氷の襲撃者
「はぁ、心配して損したわ。」
口づけを交わす二人の様子を木陰から眺めながら私はホッと息を吐く。
波乱続きで悠一は相当参っていたしルリちゃんの精神状態も気になっていたけどこの分だと私の出る幕はなさそうね。
「でもこれじゃあ私、まるでお邪魔むしね。」
くるくると黒髪をいじりながらひとりごちる。これからどんな顔をして旅をすればいいのか。蚊帳の外に置かれる自分の姿を想像すると気が重くなる。
---ガサッ
「ッ!誰!?」
不意に草木が踏まれる音が響き顔をあげて瞬時に思考を切り替える。音がした方向を鋭くにらみつけいつでも魔法が撃てるように魔力を活性化させる。
「・・・ッ!・・はぁ、なんだあなただったのね。驚かせないで頂戴。」
しかし現れたのは見知った顔だった。安堵のあまり肩の力が抜ける。
「それにしてもよくあの状況で生き残って・・・え?」
目の前に現れた巨大な氷塊群に思考が停止する。直後すさまじい衝撃が私の体を幾重にも打ち据えた。
突如、大地が揺れるような衝撃が起こり、同時に飛来した何かが小さく砂埃をまわせる。
「レミアさん!!」
吹き飛ばされてきたレミアに慌ててルリが駆け寄る。
「どういうつもりだぁ!・・・ロビンッ!」
判断は刹那。一瞬で臨戦態勢にきりかえ、森の奥から現れた襲撃者に先制攻撃をする。
音速戦技。全身を利用した極限の加速により僕の拳は音速に達する。空気を打ち抜き円環状の衝撃波が発生する。
この初撃にロビンは対応できていないこうなればもう回避も防御も不可能。
その予想に反してロビンの左腕が割り込んできた。そこに纏われた氷の盾が僕の拳を受け止める。
「ッ・・・が、ぁ・・」
防がれたことで衝撃が跳ね返り、腕全体に痛みが走る。
嘘だろ。音速の拳だぞ。技の起こりに反応して動かなければ躱すことも困難だってのに。ましてや正面から受け止められるなんて。
驚愕と激痛により否が応でも動きが止まる。無防備に隙をさらす僕にボディブローが突き刺さる。腹を中心に全身に衝撃が広がり膝をつかされる。
うずくまって動けない僕には目もくれずロビンはまっすぐルリのもとへ歩く。
「・・させ、るかよ。」
未だ痛みが残る体に鞭打ちロビンの脇腹にふれる。はたから見ると悪あがきしてるようにしか見えないだろう。だが直後ロビンの体が大きく吹き飛ばされる。
剛槌。ポンと触れただけにみえる体勢から衝撃のみを伝える技だ。さすがにこれは防げなかったようだ。しかし決着がついた手ごたえはない。
「レミアを頼む。」
ルリに一言だけ言い残し、僕は追撃に向かった。
「御武運を。」
森の奥に消えていった主の背中に祈りを捧げつつ、私は私の役目を全うします。
ひとまず安全な場所に移らなければ。今魔獣にでも襲われたらひとたまりもありません。さっきの洞窟なんかがいいでしょうか?
「う・・ルリ、ちゃん・・」
「レミアさん、気が付いたんですね。すぐに手当てをしますから少しの間辛抱してください。」
「私はいいのよ。それよりあの男を・・・」
「ご主人様が戦っています。少し心配ですがきっと大丈夫ですよ。」
「いいえ無理よ。あれにはいくら悠一でもかなわない。だからあなたが殺しなさい。」
「え・・・」
言ってる意味が分からず戸惑う私にレミアさんは嗜虐的な笑みを浮かべました。
「できるでしょ、あなたのあの力なら。」
「でも、あれは・・・」
「どうすればいいの?たとえば命の危機に瀕したら発現するかしら?」
いってレミアさんは右手に魔法陣を出現させました。
「待ってください。そんなことしたら、真っ先にあなたが・・」
「そうかもしれないわね。でもおそらくあなたは悠一のことを傷つけることはしないでしょう?」
「どうしてそこまで?」
「分からないわよそんなの!でも悠一はこんなところで死んじゃいけないの。何があっても、私の命に代えても、守らなくちゃいけないのよ!・・・ウッ。」
レミアさんは堰が切れたように涙声でうったえ、そのせいで傷が痛んだのか苦しげに顔をゆがめました。高まった魔力が霧散して空気中に溶けていきます。
「お願いよ、お願いだから悠一を助けて。」
さめざめと涙ながらに懇願するレミアさんはまるで迷子になった子供のように弱々しく映ります。その手を私はそっと握りました。そして、神秘的な黒の瞳をのぞき込み精一杯の誠意を込めて真摯に言葉を紡ぎます。
「あの力は使えません。使ったら最後私にもどうなるか分からないんです。ご主人様のこともひょっとしたら襲ってしまうかもしれません。」
「でも・・・それしか方法が・・・」
「だからお願いです。無力な私の代わりにご主人様を助けてください。」
お読みくださりありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。
次回、一章完結(多分)




