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ピアレスアドベンチャー  作者: 竜夜
1章 吸血鬼討伐編
35/53

終わり?

ヘレンの案内に従いいったん町の外に出る。


「念のため周囲の警戒をお願いします。まだ町に近いのでそうそう魔獣は現れないと思いますが。」


 そう言ったあと、一見すると一様な草原に何かを探すように視線を巡らせる。その後数歩歩き地面に向かって何事か唱える。すると直径一メートルほどの魔法陣が出現しマンホールのふたのようにその部分がくりぬかれる。


「おおぉ!」


 いかにもな仕掛けに思わず感嘆の声が漏れた。中は少し薄暗いがきちんと通路が見える。


 子供のように地下への入り口をのぞき込む僕には頓着せずヘレンが地下道に降りたつ。少なくとも降りた途端にどうこうということはないようなので僕とロビンも後に続く。


「ここからは地下を通ります。少し暗いのではぐれないようにお気を付けください。」


 魔法で光源を確保し、薄暗い地下通路を進んでいく。途中いくつか分岐があったがヘレンは立ち止まることすらせずすたすたと歩いていく。


 さっきの嫌な予感は杞憂だったのだろうか?一応周囲に意識を配ってはいるが待ち伏せが潜んでいる様子はない。この上なく順調に道程を消化していく。


 ひとまず罠ではなさそうなことに安堵しつつ、もう一つの懸念事項、隣を歩く相棒に目を向ける。


 改めて考えてみても今日のロビンは明らかにおかしい。少なくとも昨日まではあんなに苛烈な戦いをするような奴じゃなかった。


 そして恐ろしいことにロビンは落ち着いている。ただ憎悪に身を任せ暴走するのではなく、その矛先を制御しながら異常なまでに高ぶらせている。


 復讐。彼はこの戦いをそう称した。それが間違っているとは言えない。否定することばを僕は持っていない。



 実際、吸血鬼の術者と相対したら殺すことになるだろう。ルリをさらったやつらとはわけが違う。牢屋に入れることはできない。ましてや成敗して心を入れ替えさせるなんてマネができるなんて思っていない。


 殺せ、殺せ、殺してしまえ。


 あの恐ろしい吸血鬼の姿を思い返すと、それが元は普通に暮らしていた無辜の民であることを思うと、術者に対してふつふつと怒りがそしてが湧いてくる。この感情は憐憫か義憤か。殺すべきだと僕自身の心も訴えている。


けど、


 ----いつまでも私の大好きなご主人様でいてください。


 ルリの涙に移った自分の姿が思い出される。今のロビンは同じ表情(かお)をしているように見えた。


「どうかしたか、悠一?」


 じっと視線を向けていたからだろう、ロビンが怪訝そうな顔をする。


 咄嗟に言葉が出てこない。何かを言わなければ、きっと後悔することになる。けど何を言えばいい?下手な説得をしようとしてもきれいごとを並べることになるだけだ。そんなことに意味はない。でも、じゃあどうすれば・・・


「いや、何でもない。」


 結局、いうべき言葉が見つからず、誤魔化してしまった。


 僕はどうすればいいのだろう?


 人を救うために悪を、人を殺す。その姿は果たして怖くないのだろうか?


 救える強さと悪を滅ぼす強さ。その二つはイコールで結びついているようで致命的な断絶をはらんでいるような気がする。では一体、救うとはどういうことだろうか?


「着きました。」


 前を歩いていたヘレンが足を止めたので一旦思考を中断する。いつの間にか没頭してしまっていたようだ。


 ヘレンが天井に向かって何事か唱えると入口と同じように魔法陣が出現して地上への扉が開く。


「ここからはいつ戦闘になるか分かりません。注意して行きましょう。」


 ヘレンの言葉を受けて僕は気を引き締めなおす。ここは既に敵地だ。本当はさっきまでの道のりでも気を抜くべきではなかった。ごちゃごちゃ考えてないで覚悟を決めろ。


 自分に言い聞かせるように頬を叩き、ヘレン、ロビンに続いて地上に出る。


 ざっと周囲を見回した感じ聖堂という言葉が頭に浮かんだ。空間を天に導くような先鋭的な天井に奥行きのある縦長の構造。並び立つ支柱の先にある祭壇に僕らは立っている。そしてずらりと並ぶ長椅子の一つに男が一人座っていた。


「お帰りヘレン。それで、どうしてそんなところから出てきたのかな?」


 端正な顔に作り物めいた笑みを浮かべ機械じみた仕草で首をかしげる。


「ただいま戻りました。そして死んでください。」


 ゾッとするような声音で宣告したあと、ヘレンが剣を抜いて切りかかる。それに続いて僕もエクスカリバーを抜いて駆け出し、最後にロビンが突進する。


 見たところ男は丸腰。魔法を使う隙もない。このまま一瞬で決める。


 しかし、そんな目論見通りいくはずもなく、男の頭上に巨大な火の玉が出現し無数の火矢を吐き出した。


 精霊魔法。魔法を現象として顕在化させるのではなく精霊という一個の概念として形を与え保存する技術。多彩な魔法を繰り自意識をもって行動するレミアと比べれば足元にも及ばないが恐らく最上級クラスの火属性魔法が聖堂全体に降り注ぐ。


 咄嗟に前進を中断しエクスカリバーを掲げて防御する。ロビンとヘレンも障壁魔法によってかろうじて事なきを得たようだ。


「駆けよ疾風、狂い荒びて嵐となれ。そは大いなるものの息吹。すべてを飲み込み薙ぎ払え。」


 精霊によって足止めをしている間に男は長めの詠唱を終える。風属性最上級魔法テンペスト。男を中心に風が吹き荒れ、火矢を飲み込み煉獄の嵐と化す。


 エクスカリバーでは防ぎきれず柱の陰に退避する。


「くそ、まずいな、完全に敵の戦術がはまった。」


 同じように退避してきたロビンが悪態をつく。


 小細工なしの最上級魔法。しかも火と風の相乗効果でさらに威力が増している。シンプルだがそれゆえに手が付けられない攻防一体の牙城。こうなると数の有利は意味をなさない。ロビンの言う通り完全に敵の思い通りの戦況だ。


「長くは持ちそうにないな。どうする?」

「決まってるだろ。押し通る。」


 相棒の問いに不敵な笑みをもって返す。ロビンも似たような結論に達していたのだろう。特に反論するでもなく同じように口角を釣り上げた。


『魔力変換:装甲』


 僕の意志にエクスカリバーが答える。全身を白銀の輝きが覆い、瞬時に魔力の鎧が形成される。


「星の精に希う。わが身に光あれ。」


 光属性上級魔法、スターアーマー。ロビンの体が蒼き光に包まれる。


 互いに準備が整ったのを確認しどちらからともなく柱から飛び出した。


 肌をあぶる熱波に耐え、押し返そうとする暴風に抗いながらただひたすら前へ。力業には力業で対抗する。 


 そしてついに男の姿を視界にとらえる。


「ッ、・・・」


 剣を構えた瞬間僅かに胸中に迷いが浮かぶ。歯を食いしばってその迷いを押し殺し聖剣を振りぬいた。大魔法の反動で動けない男の首に僕のエクスカリバーとロビンのレイピアが吸い込まれる。


 首が落ちるとともに嵐が止み精霊が消滅した。


 終わった・・・のか。たった今殺した男の死体を見ながら肩で息をする。じっとりと浮かぶ汗は聖堂のあちこちに引火した炎の熱のせいだけではないだろう。


「油断するな悠一、まだ終わりじゃない。」


 気を緩めかけた僕にロビンが鋭く警告を発する。そして背後から『死』の気配。


 振り向くと眼の前に剣を振りかぶったヘレンの姿が映った。


 

 


 

 


 

 


 

 


 


 

お読みくださりありがとうございます。楽しんでいただけたなら幸いです。

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