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ピアレスアドベンチャー  作者: 竜夜
1章 吸血鬼討伐編
44/53

戦いの結末

『敵対勢力:正体不明アンノウン 総合戦闘力:--- 危険度:---

 開放率(アンロックレート):100% 勝率:5% 逃亡推奨』


 エクスカリバーが絶望的な情報を表示する。勝率5%・・・?しかも正体不明って・・・


 それだけ氷の異能が脅威ということか。あるいは・・・


「やるじゃないか悠一。まさか今の俺がまともに攻撃を食らうとは思っていなかったよ。」


 ゆらりと幽鬼のような所作でロビンが立ち上がる。その姿は純白の光に覆われていた。夜天に輝く星々を詰め込んだように無垢でありながらも鮮烈な白。神々しささえ感じさせるきらめきにはどこか既視感がある。


 例えばモーロックが纏っていた紅い燐光とか。


「お前、その力・・・」

「邪魔をするならお前も容赦しない。悪いが死んでもらうっ!」


 問いかけようとするがロビンは問答無用とばかりに切り捨て突進してくる。


 同時に氷の鏃が飛来する。目でとらえることすらままならないそれを『死』の気配を読み半身になって躱す。


 ロビンが上段にレイピアを引き絞る。もともと小柄なうえに身をかがめている僕から見たらまるで覆いかぶさられているような気分だ。


 神速の刺突。狙いは当然頭部。迎撃をあきらめて全力で後退する。


 レイピアの切っ先が空気を割る。それでいて恐ろしいほど静かに地面に突きささる。


『物理攻撃・刺突 速度800km/h 要警戒』


 エクスカリバーが今更ながらに表示する。その絶望的な数値に戦慄するしかない。


 時速800って!一瞬溜めてたとはいえ通常攻撃でそれか。しかもその威力はほぼすべて貫通力に収束している。


 やはりいまのロビンは異常だ。モーロックと邂逅したときすらここまでの力は見せなかったのに。それをいとも簡単に放つなんて。


 音速戦技(ソニック)の七割弱の攻撃をそう何度も打たれたらたまったものじゃない。


「縮地」


 追撃を防ぐために僕はあえて攻勢に出る。一歩で距離を詰めてレイピアの間合いの内側に。上段から垂直に切り下し。


 しかし固いものにあたった感触がしたと思ったら、剣は大きくはじかれた。盾のように左腕に纏われた氷がエクスカリバーを防いでいた。


 自分から間抜けにも隙をさらした僕にロビンは悠々と渾身の突きを放つ。右足を軸にコマのように回転して何とか回避を試みる。レイピアはわき腹をかすめるにとどまった。


 左足を軸にもう一度回転しロビンに向き直る。その時には目の前に切っ先が迫っていた。


 かろうじてエクスカリバーを跳ね上げてはじくがまだまだ攻撃は終わらない。  


 レイピアをふるう腕が霞んで見えるほどの五月雨のごとき刺突。そのすべてを受け、弾き、逸らし、あるいは回避して何とかしのぐ。


 しかし防戦一方になるばかりで反撃の隙が見出せない。そんな中追い打ちをかけるように『死』の気配。それも目、首、心臓、足の四か所。


 直後楔のように細い氷柱がレイピアの合間を縫って飛来する。レイピアに対応しながらでは打ち落とすこともできない。


 姿勢を低くする。心臓に飛来した一本は鎖骨の辺りに刺さり、首を狙った一本は噛んで止め、着弾面の角度を調整することで頭部に突き刺さるのは防ぎ僅かに額を切るにとどめた。しかし足に飛来した分まで処理することができず右大腿部を貫いた。


 さらに氷柱に一瞬意識を割いたせいでレイピアへの対処がますます後手にまわる。腕の刺し傷ができ始めさらに足を負傷したことで動きも鈍る。とうとうレイピアを受けきれなくなりエクスカリバーが大きくはじかれこの上ない隙をさらしてしまう。


「終わりだ。」


 がらあきになった首に神速の刺突が迫る。勝利を確信したロビンの顔にプッと吹き矢の要領で加えていた氷柱を飛ばした。


 ほとんど相打ちだが、勝機を急いた隙を狙うカウンター。既に攻撃の動作をしているロビンにこれは躱せない。・・・と思われたがロビンは恐ろしい反射神経で刺突を中断し体をそらして見せた。


 人間離れした身体能力には舌を巻かざるを得ないが、無理な動きをしたことは確かなようでようやくロビンの動きが止まった。その間に僕はよろよろと後退し太い木の幹に背中を預けて息を整える。


「どうしたんだよ、お前。なんで僕らが戦わなくちゃならないんだ?」


 エクスカリバーが傷をいやすための時間稼ぎもかねて問いかける。幸いにもロビンは会話に応じた。


「俺の目的は変わっていない。吸血鬼を撲滅する。それを邪魔する奴も全員殺す。それだけだ。」

「吸血鬼ってルリのことを言ってるのか?あいつは吸血鬼なんかじゃ・・」

「化け物であることに変わりないだろう。」

「無茶苦茶だそんなの。そんなのもはや復讐でもなんでもないだろ。」

「黙れ黙れ黙れ。お前に何がわかる!」


 ロビンの言はあまりに支離滅裂すぎる。明らかに正気じゃない。


「これしかないんだよ・・・殺して、殺して、殺しつくして、それ以外にどうやってこの悪夢から解放される!?死ねぇ、俺の邪魔をするなぁ!」


 悲壮感の漂う声音で嘆き、タガが外れたように絶叫する。その叫びは一朝一夕ではありえない積年の怨嗟。ロビンという男が抱えてきた懊悩の発露のようにも思えた。


「させるかよ。ルリは絶対殺させない。」

「ハハ、そうかよ。だったら俺らは殺しあうしかないよなぁ。」


 ああ、そうだ殺すしかない。だってこいつは僕をそしてルリを殺そうとしてるんだから。


 殺す。その言葉は悪魔の誘惑のように心の深い部分に響いてくる。そうだ最初からこいつは僕を体よくのせて利用した敵じゃないか。殺してしまっても構わない。いや、むしろそうすべきだ。殺すしかない。


「はっ。」


 知らず笑みがこぼれる。自分のあまりに稚拙な思考を鼻で笑い飛ばす。


「そんなもの、やってみないと(・・・・・・・)分からないだろうが。」


 半ばロビンに向けて、もう半ばは自分に言い聞かせるようにして不敵に笑って見せる。


 答えが出ているわけじゃない。でもここは戦場。敵を前に止まるわけにはいかない。考えるより先にではない頭と体は同時に使え。


 悪く言えば成り行き任せ。それでも強くあろうとすることだけは誇りにかけてルリに誓ったから。

 

 ロビンが動き再び戦端が開かれる。先ほどまでの無秩序な連撃ではなく心臓を狙いすました必殺の一撃。


陽炎(かげろう)


 僕は踏み出しも体を傾けることもなく重心の動きだけで右に左にとゆらゆら体を揺らして回避する。空を切ったレイピアが頑丈な幹を貫通した。ロビンの目が驚きに見開かれる。


 陽炎。その名の通り陽炎のごとく体を揺らめかせて敵の視覚を惑わせて回避する業だ。予備動作のない動きを人の視界は捉えられず常に一瞬前の動きを追い続けることになる。一瞬当たったかのように勘違いした敵は大きく隙をさらす。


 がら空きの横腹に左薙ぎの一閃。相変わらずの反射神経を発揮しロビンは左腕の盾で防ぐが、これで攻守が入れ替わった。


 この好機に一気呵成に攻め立てる。


 ロビンは後退しながら氷柱を飛ばしてくるがこちらが攻めている間はさほど脅威ではない。冷静に軌道を読んで叩き落し、袈裟に切りつける。レイピアのしなる刀身で滑らすようにしていなされる。動きを止めずターンしてロビンの右側面に回り込み、下段からの突き。ロビンは必死に身を捻るが躱しきれずわき腹を浅く裂いた。


 苦痛に顔をゆがめながらも手首をねじるようにしてロビンは反撃の刺突を放つ。だがそもそもレイピアは正面にいる敵と戦う武器だ。側面への攻撃には向いてない。狙いの甘い攻撃をあっさり叩き落す。そのまま切りつけると見せかけて、バク転。構えられた盾を蹴り上げもう片足でロビンの顎をとらえた。


 着地と同時に足のばねに力をためる。真上に跳んで迎撃の刺突をすかし、唐竹に切りつける。盾を掲げたロビンのがら空きの胴に意趣返しとばかりにボディブロー。


「ちっ・・・殺す、死ねぇ。」

「いい加減目を覚ませよ、ロビン!」


 動きが鈍ったロビンの胸ぐらをつかみ頭突きを叩き込む。ロビンはよろめきながら後退した。


「う、ぁ・・悠一・・・・俺、は・・・」


 荒い息を吐き、額をおさえながら苦しげにうめく。頭突きのダメージとは思えない異常な苦しみようだ。まさか正気に戻りつつあるのか?だとしたら、今僕は何をした?


 思考を巡らせる間にロビンは頭を振って体勢を立て直し再び五月雨のごとき猛攻を開始する。


「おい、正気に戻れ。ロビン、ロビン・・・」


 嵐のような連撃をさばきながら僕は先ほどの記憶を思い起こしロビンに呼びかける。


「うるさいなぁ、さっさと死ね。」


 しかしロビンは特に頓着せず、むしろレイピアを握る手に一層力を籠める。力強い刺突に押し出されるようにして互いの間合いが開く。


 呼びかけでは成果は得られなかった。他に何かできることは・・・


 追撃がないの幸いにロビンの挙動を慎重に観察しながら再び思索する。


-ピチャ


 不意に肩に水滴が落ちた。雨か?ただでさえ極限状態だってのにこれ以上の不確定要素は勘弁してほしいものだが。


『異常事態 気温の低下を確認 退避してください』


 視界が赤く明滅しエクスカリバーが危険を訴えてくるのがわかる。だがロビンは動いていない。いや待て・・・気温の低下(・・・・・)


 肌を刺すような寒気に身震いする。遅まきながらロビンの意図を理解する。


 ああクソ。反応が遅れた。こんなところで凍死(・・)するなんて想像すらしてなかった。


「死ね。」


 もはやうわごとの様にロビンがつぶやく。次の瞬間僕の周囲の空間が死の吹雪に支配される。


 草木が花々が運悪くその場に居合わせた命が芯まで凍り付き砕け散る。前後左右、どこにも逃げ場はない。


 何もかもが失せた空間を見すえ、ロビンは力尽きたように肩で息をする。


 その様子を僕は上空(・・)から眺めている。


 異能には異能を。空間が凍り付く直前僕は双翼を広げできるかぎり高く飛び上がり辛うじて難を逃れた。


 たっぷり貯めた位置エネルギーを解放し急降下。ロビンはまだ気づいていない。決着したと思い込み気を抜いてる。


 ようやくできた致命的な隙。拳を固めて急降下。がら空きの脳天に最後の一撃を叩き込む。


 その寸前、風圧か殺気かあるいはただの気まぐれだろうか。ロビンが顔をあげた。奇襲をかける僕と目が合い反射的にレイピアを振り上げる。


 常人なら絶対間に合わないタイミング。だが今のロビンは普通じゃない。僕の一撃よりロビンのレイピアが届く方がわずかに速い。


 極限の攻防の中、飴のように時間が引き延ばされ『死』の気配がいやにゆっくりと迫る。だが急に軌道を変えることはできず僕の体は吸い込まれるように『死』に近づいていく。


 終わった。諦観が全身を支配する。今更どうすることもできない。これまでの人生の情景が浮かんでは消えていく。これが走馬灯という奴だろうか。


 ごめん。


 最後に浮かんだルリの顔に心の中で謝罪し、静かに目をつむった。


「が、ぁ・・」


 直後、どこからか飛来した黒い雷がロビンの体をとらえた。痙攣し動きが止まりロビンの反撃は中断される。結果的に僕の拳が突き刺さった。


 確かな手ごたえ。ロビンは意識を失いその場で仰向けに倒れた。しばらく様子を見るが起き上がる気配はない。


「終わったってことでいいのかしら?」


 絶妙な援護をしてくれたレミアが姿を見せる。まだ傷はいえていないようでルリが肩を貸していた。


「ああ、助かった。それにしても、タイミングばっちりすぎだろ。狙ってたのか?」

「ルリちゃんの指示よ。私はもう一回か二回しか魔法が撃てないから、ここぞという瞬間まで温存してたの。」

「そうか、偉いぞルリ。」

「えへへ、恐縮です。」


 くせっけの強い髪をわしゃわしゃと撫でるとルリはくすぐったそうにはにかむ。それを見てレミアが不満げに口を尖らせた。


「援護したのはあくまでワ・タ・シなんですけど。」

「ああ、そうだな。レミアもありがとう。」

「むぅ、そんなついでみたいに。」


 さらさらの髪をポンポンと撫でる。レミアは口を尖らせたままそっぽをむいた。


「で、その男はどうしたの?殺したの?」

「いや、死んではいないはずだ。」


 波拳。衝撃を浸透させる特殊な打法で対象を内部から破壊する技、それの威力調整アレンジ。ちょっと、いやかなり強く脳を揺さぶったからあとで障害は残るかもだが殺してはいない・・・はずだ、たぶん。


 ちょっと不安なので一応脈をとってみる。・・・よかったちゃんと動いてる。


「そう、結局殺さなかったのね。」


 レミアは感情の読めない声音でつぶやきさっさと歩き去ってしまう。


「ちょ、レミアさん・・・」


 肩を貸していたルリが引っ張られ戸惑いながらついていく。


 その様子に一抹の不安を覚えながら僕もロビンの体を担いで洞窟に向かった。




 

 暗闇の中に俺はいる。どれだけもがいても闇は俺をとらえて離さない。進む度に見えてくるのは同じ景色。何もない。虚無虚無虚無・・・。やがて前後不覚になり、自分がどこにいるのかさえ分からなくなる。


 俺は今どこにいる?何をして、何を感じて、俺はいったい何だ?


 ぐるぐると、ずっと同じ場所で、自分が哀れな道化のように思えてくる。


 もう嫌だ。叫ぼうとしても声が出ない。涙が出ない。冷たいのは自分か世界か。


 俺はいったいなんだ?問いかけても答えがない。それが答えだ。何もない。それが俺だ。


 ああそうか。この闇は俺の写し鏡だ。


 目が覚める。また悪夢か。


 鉛のように重いからだに辟易しながら俺の心に浮かぶのはその程度の感慨だ。


「お、目が覚めたか。」


 聞き覚えのある声が辺りに反響する。視線だけ巡らせるとおっかなびっくりのぞき込んでくる悠一と目が合った。


「大丈夫、だよな?正気だよな?」

「どうしたんだ?人をそんな得体のしれないものを見るような目で・・・」


 言いかけて徐々にぼんやりとした記憶を思い出した。ああ、そうかさっきまで俺はこいつと戦ってたのか。そして、


「負けたんだったな。」


 戦っていた時の記憶は曖昧で、なぜあんなことをしたのかも覚えていない。しかし敗北という事実だけははっきりと思い出された。


 正気ではない状態で知り合いを殺めかけたのだ。安堵こそすれ落胆するなんておかしな話だ。だが全力を尽くした自分が打ち負かされたというのはなんだか自分のすべてを否定された気がした。


「俺はなんのために生きていたんだろうな。」


 知らず昏いつぶやきが漏れる。


 家族や友人に別れを告げることもせず飛び出してきて、ひたすら復讐だけを目標に生きてきた。


 だが実際終わってみればどうだ?達成感があるわけでもなければトラウマを払拭することすらできなかった。挙句八つ当たりの様に悠一に刃を向けて・・・。正気ではなかった。だがそれで俺に責任がないと言えるほど厚かましくはなれない。元をたどれば俺の心の弱さが招いたことだ。


「うーん、そもそもさ人ってそんな明確な意味があって生きてるんじゃないと思うだよ。」


 虚無感に浸る俺に遠慮がちな声がかけられる。一瞬その内容が本当に信じられなくてまじまじと声の主を見つめた。


「目標を決めてそれに向かって努力して、でも結果が思ってたのと違うって割とよくあることだろ?だからさ、過去に引きずられるなとは言わないけど、結局これからも生きていかないといけないわけで・・・。なんだかんだ言いこともあるだろうし、大事なのは未来っていうか・・・」


 もしかして励ましてるのか?さんざんコケにされて、果てには殺し合いまでして、それでもまだ俺を仲間か何かだと思っているのか?


「意味分かんねぇよ。」

「うん、ごめん、僕も途中で何言ってるか分からなくなってた。」


 俺の言葉を別の意味にとらえ悠一は恥ずかしそうに頬を掻く。その親愛のこもった表情がやけにまぶしく見えた。


「いや謝るのは俺のほうだ。本当にすまなかった。許してくれとは・・・言う。許してもらえるまで何でもする。だからこの通りだ。」


 重たい体を何とか起こして、精いっぱいの謝意をこめて深々と頭を下げる。


「顔をあげろよ。もう過ぎたことだろ。ついさっきこれからが大事的な話をしたわけだしさ。」


 そう言って悠一は冗談めかして笑った。ああ、本当にこの男は強い。自然と熱いものがこみあげてくる。


 過去は消えない。それでもその強さにほんの少しだけ救われる気がした。


「ありがとう。」


 しゃくりあげて何も言えなくなる前にその言葉だけは伝えたかった。


 


 




 

 


 


 


 


 


 

 


 




 


 


 

 


 

 


 


お読みくださりありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。

これにて1章完結です。

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