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ピアレスアドベンチャー  作者: 竜夜
1章 吸血鬼討伐編
30/53

吸血鬼戦

 打ち出される狂爪を聖剣の腹で受ける。僅かに腰を落としてつば競り合いを崩し体制を崩したところに一閃。聖剣の力で魔法が吸収され吸血鬼が糸の切れた人形のようにたおれる。


 吸血鬼は俊敏で膂力もすさまじいが動きは単調なうえに基本的に一撃で倒れる。数こそ多いが一体一体はさほど脅威ではない。


 右から迫る吸血鬼を投剣で牽制し左の2体を切りつける。聖剣が知らせてくれた背後からの奇襲を体を横に滑らせてかわしすれ違いざまの斬撃で沈め、ナイフのダメージから復帰してきた個体を蹴り飛ばしその先にいた一塊をボーリングのピンのようにまとめて倒す。


 一時的に右側への警戒が必要なくなったので左側の敵に向き直る。


「待たせたな、悠一。」


 しかし僕が切りかかる前に駆け付けたロビンがすでに吸血鬼を倒していた。そのままロビンはレイピア手繰り、刺突に合わせて打ち出されたホワイトストライクが僕が転がしていた吸血鬼にとどめを刺す。


 加勢に来てくれた相棒に駆け寄り「助かった」助かった声をかける。 


「そっちはどうだった?」

「案の定駐屯騎士が何人か監視していた。昨日一匹残らず駆除したからさすがに感づいたんだろうな。」


 さっきまでロビンは別行動で周囲に潜んでいる敵をさぐっていた。戦力を分断するのはリスクが大きいがこちらの手の内を知られるのはまずい。遠見の魔法で広範囲を探れるロビンが潜伏している敵を探し魔法が使えない僕は予定通り吸血鬼を倒すという役割分担だ。


「それで・・・その、騎士たちはどうしたんだ?」


 ロビンがこちらに加勢に来たということは役目を終えたということだろう。僕は恐る恐る騎士たちの処遇を訪ねた。作戦では吸血鬼だけでなく駐屯騎士や教会の戦力もじわじわ削っていくことになっていた。ということはつまり・・


「自爆した。」

「は?」


 予想外の答えが返ってきたため一瞬何を言われたかわからず思わず頓狂な声がでた。


「言葉通りの意味だ。尋問して情報を聞き出そうとしたんだが、完全に拘束する前に鎧に仕込んでいた魔法陣を発動された。周囲の空間をごっそり消滅させる強力な魔術だ。お前も注意しろよ。」

「全員か?潔すぎるだろ。」

「ああ、俺も騎士って生き物のことはよくわからんが、いくら何でも自分の命に躊躇がなさすぎる。ひょっとしたら・・」

「ひょっとしたら、何だよ?」


 言葉の途中で不意にロビンは黙り込んだ。続きを促すがロビンは首を横に振るのみで答えてくれなかった。


「いや俺の考えすぎかもしれない。それより一度拠点に戻ろう。増援でも来たら厄介だ。」

「ああ、そうだな。」

 

 本当に必要な情報なら共有するだろう。無意味な問答は避けここはロビン判断に従うことにした。


 戻る直前何とはなしに転がっている吸血鬼の残骸に目を向ける。彼らも元は罪のないただの人間だったはずだ。それを僕はこの手で切った。


 吸血鬼に変えられた時点で救う手立てはないことはロビンから説明されたし、自分の目で見て彼らはすでに死んでいるということが直感的に確信できた。彼らを救えるとするなら安らかに眠らせてやることだけだろう。

 

 しかしそう自分に言い聞かせても人体に刃を入れたときの独特の不快感は消えてくれない。剣と剣を打ち合わせる時のような小気味良い音や衝撃はなく、ただただ生の戦場の感触だけがあった。


 ある意味では剣と鎧で武装した騎士よりも生身のまま突っ込んできてどうしても『肉』を切らざるを得ない吸血鬼のほうが何倍も戦いづらい。


「恐ろしいよな。」


 僕の心理を見透かすようにロビンがつぶやいた。


「こんな醜い姿にかえられて、自由も意志も踏みにじられて、それでも誰も助け一つ求めようとしないんだ。」


 どうやらロビンは僕の表情を見て吸血鬼のありようを憂いていると思ったらしい。


 だが彼の言う恐ろしさも痛いほどわかる。人が人として扱われない、そのことに疑問の一つも抱かない。それがまかり通ってるこの世界は歪だ。


 吸血鬼にされた人々のせめてもの冥福を祈って軽く手を合わせてから、僕らは帰路についた。



 




 拠点に戻ると食欲をそそる芳醇な香りに歓迎された。


「お帰りなさいませご主人様、ロビンさん。今夕食の用意ができたところです。」


 その言葉通り卓の上にはかごに盛られたパンと大皿に盛られたいくつかの料理が並べられていた。僕らが戦ってる間に用意してくれたのだろう。


「ていうかルリ、お前包丁使ったのか!?大丈夫か?どっか怪我してないか?」


 夕餉を用意して待ってくれた女の子に対する第一声としては不適切かもしれないが、前の宿での醜態を考えたらどうしても心配が先に来てしまう。


 ルリの手を取りまじまじと眺めてると横からクスクスと笑う声が聞こえてきた。


「悠一は心配性ね。大丈夫よ、食材は私が魔法で切ったからルリちゃんは包丁を使ってないわ。」


 そう言いながらレミアは指先で風の刃を出現させて見せる。


「それならいいんだが、レミアって魔法陣持ってたか?」

「魔法陣?どうして?」

「いや、だって魔法には魔法陣が必要なんじゃ?」

「それは、魔法を使ったら出てくるでしょうけど、なんで持ち歩く必要があるの?」


 僕も別に魔法に詳しいわけではないし使うこともできないが、少なくとも今まであった人は魔法陣を使っていたはずだ。


「魔族が使う魔法は人族のものと少し異なると聞きます。レミアさんが魔王の精霊という話はあながち嘘ではないのかもしれません。」


 ルリがこそっと耳打ちで説明してくれた。ロビンの手前レミアの素性を隠すための配慮だろう。


「おい、何してるんだ。せっかくの料理が冷めるだろ。」


 ロビンにせかされ「ごめん、ごめん」と軽く謝りながら僕も卓につく。


 僕が座るや否やレミアは僕の隣に陣取る。そして一瞬何かを思いついたように目を輝かせた後、キャベツ巻きのようなものをフォークにさして、


「ハイ悠一、あーんして。」


 それを自分で食べるのではなく僕に対して差し出してくる。ぐいぐいと押し付けられてやむなく僕はキャベツ巻きを頬張る。


「おいしい?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながらコテンっと首をかしげる。その動作に合わせて上質な黒髪がさらさらと肩を流れた。


 少女らしい可愛らしさと女性らしい艶やかさが同居したようなその姿に思わず吸い込まれそうになり、あわてて目をそらす。正直気恥ずかしさで味なんてわからなかった。頬が熱くなってるのがわかる。


「ご主人様、スープもありますよ。熱いので今冷ましてさしあげますね。」


 レミアとは反対側にルリが行儀良く正座した。僕の前にあった椀からスプーンで一杯掬い取りふぅふぅと息を吹きかける。


 そのけなげな動作に一瞬目を奪われた後、「どうぞ」と差し出されたスプーンに引き寄せられようにして口を開く。


 パクッ。


 僕が食べる一瞬前にスプーンは割り込んだ黒髪の少女のお口に吸い込まれる。


「うん、おいしいわ。」

「そうですか、それはよかったです。」


 レミアが満足げに微笑み、ルリが笑顔で返す。二人とも目が笑ってない気がしたが僕は目をそらした。


「いいご身分だな。」

「いや・・その・・悪い。」


 逸らした先でロビンのジト目と目が合った。気まずくて何と言ったらいいかわからず取り敢えず謝っておいた。 


 ちらっと、レミアの様子をうかがう。ルリの言う通りレミアの使う魔法が魔族と類似するなら魔王の精霊という話は冗談というわけではなさそうだ。だとしたらレミアは魔族、つまり人族の敵なのだろうか?だがそれならそもそも何故こんなところにいるのか?


「どうしたの、悠一。私に甘えてほしいの?」


 目が合った。とたんにいたずらっぽい笑みを浮かべてしなだれかかってくる。


「ちょっとレミアさん。ご主人様から離れてください。」

「えぇ、だって悠一から求めてきたのよ。」

「ご主人様は一言もそんなこと言ってません!」


 すり寄ってくるレミアにルリが割込み喧嘩ををはじめる。とはいえことさら険悪な空気というわけではない。というかレミアは単にルリをからかって楽しんでるだけなのだろう。


 いろいろ腑に落ちないことはある。だがレミアに敵意や害意があるようには見えない。そこまで気を張る必要はないかもしれない。


「ハイハイ、二人とも喧嘩するなって。」


 にらみ合う二人をたしなめ、僕は少女たちが用意してくれた夕食に舌鼓を打つのだった。

 


 


 

 

 

 

  

 

 


 


  

お読みくださりありがとうございます。楽しんでいただけたなら幸いです。

少し遅くなりましたが、メリークリスマス。

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