静かな闘志
リンッ
練兵場に金属の擦過音が響く。長剣が放物線を描きやがて地面に落下した。
「参った。」
武器を失ったテオングは両手をあげ降参を宣言した。それを見て優真は大きく息を吐き剣を収める。
その周囲にはテオングのほかに九人の騎士が倒れている。十人抜きではない。十対一だ。
その様子に私は感嘆のため息をこぼした。
「ちょっと雫さん、ちゃんとやってください。」
「はいはい。」
よそ見を見とがめ静乃が頬を膨らせる。私は適当に相槌を打ちながら私は魔法を起動する。雷撃が静乃に襲い掛かる。しかし静乃は苦も無くそれを躱して見せた。
続けざまに二発目三発目と雷撃を放つがかすりもしない。
無論静乃が雷より速いわけではない。雷撃の出のタイミングや私の狙いを正確に予測することでこの神回避を実現してるのだ。
静乃は小柄だが身体能力に優れ小回りの利くスピードファイターだ。そのスピードを最大限生かすために読み予測の速さが重要になる。それを鍛えるための訓練がこの雷を避けるといううものだ。
こんなアニメみたいな特訓がうまくいくのかとも思ったが、三日も続けていれば静乃は成功させて見せた。
この娘割と天才なのよね。悠一君が気に入ってただけあって。
抜きんでて実力を示し始めたのは静乃と優真の二人だが他の面々もここ数日で大きく成長している。前衛メンバーはテオングさんを相手にしても後れを取らないし、後衛メンバーも上級魔法を次々と習得している。
悠一君の狙い通りこの特殊な状況を乗り切るために各々が最大限の努力をしてる。ていうかこの調子だと悠一君が普通にぼこぼこにされそうで心配になってくるわ。
それからしばらくして一度休憩を入れることになった。程よく張り詰めた緊張がほどけ弛緩した空気が流れる。
「いや~、素晴らしい戦いぶりでしたな、優真殿。さすがは神の使徒。百人力、いや千人力といっても過言ではない。あなたが居れば人族の勝利は約束されたも同然ですな。」
「いえいえ、自分はまだまだですよ。」
興奮した様子で手放しの称賛をするセルドに対し優真は辞令的に謙遜を返す。
「またまたご謙遜を。あなた方の存在は人々の心に確かな希望を灯すことでしょう。今から凱旋パレードが
が待ち遠しくて仕方ありません。」
凱旋パレードというのはエルシアナ王国、アレクサス王国、カイザ帝国の国境の交点に位置する交易都市リビルで行われる神徒の騎士団のお披露目会だ。
その後もセルドは上機嫌でつらつらと称賛を並べる。私はどうもこの男に好感が持てない。へつらう感じが丸見えというか、小物感が否めないというか。
「お父様、その辺にしておきましょう。優真様も困っていらっしゃいますわ。」
娘のアリアにたしなめられてようやくセルドは優真を解放した。
「お疲れ。」
周りに聞こえない声量で言って、タオルと飲み物を渡す。
「ありがとう。」
優真の苦笑しながら受け取った。普段はさわやかなイケメンがここまで露骨に疲れを見せるのも珍しい。基本的には誰に対しても分け隔てなく接することで定評のある優真だがさすがにセルドの絡みは鬱陶しいと感じているようだ。
「順調そうね。」
「まあな。でもまだまだこの程度じゃあいつには勝てない。」
「悠一君のこと?」
「ああ。」
優真は拳を強く握り真剣な表情でうなずいた。その瞳は雪辱に燃えている。
「俺は必ずあいつを倒す。」
それは一年前から優真の中にある決意だ。常に一歩前を歩き続ける悠一君に対しくすぶってきた闘志。
幼馴染としては励ますべき場面なのだろう。
「そっか。」
けど私の口から出たのはそんなそっけない相槌だけだった。複雑な心境からか素直に激励することはできなかった。
優真たちの成長を願う気持ちはある。同時に悠一君は最強であってほしいという憧憬に近い思いもある。そしてもう一つ。
私も負けてられないから。
お読みくださりありがとうございます。
今後しばらく更新が遅くなると思います。気長に待っていただけると幸いです。




