銀色の悪意
戦禍の過ぎた町に銀髪の天使が降り立った。
「やれやれ、ひどいものですね。」
尋常ではない破壊の嵐を目にし、王都の教会から様子を見に来たセラは町の惨状に嘆息する。建物は軒並み倒壊し、戦場の中心であったであろう場所には地形のゆがみすら散見される。
そして何より老若男女問わず無数の亡骸が転がり足の踏み場もないほど鮮血が辺りを埋め尽くしている。
「モーロックが討たれましたか。命じていた影精霊の討滅もこなせていないようですし、私の権能を与えていたというのに、情けない話です。」
言葉こそ部下の失態を嘆いているようにも見えるが、その口調は淡々としていてどこか人ごとのようだ。
「それよりもあの少女、ルリと言いましたか。やはり彼女の力は異能でしたか。しかし妙ですね。あれほどまでの異能の持ち主をどうして今の今まで見逃していたのでしょう。考えられるとすれば・・・」
すぐにモーロックへの興味を失い別のことに思考を移す。
「どうやらあまり長く教会を留守にするわけにはいかないようですね。しかし困りました。ルリという少女に影精霊、ついでに如月悠一という異物も早々に始末しておきたいのですが。」
言葉とは裏腹に少しも困っていなさそうだ。彼女の独白は録音した音を再生するかのように無機質に響く。
セラが顔をあげ辺りを見回す。鏡のようなその瞳が路地でうずくまる一人の少年を見つけた。
銀髪の天使はほくそ笑む。
「ちょうどいい駒がありますね。」
雨風をしのぐのにちょうどいい洞窟を見つけ、ようやく僕らは腰を下ろした。
「とりあえず、今日は野宿ね。」
「ああ。」
「徒歩だと町まで遠いし、しばらくは狩猟採集で食料を確保する必要がありそうね。」
「そうだな。」
「ひとまず、火をおこしましょう。焚き木になりそうなものを探してくるわね。」
「ああ。」
「ちょっと悠一、聞いてるの?」
うつむく僕の顔を黒色の瞳がのぞき込んでくる。生返事に対する怒りを表すように、頬を膨らせている。
なんとなくばつが悪くなって僕は目をそらした。
「悪い。」
「はぁ、いろいろとショックなのは分かるけどしっかりしなさい。あなたがそんな調子だとこっちまで気が重くなるわ。」
レミアはあきれたようにため息を吐いた。過酷な死闘を経てもなお彼女は気丈にふるまっている。その気遣いが胸にしみる。
レミアはいったん洞窟を出ると手ごろな枝木を抱えて戻ってくる。それを適当な形に組み上げ魔法で着火する。
ぱちぱちと洞窟に響く音が沈黙の時間を嫌に際立たせる。
「ごめん。最初からお前の言う通りにしてればこんなことにはならなかった。」
思えばルリをダシに脅しをかけてきたロビンは最初から敵だったのだ。それなのに僕はばかげたヒーロー気取りで判断を誤った。冷静じゃなかったと言わざるを得ない。
「もういいわよ。過ぎたことをどうこう言っても結果論にしかならないわ。それにこうしてみんな無事に生き延びたのだし。」
ルリが振り下ろした凶刃は直前で僅かにそれて地面を破壊するのみにとどまった。そして僕等が居たちょうど真下に地下通路があったため、そこを通って命からがら逃げ伸びた。
ルリは力尽きたように意識を失っていた。脈や呼吸は正常だからただ眠っているだけだろう。髪の色も元に戻っている。
だがどうしても不安は拭い去れなかった。もし万が一このままルリが目を開けなかったら。そう考えると途方もない後悔の念が湧き上がってくる。
「今日はもう休みましょう。何をするにしてもまずは体力を回復させてからね。」
「ああ、そうだな。」
状況が落ち着いたことで疲労感がおもりのようにのしかかってきた。ルリの容体は気がかりだが僕自身も一度休まなければ気を失いそうだ。
僕はせめてルリのぬくもりを感じていようとその体を抱きしめて眠りについた。
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