再会
交易都市リビルは昨日と変わらぬ賑わいを見せていた。レミアの提案で別人に変装した僕らは気兼ねなく街道を歩く。
ふと至近距離から突き刺さる視線に目を向ける。
「何かしら?」
「いや、お前が何だよ。」
腕に組み付いているレミアは先ほどから僕の横顔にじっと視線を注いでいた。
「この手は何?」
「姉妹なんだから、仲睦まじくしないと不自然でしょ?」
そうだろうか?
「じゃあさっきからなんでこっちをじっと見てるんだ?」
「気のせいじゃない?」
僕の追求をレミアは何食わぬ顔でのらりくらりとかわす。いつもと変わらない顔に見えて頬がわずかに上気して見えるのは気のせいだろうか?
指摘を受けてレミアは露骨に眺めることをやめたが、ちらちらと横顔に視線を向けてくる。そちらを見るとわかりやすく明後日の方を向く。そういう反応をされる方がガチっぽい。まさかそっちの気があるのか?極力気にしない方向で行こう。
「ご主人様、ご主人様、あっちからいい匂いがします。」
様子がおかしいレミアとは対照的に反対の手を握るルリは楽しそうに露店に目を輝かせている。
「どうかしましたか?」
「いや、お前はいつも通りだなと思って。」
「?」
僕の要領を得ない受け答えにルリは目を瞬かせる。なんでもない、と言って繋いだ手を一度離して頭を撫でる。
文字通りルリはいつもと変わらない。問題なのはそれが今の非日常な設定と装いによく合っていることだ。いや、いつもが異常なのがより際立つというべきか。やはり、この呼び方についてはいずれ機を見て改めさせねばなるまい。
街の雰囲気は昨日に負けず劣らずの熱気に包まれており、この場にいるだけで自然と気分が高揚する。そんな雰囲気に当てられれば当然はめを外す輩もいるわけで。
「そこの美人なお嬢さんたちよかったら俺らと一緒に遊ばない?」
ち、ナンパかよ。昨日と違い(見た目は)女三人だからこういうこともあるのか。二度と女装なんてしないぞ。
さっさと追い払うべく表情を険しくして鬱陶しいという感情を全開にして振り返る。
「・・ぃウ・・」
思わず地声で呻きそうになって慌てて喉に力を入れて高めの声を絞り出す。そのナンパ男の顔には見覚えがあった。
「おいおい、そんなに怯えられると傷つくぜ。こう見えて俺、結構やんごとなきVIP的ポジなんだぜ。ここだけの話、今話題の神徒の騎士団、すなわぁち、迫りくりくる魔族の脅威から人々を救う救世主の一人!それがこの俺・・・」
男は最初腰に手を当て前髪を無意味に払い除けるというむかつく仕草をした後、神徒の騎士団のところで一瞬口に手を当て声を潜めたかと思えば、だんだんとボルテージを上げて後ろに捻った腕で天をさし反対の手の親指で自分自身を指し道行く人が振り返るくらい迷惑な大音声で名乗りを上げる。
「速水毅、だ!」
速水先輩ぃぃーーー!!!
「決まりましたね!」
「さすがです速水さん!」
と、取り巻きの二人。
神の使徒がナンパとかしてんじゃねーよ。なんだそのポーズは。ていうか異世界人に通じなそうな言葉使うなよ。etc... あー、もうどこから突っ込んでいいのかわからん。
とにかく今はなるべく早く逃げなくては。幸い変装の効果はあったようで僕だと気づいた様子はない。しかしじっくりと顔を見られるとまずい。
「えっと、あの、困ります・・・」
「別にひどいことしようってんじゃないんだからさ。な、いいだろ?」
そうは言っても気が動転しているのと慣れない女声で喋ってるいるのとで弱々しく拒否することしかできない。当然逆効果にしかならず、速水先輩は僕の手首を掴んでますます強く迫ってくる。
「ちょっと気安く触らないでもらえるかしら?」
そこで見かねたレミアが体を割り込ませて僕から早見先輩を引き剥がす。指先をピシッと突きつけてしつこいナンパ男にはっきりと物申す。
「あなたみたいな軽薄なブ男がこの静謐な夜の空に浮かぶ月のように美しいお姉ちゃんと並んで歩けると本気で思っているの?言葉を交わすことすらおこがましいわ。」
いいぞレミア。ちょっと言葉が強いような気がしないでもないが、とにかく助かった。そしてこんな状況でも姉妹という設定は忠実に守っているのは流石の対応力というべきか。
「それに今は久々に姉妹水入らずのあま〜いあま〜いデートの時間なの。部外者に立ち入る隙はないわ。」
「あ、ああ、そうっすか。」
レミアが僕の腕を抱き寄せるようにしながら言葉を続ける。
あれ?そんな設定あったっけ?
まあいいか。訂正しても話がこじれるだけだし。早見先輩たちも顔を若干赤くしつつ退いてくれそうな雰囲気だし。
「あれ?速水先輩何してるんすか?」
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、身長190cm越えの巨漢が現れる。神徒の騎士団のリーダーである一ノ瀬優真の幼馴染にして親友の浜野隆一。その隣には当然ながら嫌味なぐらい爽やかなイケメンフェイスの一ノ瀬の姿もある。
さらにその後ろにはおさげで若干暗めな女子、神崎雫。対照的に明るく快活な印象のポニテ、結城静乃の姿もある。
雫は一瞬僕の方を見て、次いで速水先輩にゴミを見るような目を向ける。
「まさかと思いますがナンパですか?」
常の表情の乏しさが、むしろ言葉に不思議な迫力を与える。
「いや、その・・ちょっとお茶でもしよかなと、誘っただけで・・・」
「それをナンパと言うんですよ。」
「何やってんすか、全く。」
冷や汗をダラダラとかいてしどろもどろな釈明をする速水先輩を雫と隆一はバッサリと切り捨てる。その様子からどちらに非があったのか察したらしい一ノ瀬が前に出て僕の正面に立つ。
「うちの団員が失礼しました。お詫びします。」
「いえ、気にしていませんので。」
僕以外には誠実な一ノ瀬は胸に手を当て申し訳なさそうに目を伏せ謝罪の言葉を述べる。
僕は顔をなるべく見られたくない心理から俯きそっぽを向く。それは一ノ瀬を前にした女子の一般的な反応のように見えたのか、雫はやれやれと呆れたような顔をしている。
「もういいかしら?私たち忙しいんだけど。」
レミアが(おそらくきっと)追い払うための演技で不機嫌さをあらわに神徒の騎士団を睨みつける。そういう反応をされるのは稀なのか一ノ瀬は少したじろぎつつも、イケメンスマイルで「ええ、どうぞ」と返す。
ようやく事態の収束が見えてきて今度こそほっと一息つきながら、そそくさとその場を去る。焦りからどうしても早歩きになる。不自然に見えるかもしれないがここは逃げるが勝ちだ。
しかしこの時僕は自分でも驚くほどに緊張していたせいか完全に失念していた。いつもはもう少し騒がしいであろう少女が一言も発していない不自然さを。
「先輩?」
「ん?」
あ。
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