結局・・・
レミアの提案に従い、建物と建物の間の入り組んだ路地に入る。
ひとまず追手がないことを確認し、一度休憩する。特に重傷なロビンにレミアが回復魔法をかけ、その間僕はその間通りに顔を出し周囲を警戒する。
不意に民家の一つの扉が開いた。扉から一人の女性が出てくる。目が合ったので会釈をした。
ん?待てよ。なんでこの時間に住人が出てくるんだ?
僕が微かな違和感を覚えるのと同時に、女性が血走った目で突然襲い掛かってくる。咄嗟にエクスカリバーで反撃し事なきを得る。
だが安心するのはまだ早かった。建物という建物の扉が開き、次々と吸血鬼かした住人が出てくる。
「なんだよ、これ・・・」
あまりに絶望的な光景だ。見渡す限りすべての建物から今まで戦ったのとは比にならないほどの数の吸血鬼がいる。
だが昨日まで彼らは日常生活を営んでいたはずだ。まさかそれすらモーロックが操っていたというのか?
「真化の種か。」
ロビンがその光景を見てつぶやく。まだ万全とはいかないがレミアのおかげでだいぶ傷が癒えたようだ。
「ほぉ、よく知ってるな。」
そして路地の奥から狂人が姿を現す。
「魔法の時間差発動を応用した技術だ。人の体にあらかじめアーティファクトの力を作用させておき、任意のタイミングで効果を発現させる。対象にかかる負荷が大きいので半分はショック死するがな。」
「なんだよそれ・・・」
それじゃあ初めからこの町の人間は救いようがなかったっていうのか。
「僕はなんのために戦っていたんだ。」
すさまじい脱力感に襲われ膝をつく。結局誰も助けられなかった。それ以前に戦う前から何もかも終わっていたんだ。
僕はありもしない救済を目指して、勝手に英雄を気取って、その実一人で踊る滑稽な道化だった。
ロビン、お前は知っていたのか?こうなることを。この非情な現実を。
傍らの相棒に視線を向ける。ロビンはバツが悪そうに眼をそらす。
嘘だろ。否定してくれ。一緒に戦ってきたじゃないか。せめてお前は味方だって思わせてくれよ。
「最初から言ってただろ、俺の目的は復讐だと。」
胸中の願いも虚しく、ロビンは突き放すように真実を告げた。
ガラガラと何かが崩れる音がする。
うなだれる僕には目もくれずロビンは仇敵に向かって切りかかる。
「しっかりしなさい。落ち込むのはここを切り抜けてからよ。」
萎えた心を叱咤するようにパンっと背中をたたかれた。レミアは鋭く視線を巡らせ必死に活路を模索していた。
こんな状況でも冷静に最善を尽くす姿に頼もしさを覚えると同時に救われる気がした。
そうだ、ここで死ぬわけにはいかない。
頭を振って雑念を振り払い足に力を入れなおす。エクスカリバーを握り直し、状況を打開するすべを見出すために思考を巡らせる。
「ああ、いやぁ、・・・」
微かな悲鳴が耳朶を打った。辺りを見回しその発生源を探る。地に伏して苦しみもがく幼い少女の姿が目に映った。
反射的に少女のもとに駆け寄る。体質かあるいはそれ以外の理由があるのか彼女はまだ吸血鬼化していない。今ならまだ助けられる!
「助、けて・・・」
「ああ、今助けてやる。」
エクスカリバーで少女の肌を浅く切る。これで吸血鬼化の魔法は解かれたはずだ。
苦しみから解放されたのか少女の表情が安らぐ。その様子を見てホッと安堵の息を吐いた。
「あ、がっ・・・」
しかし安堵したのもつかの間、少女の腕が枯れ枝のような歪な形に変質した。人ならざる者の貫手が僕の腹部に突き立っていた。
見れば少女の体はところどころ変形し人間と怪物の中間のような状態になっていた。
「いやぁ、なに、なんなのこれ・・たすけて、たすけてよぉ・・」
少女の悲痛な嘆きが胸をえぐる。余計なことをした。中途半端な希望を持たせたことでかえって少女の苦しみを増大させてしまった。
「ゴホッ・・・」
口から血液がもれた。致命傷は避けたがかなりの深手だ。早くこの腕を抜いてレミアに治療してもらわなくては。
それは分かっている。だが後悔が毒のように体を蝕み全身が鉛のように重い。
呼吸が浅くなる。力が抜ける。僕は少しずつ意識が遠のくのを実感した。
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