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ピアレスアドベンチャー  作者: 竜夜
1章 吸血鬼討伐編
40/53

決着

「死ねぇっぇぇぇぇぇぇ!」


 積年の憎悪と憤怒と怨嗟を込めて、目の前の仇の心臓を狙い穿つ。しかし必殺を期した俺のレイピアはいとも簡単に躱されてしまう。


「ぬるいわぁ!」


 モーロックは肘で突き出された俺の右腕を叩き落とし、腹と顎にワンツーパンチ。後退させられ視界がくらむ。


 畜生、なんて威力だ。


 モーロックの拳はやはり技でも何でもない。ただ力任せに殴ってるだけ。にもかかわらず恐ろしく速いし強い。基盤となる身体能力が違いすぎる。


「ハハハ、これが神の力だぁ!」

「何が神だ、くそったれ。」


 氷の壁を展開。モーロックのショルダータックルであっという間にに崩れ去る。だがこれは囮だ。


 モーロックの背後に滞空させた氷柱を射出。狙いは当然頭と心臓。


「ぬぅ・・」


 モーロックは寸前で氷柱を察知して横っ飛びに回避する。氷柱はかすりもしない。だが狭い路地で突然の無理な横移動。壁に激突し隙をさらす。


 無様に空いた横っ腹にレイピアにつきこむ。躱せるはずがない、これで終わり・・・ではなかった。


 レイピアの切っ先はモーロックの右腕に握られていた。刃が肌を裂くこともなければ、岩にでも突き立ったかのように抜くこともできない。


「化け物め・・・」


 奇襲は成功した。完全に不意を突いた。でも届かなかった。咄嗟の対応だけで防がれた。それだけの敏捷性と身体能力が奴にはある。


 こんなのどうしようもないじゃないか。


 絶望に打ちひしがれ戦意が失せる。だがそれで戦いが終わるわけではない。


 モーロックが刃をつかんだ手を力任せに振り回す。右に左にと壁に叩きつけられ、意識がもうろうとし、レイピアを握る力が緩む。ついには振り落とされ、地面に強く叩きつけられた。


「が、は・・」


 衝撃で肺腑の空気が押し出される。


「どうした、もう終わりか?」


 髪をつかまれ、無理矢理立ち上がらされる。俺はただなされるがまま、全身がぐったりと脱力している。憎むべき敵を前にして俺は碌に抵抗することすらできない。


「まともに動くこともできんようだな。ならば、死ねぇい!」


 モーロックが拳を振りかぶる。その動作がやけに緩慢に思えた。ゆっくりと死の一撃が迫ってくる。


 畜生。畜生。畜生。


 拳が顎をとらえた。骨がきしみ脳が揺れる。あまりの威力に首が引きちぎれそうになる。


「は?」


 モーロックの口から呆けた声が漏れる。その腹には氷柱が突き立っていた。


 俺の体は・・・まだ生きている。随所を氷で覆い即席の鎧とし、必殺の一撃をかろうじて防いでいた。


「ははは・・・」


 我ながらすさまじい執念だ。指一本動かせないくらい追い詰められていたというのに、最後の最後まで無意識レベルで仇を殺そうとするなんて。


 モーロックが慌てて氷柱を抜こうとする。しかしそれより一瞬早く、半ば意地で俺は氷柱を握る。千載一遇の好機、逃すはずがない。


 氷柱をひねり突き上げる。より深くねじ込み縦横にかきまわし、内臓を撹拌する。


「死ね、死ね、死ねぇ!」


 モーロックの肉体のいたるところから鮮血が噴出し、返り血が俺の全身を染め上げる。


 致命傷かどうかなんて関係ない。冷静な思考などとうに吹き飛んでいる。憎悪のままに一心不乱に肉を引き裂き続けた。


「勝った。はは、・・やっと、殺した。」


 いつまでそうしていただろうか。モーロックの死体はひどい有様だ。胴体はほとんど原形をとどめておらず、驚きと恐怖に染まった表情で息絶えていた。


 フラフラとした足取りで死体をあさる。モーロックの背に担がれていた杖を取り出し異能で凍結させ一思いに破壊した。


 そしてようやく緊張を解き、血だまりの上に腰を落ち着ける。思い出したかのように痛みと疲労が襲い掛かり息が荒くなる。


 これで終わる。あの日から俺の心を蝕み続けた悪夢からようやく解放される。


---カタカタカタカタカタカタカタカタ


 なんだ?


 どこからか響いてきた異音に首をかしげる。


---カタカタカタカタカタカタカタカタ


 異音は単調になり続け、徐々に不安感をあおられる。


---カタカタカタカタカタカタカタカタ


 くそ、何だっていうんだ。


 モーロックは殺した。アーティファクトも破壊した。これ以上吸血鬼が生まれることも、俺がトラウマにおびえる必要もないはずなのに。なのに、なんで、なんで、・・・


「何で、まだ震えてるんだよ、俺はぁ。」


 異音は俺の歯の根から響いていた。


 終わったはずの悪夢は未だに俺をさいなみ続けていた。

 

お読みくださりありがとうございます。少し投稿が遅くなり申し訳ありません。楽しんでいただけたら幸いです。

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