それぞれの想い《神崎雫編》
気合いで二日連続投稿。これでやっと幕間が終われる。
優真の奮戦によって辛くもヴォルケイノを退けた神徒の騎士団一行はこれ以上の続行は無理と判断してどうにか地下遺跡を脱出した。今は森のなかに作った拠点で静乃等前衛組は周囲を警戒し私ー神崎雫を含め、魔法に長けた後衛組は負傷した優真と親衛騎士団の治癒に勤しんでいた。
中でも英雄凱旋の影響もあって一番傷の深かった優真は私が集中的に治療した。すでに治療は終わり目に見える外傷は概ね消えており、私の膝枕ですやすや寝息を立てている。
他の騎士達の治療も全て終了していて逞しい者は周囲の警戒に参加しているくらいだ。
暫くして優真が目を覚ました。
「おはよう、優真。気分はどう?」
「雫・・・あいつはどうなった?それに、ここは?」
「ヴォルケイノならあなたが倒したわ。ここは遺跡の外よ。」
「そうか。やっぱり、如月がいなくてもなんとかなっただろ。」
「ええ、そうね。」
正直、悠一くんならもっと余裕をもって倒せたと思うけど、わざわざそれを言うつもりはない。優真のお陰で結果的には全員助かったのだから。
「思っている以上に俺たちは強くなってたみたいだな。あの裏切り者だっていつか必ず倒してやる。」
「ええ、 そうね。」
その言葉に私は胸が痛くなるのを感じた。だって彼は私たちのために私たちを裏切ったのだから。
全員の意識が回復してから私達は王都に帰った。各々が無事に帰ってこれた開放感からホッと息をつく。
「ヴォルケイノですか!?よくご無事でしたね。」
顔を見にきてくれたエルシアナの第一王女アリアに遺跡での顛末を話すと驚いた様子で宝石のような瞳を見開いた。
アリアは現在十六才の金髪碧眼の美少女だ。真面目な性格だが堅すぎるわけではなく同年代ということもあり気さくに接している。私は今では友人と呼べる関係だと思っている。
「ええ、予想外のアクシデントではあったけど、優真のお陰で助かったわ。」
「まあ!さすがは英雄ですね。」
そう言ってアリアは優真にふんわりと微笑みを浮かべる。
「あ、ああ、君に誉められて光栄だよ。」
本物のお姫様の笑みを直接向けられた優真は分かりやすく照れていた。
「本当に凄いですわ。初めてまみえた強敵にも打ち勝ってしまうなんて。やはりあなたこそ人々の希望となるのにふさわしいお方です。」
アリアはわずかに頬を上気させながら過剰とも言える称賛を口にする。心酔しているというよりは明らかに乙女の顔をしている。初めて顔を合わせた時からこんな感じだった。肝心の優真は照れ隠しでそっぽを向いていて全く気がついていないが。
「神徒の騎士団様。お食事の準備ができています。食堂へどうぞ。」
少しの間談笑していると奥からメイドが現れた。その勧めにしたがって私達はアリアと軽く挨拶をかわしたあと食堂へ向かった。
食事の間は基本的に王国の人間は介入せず私たちだけの時間にする。これは悠一くんが国王のセルドと直接交渉して決めたことだ。そもそも私達は神徒の騎士団として迎え入れられた次の日には魔族との戦線に出されるはずだった。しかし悠一くんはそれをよしとはせず、形代に不馴れという設定をでっち上げ三週間の訓練期間を設けた。彼は神の使徒という立場を利用していろいろ私たちに有利な条件を王国にのませた。こんな異常事態でよくそこまで冷静に対処できたものだ。彼がいなかったら今ごろ私たちは不馴れな戦場に駆り出され下手したら死者が出ていたかもしれない。
この食事の時間もそうだ。彼はこの時間を王国に干渉されずに各々の情報共有と今後の話し合いをする場にしようと考えていた。残念ながらその思惑は外れてみんなわいわい談笑しているが。
私もこれと言って重要な用件は無いのでみんなと共に豪華な料理の数々に舌鼓をうつ。大半を食べ終わった頃、不意にドアがノックされ次いで「邪魔するぞ。」と一言断ってからテオングさんが食堂に現れた。
「お前たちに少し話がある。如月悠一のことについてだ。」
悠一くんの名前にみんな表情を強張らせる。無理もない。昨日、彼が私達全員を相手に大立回りを演じたことはある意味みんなのトラウマになっているのだ。
「調査は我々に任せてくれ。だが行方が掴め次第捕縛にはお前たちに向かってもらう。」
その言葉に皆一様に驚きを見せていた。私は予想通りだったからなにも感じなかったけど。
「悠一を捕らえるまでは魔族との戦線には出ずここで修練に励んでくれ。分かってると思うがあいつは強敵だ。我々だけでは力不足でもある。同じ神の使徒であるお前たちにこの任務を託したい。」
「分かりました。昨日は不覚をとりましたが、次こそは必ずあいつを倒して見せます。」
優真の言葉に呼応して血気盛んな男子を筆頭にみんな「次こそは。」と決意を固める。ただ一人私の隣の席の静乃は浮かない顔をしていた。
「どうしたの?」
「雫さん、みんなはやっぱり、先輩のことを恨んでいるのでしょうか?」
静乃がただ先輩と言うときは決まって悠一くんのことを指す。この娘は特に悠一くんのことを慕っていたからショックも大きかったのだろう。
「まあ、あれだけのことをしたんだし。仕方ないでしょ。あなたはどう思ってるの?」
「分かりません。先輩は何故あんなことをしたのか。きっと、なにか理由があるはずなんです。でも、僕にはその理由が見当もつきません。」
静乃は声も表情沈んでいる。口ではこう言ってるが本当は理由なんか無いんじゃないかと内心不安なのだろう。
「悠一くんは私達を裏切ってなんかないわ。」
悠一くんの心中を察している私はこう答えた。
例えば今の状況。テオングさんはああ言っていたが、恐らく国内外から神徒の騎士団に対して不信の声が上がったのだ。なにしろその神徒の騎士団から逆賊が現れたのだから。信頼を取り戻すには神徒の騎士団自信の手で逆賊を制裁し一個人の暴走であることを証明するしかない。王国も散々私達を神の使徒と喧伝した手前私達を擁護するしかない。
また魔族との戦争はそこまで激化しているわけではなく戦力が拮抗している今は停戦に近い状態と聞く。この状況でわざわざ大戦争の火蓋を切るよりも内側の不穏分子への対処を優先するのは当然のことだ。
結果、悠一くんが捕まらない限り私達は危険な戦争に参加する必要がなくなった。裏を返せば私達はある意味悠一くんの庇護下にあるのだ。
それに本来なら過酷な殺し合いの末に積んでいかなければならない対人戦の実戦経験も多少手心を加えてくれる悠一くんを相手に積むことができる。
でも、それを静乃に伝えるつもりはない。それは彼の意思に反するから。悠一くんへの憎しみを糧に私達がより訓練に身を入れるようになることを彼は望んでいる。だから彼はなにも言わずに私達のもとを去ったのだ。それが分かってるから、
「不安なら直接聞けばいいじゃない。悠一くんを正面からねじ伏せられるほど強くなってその真意を聞き出すといいわ。」
私は静乃にこう言った。
「そうですね。僕、もっともっと強くなります。」
「その意気よ。」
静乃の表情にいつもの明るさが少しだけ戻った。まだ空元気だがそのうち本調子になるだろう。
「雫さんは先輩のことどう思ってるんですか?割りと好意的なようですが。」
少し訳知り顔で語りすぎたか、静乃が少し疑問に思ったようだ。これに対し私は少し考えてから
「信じてるわ。」
とだけ答えた。
優真は昔から容姿端麗で頭もよくスポーツ万能で当然女の子にも人気があった。そんな優真と地味な見た目のくせに昔から家が近い幼馴染みというだけで一緒にいた私はよく他の女の子に目の敵にされていた。優真の手前露骨ないじめこそなかったが小さな嫌がらせは茶飯事で当然女子のグループにはなじめなかった。
かといってそれを理由に幼馴染を拒むことはできず登下校や休み時間では周囲からの嫉妬と羨望の視線にびくびくしながら無邪気に話しかけてくる優真の相手をした。けど男子グループに混じる勇気はなかったので遊びの誘い等は断っていた。
必然的に私はフィクションの世界に浸るようになった。といっても読むのは漫画やラノベばかり。部屋には小学生の頃から集めた漫画やラノベのほか各種グッズで溢れておりいつの間にかオタクと呼ばれる人種になっていた。
そして高校に上がってすぐの頃ある事件が起きた。
高校に上がって一か月ほどたち、だんだん新しい生活になれたころ、私は校舎裏に呼び出された。
呼び出したのは山吹綾という女子生徒。学年の女子の中でリーダーにあたる生徒だ。なんとなく要件は見え透いているし正直行きたくなかったが無視するのも怖かったので呼び出しに応じることにした。
「あんた一之瀬君の何なの?」
軽く前置きをした後山吹は単刀直入に用件をきりだした。とうとうこの時が来たかと私は内心身構えた。
「あんた地味だしクラスでも浮いてるくせになんでいっつも一之瀬君と話してるわけ?」
「それは幼馴染だから・・・」
そういえば山吹は最近優真に告白して振られたんだっけ。
そんなことを思い出しながら私は歯切れ悪く答える。優真が私にかまうのなんて幼馴染であるからであってそれ以上のほかに答えようがない。けど私の答え方は山吹の神経を逆なでした。
「なにそれ、幼馴染ってだけで一緒にいるとかイミフなんだけど。」
「そういわれても・・・」
「あんたさ一之瀬君と縁切りなよ。どうせあんたと一之瀬君じゃ釣り合わないし幼馴染で仲良しかよしする年でもないでしょ」
私の言うことは初めから聞くつもりもないようで山吹は無遠慮に自分の要求を突き付けてくる。けどそんなことを急に言われても応えられるはずがない。
私が黙っていると山吹はずかずかと近づいてきて、
「あんたの面見てるとむかつくのよ!」
突然私の胸ぐらをつかみ殴りかかってきた。私は反射的に山吹を突き飛ばす。幸い山吹の力はあまり強くなく存外簡単に吹き飛んだが私は怖くなってその場を逃げ出した。
翌日いつも通り遅めの時間に登校すると、教室の扉を開けると同時にクラス中の視線が集まった気がした。それだけでなくこちらを気にしながらひそひそと話している。
「雫、どういうことなんだ?」
いつも通り席についていつも通り優真が話しかけてきたと思ったらそんな突拍子もないことを言ってくる。
「どいうことって何よ?」
「とぼけないでくれこれのことだ。」
そう言って優真は一枚の写真を見せる。それを見て私は青ざめた。
そこには地面に倒れる山吹とそれを見下ろす私の姿が映っていた。
「決まってるじゃない。そこにいる神崎雫が綾を校舎裏に呼び出していきなり殴ったのよ。」
一人の女子が教室中に聞こえるような大声で言った。そちらを見るとクラスのリーダー格の女子グループの一団がいた。その中には大げさに頬を手当てした山吹の姿もある。私は突き飛ばしただけで殴ってないのに。
私はようやくはめられたことに気づいた。昨日山吹が一人だったのはおかしいと思ったのだ。いじめをするつもりなら私を逃がさないように複数人で来るのが普通だし山吹なら仲間を集めることくらい造作もないはずなのに。
そして昨日確かに山吹は一人じゃなかった。隠れていただけで仲間は確かにいたのだ。そして私に直接被害を加えるのではなく私を加害者に仕立て上げた。
「ちが・・・」
「すまなかった。」
私はあわてて弁明しようとしたがその前に優真が女子グループに対し深々と頭を下げた。
「やだなぁ、一之瀬君が謝ることじゃないでしょ。」
「そういうわけにもいかないさ。さあ、雫も一緒に謝ろう。誠心誠意あやまればきっと許してくれるはずだ。」
そこで謝っておけばそれで済んだのかもしれない。しかしその時の私は濡れ衣を着せられるのが我慢できなくて何も言えなかった。
「なんか言ったらどうなの。」
「自分の非を認めずに一之瀬君に謝らせるなんて最低。」
私が黙ってるのをいいことに。女子グループは次々に言い募る。それに対し私は何も言い返せない。何を言えばいいのかわからない。
完全に証拠を突き付けられて何も言えなくなった犯人の構図ができあがり、クラス中から非難の視線が向けられる。ひそひそと話している声が陰口を言ってるようにしか聞こえない。
誰も信じてくれない。私をかばおうとしてる優真ですら私を信じていない。そんな状況に私は泣きそうになった。
「証拠はあるのかい。」
ふいに聞こえた声に顔をあげると、女子グループに立ちはだかるようにいつの間にか小柄な男子生徒が立っていた。確か如月悠一という名前だったはずだ。
「証拠?その写真に決まってるでしょ。」
何を言われたか分からなかったとでもいうように山吹は首をかしげる。如月は複数の女子ににらまれても臆することなく反論した。
「それは神崎さんが山吹さんに危害を加えた証拠にはなるけど一方的な暴力だった証拠にはならないだろ。僕は昨日山吹さんが神崎さんの胸ぐらをつかんでいるところを見たし。」
「は?そんなわけないでしょ。」
「どうして?」
そこで山吹は口をつぐんだ。
おそらく複数の女子が絡んでることから見張りは徹底していただろう。だから目撃者はいるはずがない。だがそれは山吹側の理屈で第三者から見たら山吹が目撃者がいないと言い切れるのは不自然だ。
そのあと、如月と女子グループとで水掛け論になり、だんだんぼろが出始めたことでクラスからな疑惑の視線が山吹たちに向けられ始めしぶしぶ彼女たちは引き下がった。
「ありがとう。」
私は小さくつぶやいた。
翌日。私は如月を近くの喫茶店に誘った。といってもデートというつもりではない。単純に助けてもらったお礼がしたかったのだ。
「何で分かったの?」
会話の中で私は昨日のことを訪ねた。あの空気の中で私をかばおうとした胆力もすごいと思ったが何よりあの短時間で真相を見抜いたことのほうに驚いた。
言葉少なだったが幸い如月に私の意図は通じた。
「だって山吹さん怪我してなかったし。」
「なんで分かったの?」
私はあほの子みたいに同じ質問を繰り返した。
「あの程度、見抜けないようじゃ生きていけないって教わってきたからな。」
如月は真顔でそう言った。
「どんな教育受けてきたのよ。」
「今度家の家庭教師に会わせてやる。本物の鬼だから。」
そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる如月はまるで子供のようだった。
どうして昨日初めて関わったような相手とこんなに普通に会話してるのだろう?ふと疑問に思った。今まで優真や隆一以外の男子と話したことなんてほとんどないのに。
如月といるだけで無性に楽しくなってくる。その事を自覚したとき私は思った。ひょっとしたら、こいつとならうまくやっていけるんじゃないだろうかと。
「ねえ、お願いがあるんだけど。」
「ん?なに?」
「私と・・・その・・友達になってよ。」
殆ど友人のいない私にとっては一世一代の覚悟を決めて発した台詞だったのだが、如月はキョトンと首をかしげた。
「それって、そんな風に宣言してなるものなの?」
「うっ・・・仕方ないでしょ。今まで友達何ていなかったんだから。」
「ああ、ボッチ。」
「改めて言葉にされると腹立つわね。」
「ははっ、悪い悪い。」
如月は悪びれもせずからからと笑った。けど不思議と不快ではなかった。これが友人同士の気のおけないやり取りと言うやつか。
「なんか、あなたと話しているとコミュ症がなおる気がする。」
「それはよかった。なんなら何人か友人を紹介しようか?僕、女友達も結構いるし。」
「ありがとう。それと、友達になるついでに名前で呼び合わない?私も悠一くんって呼ぶからさ。」
言ってしまった後にさすがに踏み込みすぎたかと少し後悔する。だって私の知ってる世界ではそういうのはもっと親しい関係の男女がするものだし。例えば恋仲とか・・・。
しかし悠一くんはそんなことを全く気にする様子はなく、
「分かったよ、雫。これでいい。」
そう言ってやけに愛嬌のあるしぐさで首をかしげた。
「あっ。」
その瞬間、謎の高揚感に包まれて妙な声を出してしまった。別に名前呼びをされたのがはじめてと言うわけではない。家族は私のことを雫ちゃんって呼ぶし、幼馴染みの隆一や優真は名前呼びだ。
でも悠一くんに呼ばれるのは、なんか違う。うまく言い表せないけど、なんか胸がきゅっと締め付けられるような気がして、苦しいような楽しいような変な感じ。とにかく何故かすごく嬉しかった。
お読み下さりありがとうございました。
今回は雫の回想。彼女には今後も要所要所で活躍してもらいたいと思います。既にルリや静乃がいるので気持ちを隠しながらも悠一のために尽力する。そんないじらしいキャラにしていければなと思っています。
これにて幕間は終了し次回から第1章のスタートとなります。まだまだ序盤なので新キャラもバンバン出てくる予定です。名前を考えるのが大変。異世界人なので意味はなく語感だけいい感じにしようとしているのですがこれがなかなか難しい。(テオングとか最悪の駄作。)なのに技名や武器名は意味を持たせたいので英語メイン(絶生拳は一応日本人の小野フミナ考案なので漢字)。・・・もういいや。細かいことは気にしない。
こんな感じでいろいろ迷走したり瞑想したりしながらになりますが、楽しんで下されば幸いです。
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