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ピアレスアドベンチャー  作者: 竜夜
序章 物語の始まり編
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一撃必殺

 どうにか地下牢を脱出し一度僕の部屋に行って旅行鞄に荷物を適当に詰め込み窓から飛び降りてしばらく走ったのちとある喫茶店にお邪魔させてもらっている。まだ開店前のようだが店主らしい女性に少し先端のとがったものを見せたら快くかくまってくれた。


 それにしても疲れた割と本気で死にそう。


 絶生拳を使うのは体に物凄い負担がかかる上にここまで来る間常に全力疾走していた。更に少女を一人背負い途中から旅行鞄も抱えながらだったので疲れすぎて体が重い。こんなことならもっと鍛えておけば良かった。まさかフミ姉の言ってたことを本当に思う日が来るとは。


 少女は今僕の隣に座り同じテーブルを囲んでいる。


「そういえばまだ名乗ってなかったね。僕は如月悠一。お前は?」

「・・・・・・ルリ・エルシアナです。」


 少女改めルリはちゃんと会話に応じてくた。声を出すのにも慣れてきたのか割りとハキハキ喋れるようになっている。まあ、まだそっぽを向いたままなんだけど。


「エルシアナってもしかして・・・」

「はい。私はこの国の国王の娘です。」

「ええ!じゃあ、あのエセ紳士国王、自分の娘をあんなところに幽閉したの!?」


 僕がそういうとルリはプッと可愛らしく吹き出した。


「どうしたの?」

「いえ、御父様をそのように言う人は初めてなので可笑しくて、つい。」


 なるほど。確かに言われてみれば国王相手に物凄い失礼なあだ名をつけていた。まあ、神徒の騎士団である僕の方が目上なんだけど。


「それよりお前、なんであんなところに捕まってたんだ?」

「・・・言わないとダメですか?」

「僕にも僕なりの計算があって連れ出したわけだけど、まあ、本物の大罪人って可能性もあるからな。一応お前の言葉は全面的に信じるつもりだから安心して話してくれ。」

「・・・分かりました。」


 ルリは少し渋ってたがやがて観念してポツリポツリと話し始めた。


 ルリは生まれつき人より豊富な魔力を保有し、物覚えがよく勉学に長け、その綺麗な容姿を含めて『千年に一度の才女』と謳われ国内外問わず多くの男性から求婚されたらしい。


 しかし彼女が11才の時に異能に目覚めてからは全てが変わった。


 異能とは魔獣と呼ばれる生物や魔族が使用する特殊能力のことだ。体系化され訓練さえすれば誰でも使える魔法とは異なり先天的な能力として発現する。それゆえに基本的には個体ごとに一つの異能しか使用しない。魔法陣のような準備をする必要もなくその強さは魔力の多寡や魔法技能に直結しない。


 その異能だが、稀に8歳から12才の人間の子供が覚醒することがある。そういう子供は悪魔の子とみなされ魔獣のはびこる人里の外に捨てられるか国によって公的に抹殺される。


 ルリが覚醒したのは『一度でも魔方陣を見たことがあるなら無条件にその魔法を発動できる』というものだ。文にすると地味な能力だが、考えようによってはどんな能力よりも強力だ。


 上級魔法であれば時には一撃で戦況をひっくり返せる程の威力を持つものもある。その代わり魔法を使うためには魔方陣を用意しないといけないので少なくとも片手は塞がるし、強大な魔法を使おうと思えば巨大な魔法陣とさらに長い詠唱が必要だ。なので使うときはどうしても隙が増える。複数人でチームを組んで仲間がその隙をカバーするのが定石だ。


 しかし、ルリの異能はそのすべてのリスクを無視できる。詠唱は省けばいいし、一度見ればそれでこと足りるので戦場にわざわざ魔方陣を持っていく必要もない。


 まさにチート。僕以外の神徒の騎士団の常人を遥かに上回る魔力なんて可愛いものだ。それゆえに王国はその力を利用しようとルリを抹殺したことにしてあの地下牢に幽閉したらしい。


 ちなみに年に一度ルリの父親でこの国の国王であるセルド・エルシアナが直接様子を見に来るので自分の年齢は分かるらしい。過去四回、父親とあってるらしいので現在は15才。僕より一つ年下だった。


 王国はルリが悪意ある者に唆されたりして謀反をおこすことを危惧してルリに魔法を教えてルリ自身を強くしようとはしなかった。だが、貴重な能力を全く使わないのはもったいない。そこでルリに召喚魔法を使わせることにした。


 召喚魔法とはこの世界と同じ座標で別の次元にあるとされている高位世界に干渉しそこから武器や獣を呼び出し使役する魔法だ。一度で大幅に戦力を強化できるが代償に数百人の魔力を廃人になるまで搾り尽くさなければ発動できない。


 だが、ルリの異能ならばその問題を解決できる可能性がある。それに呼び出した武器や獣は他の人間に使わせればルリ自身は強くならない。


「それでは、私は失礼します。」


 話が一段落したと思ったら突然ルリが立ち上がった。


「どこ行くんだ?」


 当然、僕は呼び止める。ルリは淡々と答えた。


「あそこから連れ出してくれたことは感謝します。でも、ここからは一人で大丈夫です。」

「何言ってんだ?お前一人じゃすぐに捕まるよ。僕も一緒に・・・」

「大丈夫です!」


 思いの外強い反発が返ってきた。ルリはバツの悪そうな顔で俯く。


 その目に宿っているのは怯えだ。まるで目に前に外敵がいるかのようにうるんだ瞳が震える。


「ああ、そうか。」


 異能の子は悪魔の子。異世界人であるぼくにその観念は理解できない。だから話半分に聞いていたがルリにとっては非常に重い告白だったのだ。


 彼女に罪がないのは事実。それでも彼女からしたらだましているという認識だったのだ。だから真実を知れば僕は敵に回ると思ったのだろう。


「へ?」


 余程意外だったのかルリは呆けたような顔で間抜けな声を出した。なにしろ唐突に僕がその華奢な体を抱き締めたからだ。僕自信何故そんなことをしたのか分からない。けどこの少女に敵意がないことを伝えるためにはなんとなくそれが正解のような気がしたのだ。


「怖がらなくていい。僕はお前の敵じゃない。」

「別に私は・・・」

 

 ルリは尚も抗弁しようとしたがそっと頭を撫でてやると口をつぐんだ。代わりにその蒼穹の瞳から大粒の涙をこぼし、子供のように泣きじゃくった。


「怖かっだぁ、怖かったよぉ。ずっと一人で、誰も助けてくれなくて・・・」

「安心して。今まで君に味方がいなかったのだとしても、僕は僕だけは何があっても君の味方だから。」


 今はこの不幸な少女に思う存分泣かせてやるべきだ。僕はルリが泣き止むまでいつまでも抱き締めることにした。


 やがて今までの艱難辛苦を全て吐き出しようやくルリは落ち着いた。


「よし、じゃあ取り敢えずさっさと王都から出ようか。」


 そろそろ捜索が始まる頃合いだろう。いつまでも王都にいるわけにはいかない。この店にもあまり迷惑はかけられないしこんな危険地帯はさっさと脱出するに限る。


 僕は一度様子を見るために外に出た。次の瞬間僕は自身の楽観を呪うことになる。


 胸を貫く『死』の気配。


 狙撃か!


 直後、飛来してきた何かが胸部を貫通し、僕は衝撃で吹き飛んだ。



「えっ


 私ーーールリ・エルシアナは突然の事態に呆けてしまいました。何かが悠一に直撃したその一瞬の時間がやけにゆっくりと流れた行きました。


「悠一ィィィィィーーーー!!!」


 自分でも驚くくらい大きな声が出ました。


 異能に目覚めてからの私の人生は苦痛しかありませんでした。地下牢に閉じ込められたのもそうですが、何より堪えたのは周囲の人が揃って手の平を返し私を化け物とさげすんだことです。人々が褒め称えていたのは私の容姿と才覚だけで、ルリ・エルシアナという人間を見てくれていた人なんておらず、私を称賛していた民衆も求婚してきた男性も、信じていた家族や家臣までみんなちょっとしたことで手のひらを返し、その事実に愕然としました。最初はどうにか脱出を試みたもののその度にあっさり取り押さえられ、いつしか何もかもあきらめて壊れないようにするので必死になっていました。


 そんなときに悠一は突然現れました。どこの誰かもわからない。信用できるかもわからない。けれど久々に差し込んだ光に私は必死の思いで縋り付きました。そして彼は私のその願いに応えあっという間に私を地下牢から連れ出しました。それだけじゃない、私が悪魔の子だと知っても尚彼は私を抱きしめてくれた。そして壊れそうだった私の心を優しく包んでくれた。私にはそれだけのことがまるで奇跡のようで、この人になら自分のすべてを預けてもいいとさえ思いました。


 私にとって悠一はお伽噺の王子様のような存在でした。


 でもその悠一は今ぐったりとしたまま動きません。その姿はまるで屍のよう。


 あの攻撃は過去に一度だけ見たことがあります。恐らく放ったのは王室親衛騎士団団長、テオング・クエース。彼は剣術や魔法の腕も一流ですが本当に突出しているのは弓術です。姿を認識する事すらできない超遠距離から放たれる正確無比な矢を防ぐことはまず不可能。運良く直撃を避けても着弾の衝撃で体が吹き飛びます。その弓術は相棒のアーティファクト、『雷光の弓(ライトニング)』と合わせて一撃必殺(ワンショットキル)と呼ばれ恐れられています。その直撃を受けた悠一はもう生きてはいないでしょう。


 私は無我夢中で悠一に駆け寄ろうとしました。 


 けどどこまでも絶望的な私の運命はそれすら許してくれません。私の体はあっさり騎士に取り押さえられました。


 考えてみれば当然です。あのタイミングでピンポイントに狙撃ができたということは居場所を把握したうえで虎視眈々とチャンスをうかがっていたということ。であればこの場は既に取り囲まれていることは自明です。


 騎士達は手早く私を馬車に乗せました。悠一の死に呆然としていた私はろくに抵抗も出来ずなされるがままに連れていかれてしまいました。

  


 

お読み下さりありがとうございます。

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