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ピアレスアドベンチャー  作者: 竜夜
魔族襲来編
50/53

決戦!かつての仲間たち

 まずい、まずい、まずい。


 気の抜けたところに不意に声をかけられたためついいつも通りの返事をしてしまった。


 静乃は戸惑いながらも半ば以上に確信をもった目で僕を見ている。


 いや、まだだ、まだ誤魔化せる。雫や一ノ瀬はむしろ静乃の方にこそ怪訝そうな顔を向けている。今の僕の反応は「何を言われたか分からなくて聞き返した」ようにも見えたはず。


「何か・・・」


 ーーーヒュン


 その設定で誤魔化そうとした僕の眼前に風を切る音とともに刃が迫っていた。唐突な身の危険に『獣』が発動、反射的に身を逸らしそうになって『死』の気配がしないことを察知してその動きをキャンセルする。


 僕の眼前数ミリ手前で刃が静止する。


「ちょっと、静乃!」


 静乃の突然の暴挙に、当然雫は驚愕と叱責の混ざった声をあげる。神徒の騎士団の面々だけでなく通行人もギョッとなってこちらに視線を向ける。しかし刃を振るった張本人である静乃は周囲の反応に頓着せず真剣な眼差しで射抜くように僕を見ている。やがてその口からぽつりと、


「やっぱり」


 確信を得た響の呟きが漏れる。消え入るような、しかし目前にいる僕にははっきりと届いた声に内心で大いに焦る。


 なぜ?斬撃への対応を見て正体を暴こうとしたんだろうが今の僕の反応は突然切りかかられて驚いたようにしか見えなかったはず。


 その答えは静乃ではなく後ろに一之瀬からもたらされた。事態の急転に呆然としていた一之瀬が一瞬僕の方を見て、


「変装?」


 と、呟く。


 その言葉にはっとなって慌てて頭を押さえてみれば、案の定かつらが僅かにずれていた。おそらくは先程の静乃の剣圧で。


 ポンコツだと思ってた後輩の思わぬ機転に歯噛みするがもう遅い。眼前の刃が退いたかと思うと、返す刀で瞬時に胴を袈裟に斬る刃が走る。


 変装がバレたところでそれがすなわち如月悠一ということにはならない。実際他の面々は半信半疑といった反応だ。しかし何らかの理由で元々九信くらいだった静乃にとってはそれだけで確信に至る根拠だったようだ。問答無用の全力で身柄を取り押さえるつもりだ。これをいなして誤魔化すことはできない。


 迫る刃を両の手で挟んで止める。か弱い一般女性が披露した真剣白刃取りに見物人たちは再び目を剥く。そして神徒の騎士団たちの疑惑も確信に変わったようだ。一之瀬を筆頭に剣や魔法を準備し始め臨戦態勢を取る。これ以上取り繕うことは不可能だろう。


「なんで分かった?」


 不本意ながら変装自体は完璧だったはず。何が静乃に不信を抱かせたのか、今後の参考にするために聞いてみる。


「なんとなく先輩と似た雰囲気を感じたので。」


 と、全く参考にならない回答をもらった。とりあえずこいつの超感覚の前に変装の類は無意味らしい。


 ふと、静乃の顔が悲しげに歪む。


「先輩、どうしていなくなったんですか?」


 裏切ったとは言わないあたり心の奥底で未だ信頼してくれてることが見て取れる。その健気な姿に胸が痛む。


「さあな、僕に勝てたら教えてやるよ。」


 しかし、何よりも彼女達自身のために心を鬼にして、闘争心を高めるようあえて露悪的に煽る。

 

 もう語ることはないと言わんばかりに静乃は剣を握る手に力をこめる。その力に逆らわず僕は一歩後ろに下がり静乃がバランスを崩したところで一息に押し返す。


「可愛い格好で手加減してもらおうったってそうは行かないぜ、如月。ここであったが百年目、みよ、俺様のマジ必殺真剣必中奥義、ワールドエンド!」


 たたらを踏んで下がった静乃と入れ替わりで前に出た速水先輩がクロスにした腕を頭上に掲げ、やけに大仰な技名とともに勢いよく振り下ろす。腕の交点で魔力が渦を巻きその中で形成されたものが次々と湧き出す。細長い胴体に一対の羽に加えうじゃうじゃと無数の足が生えた、いわゆる空飛ぶムカデ。技名に対して効果が陰湿!


「うわぁーー!!」

「ちょっと、それ使わないって言いましたよね!」


 近くにいた静乃は叫びながら慌てて飛び退き、雫が青ざめながら抗議の声をあげる。男性陣は流石に叫んだりはしなかったが踏み出そうとしていた一之瀬と隆一は出足を挫かれ、取り巻きの佐藤と健堂までもがちょっと退いてる。あんたはひょっとして味方なの?


「信じてましたよ、先輩は味方してくれるって。」


 心を鬼にする必要は一切なく気づいた時には煽ってた。サムズアップもしてた。


「ダァらっしゃい!」


 そして意図してない時に限って闘争心に要らぬ油を注ぐ。速水先輩がピッと指を前に向けると同時に。ムカデの波濤が一斉に襲い来る。先行してきた1匹が僕の肩にとまると瞬時に液状化し服を溶かして内側に着込んでいた軽鎧の肩当てに凹みを作る。


「うげ」


 群がられてはたまらない。ちらっと確認したら戦端が開かれると同時にレミアがルリを連れて路地に逃げ込んでいた。後ろは気にしなくてよさそうなので僕もバックダッシュで逃げながらエクスカリバーを抜く。 

 

『攻撃予測:毒精霊 威力B+ 速度D 脅威度60』


 《記録(レコード)》から瞬時に攻撃の種類を看破し僕の視界に表示される。精霊は魔力の塊なので吸収できるが数があまりにも多い。切ってもほんのわずかに隙間を作る程度でその隙間も一瞬で埋まる。


「うははは、逃げろ、逃げろ。」


 使用者の意思である程度操作が効くのかムカデの群れが横に大きく広がり逃げ場を潰す。


 逃げ続けても埒があかないので、僕はあえてその場に踏みとどまり全身に力をためる。柄を握りなおし刃ではなく剣の腹を正面にむけ刀身の中央に左手を添える。


「ふっ、俺とお前の因縁にもようやく決着がついたか。グッバイ如月、フォーエバー。」


 観念したとでも思ったのか速水先輩は額に手をやり天を仰ぐ非常にウザい仕草を見せる。それには構わずムカデの群れを十分に引きつけてから全身の力を解放し急加速。刀身にかかる猛烈な空気抵抗に逆らい両腕で強引に振り抜く。


音速戦技・衝波(ソニック・ブラスト)

 

 空気が破裂する爆音が轟いて衝撃波がムカデの大群を押し戻す。


「うお、うわぁぁぁ。」


 よそ見してたせいで対処が遅れた速水先輩はムカデの波をまともに食らって吹っ飛んだ。装備の大半が溶かされ誰も望んでないサービスシーンが展開される。吹き戻しの風が滑稽さを演出する。ちなみにこの魔法が発動するのと同時に障壁魔法を展開していたので一之瀬たちはちょっと嫌そうな顔をするだけで済んでいた。


「如月、なんだな。悪いが一緒に来てもらうぞ。」


 仕切り直すように一之瀬がキリッとした表情で剣を構える。どうやら今のは無かったことにするらしい。


「嫌だといったら?」

「力ずくでも。」


 僕もさっきまでの喜劇は忘れて挑発的な表情で応える。


 僕から見て正面に一之瀬、右手に静乃、左手に隆一が立つ。その後ろで雫がアーティファクト・グリモアを手に魔力を高めていく。佐藤と健堂は哀れな姿の親分を運んで離脱していた。


「戦の女神は希う」


 雫の詠唱が始まると同時に静乃と隆一が飛び出す。以外にも一之瀬はその場に留まっている。


 静乃は低く飛ぶツバメのように地面スレスレを疾駆し、隆一は熊のように大柄な体躯で押しつぶすように迫ってくる。


「その躰に大地の加護を」


 静乃の足首を刈らんとする剣を跳んでかわす。隆一がそこに強烈なタックルを合わせて、そのまま僕の体を抱えこんで走る。


「その下肢に風の軽きを」


 壁にぶつけられ押し潰される寸前に上体をそらして後ろの壁に手をつきゼロ距離打撃・剛槌で押し返す。押し返されたのが意外だったのか隆一は踏ん張り損なって転倒した。


「その剣に光の導きを」


 隆一の影から飛び込んできた静乃が鋭い刺突を放つ。エクスカリバーを攻撃予測地点に滑り込ませてなんとか刃をそらす。


「英雄に勝利を!」


 着地すると同時にエクスカリバーを振るう。隆一がレシーブするように足を押し上げ、静乃もそれに合わせて跳んで見事に躱す。そのまま壁に突き立った剣を視点にくるりと回って爪先二連続で落とす。僕がそれを防御してる隙に隆一は後転で離脱して体勢を立て直す。


 静乃も蹴りの反動を利用して距離を取り剣を構え直す。追撃を警戒してたいたのでこの動きに一瞬戸惑ったが、エクスカリバーの警告を受けて慌てて首を傾ける。慣性で取り残された髪が切り裂かれて宙に舞う。


「どうしてくれるんだ、これ。」

「なに、ショートも素敵さ。」


 一之瀬は相手が僕でも見た目が女だからかキザな言い回しで返すと二撃三撃と剣を振るう。それを捌きながら見れば全身から白く淡い光が揺蕩って、まるで後光のようにその美貌をより引き立てている。


「強化魔法か。」

「ご名答。」


 叫んだ僕に答えたのは抑揚のない、しかし親しいものにはわかる程度に自慢げな色を含んだ雫の声。恐らくはエクスカリバーに魔法を吸収された経験から僕を直接攻撃するのではなく、まず最大戦力の一之瀬を強化したのだろう。妨害されないように静乃と隆一に足止めもさせて。

 

 強化された一之瀬の斬撃は一つ一つが速く重い。踊るような剣舞に風を切る音が旋律を奏る。金属がふれあい火花を散らす。受け止めるのではなく受け流しているが腕全体に痺れのような感覚が蓄積していく。これも前回の反省からか一之瀬は鍔迫り合いに持ち込まず何度も繰り返し強烈な斬撃を叩き込んでくる。


「凍てつく大地にささやかなる安息を。骨染む風を遠ざけ給え。身を裂く吹雪を払い給え。」


 雫の朗々たる詠唱が響きその周囲が凍つき渦をまき氷の建造物を形成する。正面のみの簡易的な城壁に舞台で使うような小さな城。神徒の騎士団側に陣地が作られる。そこに静乃と隆一が駆け込み最初と同じ詠唱が聞こえてくる。雫はとことんサポートに専念するつもりらしい。


「如月、確かにお前は強い。だがな、仲間と一緒なら越えられない壁はない!」


 一之瀬は格好をつけた、というより若干状況に酔った決め台詞を言い放つとさらに速度を上げて一気呵成に攻め立てる。だがだんだんそのテンポを掴んできた。


「陽炎。」


 ゆらゆらと不規則に揺れて相手の視界を幻惑する技。それにより僕は一之瀬の横をすれ違う。


「っ、させるか!」


 背後の陣地を襲撃されることを恐れたのか、一之瀬が慌てて振り返りながら剣を振るう。しかし焦りから体勢は不安定に剣筋は直線的になる。


逆輪(げきりん)


 僕はその斬撃を敢えて喰らいながら右半身を後ろにそらす。同時に左向きに回転し社交ダンスでもするかのように立ち位置を入れ替えついで攻防も入れ替わる。ガラ空きの腹に正拳突きを叩き込んだ。


「ぐはっ」


 悶絶して倒れ込む一之瀬に追撃をかける。


「水槍敵を穿つ」


 直前で雫の魔法が飛んできて追撃を中断しエクスカリバーで防御、吸収する。さらに一之瀬と同様の輝きを纏った隆一と静乃も駆けつける。


「いっぺん下がれ優真。」

「あとは任せてください。」


 素早く静乃が僕と切り結び隆一が大柄な体を生かして壁のように立ちはだかる。その間に一之瀬が腹を押さえながら立ち上がり後退し雫が回復魔法をかける。


 静乃の力に逆らわずむしろ押し出されるように距離を取る。そこに間髪入れず隆一が殴りかかってくる。その手に嵌めた手甲が突如燃え上がり拳が急加速し、間合いの外と思って油断していた僕は転がるようにしてなんとか躱す。


「なんじゃそりゃ」

「アーティファクト・炎甲拳。自分の腕も焼かれるから雫のバフなしじゃ使えねぇけどな。」


 なんて頭の悪い武器だ。だが代償の分威力は折り紙付き。近くを通るだけで熱波が肌を炙りつい大袈裟に回避してしまい反撃の隙を見いだせない。


「引き裂く風よ我が意の如く。」


 隆一の後方から静乃の詠唱が聞こえる。そしてどう考えても届かない場所から剣を振る。しかし当然素振りなどではなく、エクスカリバーが見た目より長い刃が伸びているような攻撃予測を表示する。そこに剣を合わせると確かに攻撃を受け止めた感触があった。さらに隆一の隕石のような拳を打ち下ろしが続く。僕は音速戦技(ソニック)で真正面から迎撃し、一瞬の拮抗の末弾けるように両者後方に吹き飛ぶ。


 今のはおそらく風の刃で間合いの外から斬撃できる魔法。しかも隆一の様子を見るに味方のいる地点はすり抜けて敵のみを斬れるらしい。直線で刃が伸長してるのではなく剣の動きに連動する刃が浮いているイメージのようだ。地味だが味方の動きに縛られず逆に邪魔することもなく攻撃できるうえに、味方の陰で攻撃動作が見えないかなり厄介な魔法だ。


「やるなぁ。」


 同級生たちの成長ぶりに思わず感嘆の声が漏れる。個人の練度はもちろん連携や戦術の立て方も少し前とは段違いだ。攻略のしようがないわけではないが僕一人だったら(・・・・・・・)このまま取り押さえられるかもしれない。


「苦戦してるわね。」


 艶然とした笑みと共に漆黒の精霊が隣に立つ。


「ルリは?」

「物陰に隠れてもらって障壁魔法で5重に囲ってるわ。ついでに障壁に干渉されたらすぐにわかる、本人は一歩も動けないけど。」


 痒いところに手が届くというか、その頼もしさと当然のようにルリを守ってくれたことに思わず笑みがこぼれる。


「何よ?」

「いや、レミアがいてよかったなと思って。助かるよ。」

「何を今更。」


 レミアは平淡に押さえた(・・・・)声音でぼやき、視線を意識して(・・・・)正面に向ける。もう少し突っついてみたい気もするが、それどころではないのでそれ以上何も言わずレミアを守るように一歩前に位置取る。レミアを頼みにしてないわけではなく単純に前衛と後衛の役割分担だ。


 一之瀬が復活し神徒の騎士団側も準備万端の意気軒昂。こちらも真打登場で士気高揚。ここから第2ラウンド。さらに激しい戦いの火蓋が切って落とされる。


 その時、全身を貫く『死』の気配。


「傘だ。」


 打てば響く反応でレミアが頭上に障壁を展開する。切迫した叫びに問い返す愚は犯さない。


 直後、あたり一体に稲妻が雨霰と降り注いだ。

お読みくださりありがとうございます。楽しんでいただけたなら幸いです。

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