にする。得たいの知れない相手と戦う。想像もつかない恐怖に場の空気はますます重くなる。
「そんな・・・それじゃ私たち帰れないの?」
女子生徒の一人がもっと根源的な懸念を口にする。
「うそだろ・・帰れないってなんだよ!」
「なんでこんなことに・・・」
「やだよぉ、パパぁ、ママぁ」
それを皮切りにそれぞれが好き勝手に感情を吐露する。突然意味の分からない状況に放り込まれて恐慌するなというほうが無理な話だ。
「やるしかない。」
しかし危うくパニックになりかけた空気を切り裂くように一之瀬が堂々とした声をあげた。全員の注目を浴びた一之瀬は毅然と告げる。
「神の使徒と名乗ってしまった以上、戦わないなんてできない。それに今も滅亡の恐怖に怯えてる人々を見捨てるなんて俺にはできない。変える手段だっていずれきっと見つかるさ。大丈夫、さっきすごい力があるのは分かっただろ?きっとなんとかなる。」
「へっ、お前ならそう言うと思ってたぜ。俺も付き合うぞ。」
一之瀬の宣言に隆一が快活に同調する。ふたりの宣言に及び腰になっていた他の面々も顔を上げる。
「まあ、情報収集するにしても当面はここの人たちのお世話になるしかないし、しょうがないわね。」
「そうですね。僕も頑張ります。」
雫がため息交じりに同調し、静乃もそれに同意する。
「そうだよな。」
「一之瀬君の言う通りだよ。」
「異世界でチートで無双。王道だな。」
「俺はやるぞ。」
先ほどまでの空気が嘘のように皆口々にやる気を表明する。他の誰でもない一之瀬が声をあげたからこそこのような結果になったのだ。
ずっと沈鬱とした雰囲気で下を向いているよりある程度前向きなほうがよっぽどいい。
「・・・・・・・・・・」
しかし、僕はあまり賛成できない。フミ姉に鍛えられてるからこそ、「戦う」ということの危険はこの場の誰よりも理解してるつもりだ。
だが、この場で水をさしたとしてもみんなのやる気を削ぐことはできないだろう。それに意味があるとも思えない。
「僕がなんとかするしかないか。」
誰にともなく微かに僕はつぶやいた。




