イレギュラー
何だ今のは?
確かにロビンは隙をさらしていた。だがモーロックの拳にあそこまでの威力があるのは納得がいかない。踏み込みも甘いし腰も入ってない。力任せに拳をたたきつけたような子供みたいな雑技だった。武術の心得があるロビンならまともに食らったとしてもそこまでダメージを受けるとは思えない。
しかし厳然たる事実としてロビンは戦闘不能に陥ってる。
考えられる原因としてはあの紅い光。あれは魔力なのだろうか?エクスカリバーは『正体不明』と表示した。
魔力のようでいて魔力と思えないほど強く輝き異質なまでに神々しい。
それこそまさに神の奇跡という形容がしっくりくる。
「ロビンっ!」
だが今は敵の分析よりもロビンの救出が先だ。僕は思考を切り替え、未だ気を失っているロビンに駆け寄る。
「動くな!」
しかしロビンのもとにたどり着く前に僕は足を止めざるを得なかった。視界の端に気絶した二人の少女が聖堂の奥から引きずり出されるさまが映った。
「ルリ、レミア・・・」
「妙な真似はするなよ。大事の女の無残な姿を見たくはないだろう。」
モーロックが嘲弄するような笑みを浮かべる。
やられた。僕らが茶番に付き合わされている間に拠点が襲撃されたのだろう。
おそらく最初からモーロックのほうが一枚上手だった。拠点は割れ、ルリやレミアの存在も知られていた。うまくいってると思っていた作戦も所詮は茶番の一部にすぎず、僕らは奴の手のひらの上で踊らされていた。
ヘレンが罠であることまでは想像できた。だがそれ以前に状況は既に詰んでいたのだ。
全身の血液が沸騰する。今すぐあの忌々しい狂人の喉笛を引き裂きたい衝動に駆られる。
だが、ギリギリのところで踏みとどまりかろうじて怒りを収める。
「賢明な判断だ。では次は武器を捨てその場に跪いてもらうとしようか。」
僕は感情を表に出さないまま、エクスカリバーを投げ捨てひざを折る。
「フフ、フハハハハハハハ。情けない、実に情けないぞ反逆者よ。たかが女を二人質に取られた程度でそのざまとは。その程度の気概で私に挑もうなど、百年早い。」
己の優位を確信したモーロックが両手を広げ盛大に高笑いをする。
自在に操れる無数の配下を従え、一人を戦闘不能にし、人質まで取ったのだ。もはやモーロックの勝利は揺るがないといってもいい。
それゆえに奴の目には映っていないのだろう。気絶したように目を閉じる闇色の少女の唇が微かに動いたことなど。
---フ、セ、テ
僕が身をかがめ体勢を極限まで低くすると同時に、漆黒の球状力場が放たれる。
付近にいた吸血鬼を木っ端みじんにし、その周りの吸血鬼や口をあんぐり開けたモーロックを吹き飛ばし、さらに僕の頭上を通過して入口を固めていた吸血鬼を吹き飛ばす。
一切気取られることなく最上級魔法を行使する神業。魔王の精霊という特異な存在であるからこそうてる逆転の一手。
「逃げるわよ。起きてルリちゃん。」
レミアの機転で形勢は逆転したが、モーロックの力の正体が分からないまま戦うのは得策ではない。
レミアにぺしぺしと頬を叩かれて寝ぼけ眼をこすってるルリは状況が把握できてないようだが、二人とも怪我を負った様子はなく自力で逃げられそうだ。それを確認して僕は今度こそロビンのもとへ向かう。
「うっ、・・・悠一・・・」
「一時撤退だ。動けるか?」
「あ、ああ、何とか。」
ロビンはおぼつかない手つきで魔法陣を取り出し、回復魔法を唱える。
僕はロビンに肩を貸してたたせてやり、聖堂を脱出して、レミアたちと合流する。
「どうする?」
「ひとまず町に潜みましょう。その男の治療も必要だし、逃げるにしても戦うにしても一度態勢を整える必要があるわ。」
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