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選ばれし名、選びゆく道  作者: 孔雀丸


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第15話 最後の夜

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


第七章も、いよいよ後半に入りました。


第15話は、寿満寺での特別合宿、最後の夜です。


戦いの話ではありません。


少なくとも、前半は。


ただの高校生たちが、ただ縁側で笑っている。

そんな夜を、どうしても一話まるごと使って書きたいと思いました。


慎悟たちにとっては、何気ない夜です。


けれど、その何気なさが、この物語では一番大切な武器になるかもしれません。


そして話の後半では、場面が平永寺へ移ります。


同じ夜に、同じように「進路」の話をしている者たちがいる。

その対比を、ぜひ味わっていただければ嬉しいです。


それでは、第15話「最後の夜」をどうぞ。

 七月二十七日、夜。

 寿満寺(じゅまんじ)の宿坊には、数日間にわたる特別合宿の最後の夜が訪れていた。

 明日の朝には荷物をまとめ、慎悟(しんご)たちは福江市(ふくえし)へ戻る。

 境内では夏の虫が鳴き続けている。

 昼間の熱がまだ畳や柱に残っているが、開け放たれた障子から入り込む山の夜風は、思いのほか涼しかった。

 夕食を終えた広間には、めいめいの時間が流れている。

 翔一(しょういち)が畳へ大の字に寝転がり、天井を見上げたまま呟いた。

「なんだかんだ、楽しかったな」

 一瞬、場が静まる。

 健太(けんた)が眉を寄せた。

「……どの辺がだよ」

 翔一は指を折りながら数え上げる。

「寺に泊まって、飯食って、修行して、猿と遊んで――」

 健太はそれを遮るように、逆方向から数え始めた。

「鬼に襲われた。斬牙(ざんが)が来た。慎悟は怪我したまま指揮執らされた。謎の絵巻が出てきた。四百年以上前から俺らの名前が書かれてた。夢に珠が出てきたと思ったら、その珠が本当に壺から出てきた」

 一つ一つ数え終えると、健太は腕を組んだ。

「お前の言う『楽しい合宿』、基準おかしくねえか?」

 翔一はにやりと笑った。

「でも猿はかわいかっただろ?」

「……そこだけは認める」

 友紀(ゆき)と南海(みなみ)が同時に吹き出す。

 慎悟も口元を緩めた。

 蓮(れん)が湯呑みを傾けながら静かに言葉を挟む。

「まあ、普通の合宿ではなかったね」

 翼(つばさ)が眼鏡の位置を直しながら応じた。

「普通という言葉の定義から、そもそも検討する必要があるけど」

「そういうとこだぞ、翼」

 翔一が突っ込み、再び笑いが広がる。

 美奈子(みなこ)は少し眠そうに目をこすりながらも、その笑い声を静かに聞いていた。

 莉奈(りな)は明日の片付け手順について、隣に座る寿蒙(じゅもう)へ小声で確認している。

 これまでの数日間、重い出来事が続いた。

 だからこそ、こうした他愛のない会話が、今の彼らにとって何より心地よかった。

「普通の日常」という言葉が、今夜どれほど大きな意味を持つのか。

 まだ誰も、それをはっきりと言葉にはしていない。


 広間の隅で、歩美(あゆみ)だけが何度もスマートフォンの画面へ視線を落としていた。

 時刻。

 明日の天気。

 気温。

 降水確率。

 明日は、夏の高校野球福江県大会決勝。

 清王学園(せいおうがくえん)高校対宮王(みやおう)高校。

 宮王高校は甲子園常連の強豪校で、清王学園にとっては明らかな格上の相手だった。

 友紀がその様子に気づき、身を乗り出す。

「歩美、さっきからずっとスマホ見てない?」

 歩美は苦笑した。

「天気とか、気温とか……あと、選手のみんな、ちゃんと寝てるかなって」

 南海がくすりと笑う。

「完全にマネージャーモードだね」

 歩美も笑ったが、その表情はすぐに少しだけ曇った。

「私が試合するわけじゃないのにね」

 その一言で、周囲の空気がわずかに静まる。

 歩美は指先を組み合わせながら続けた。

「打席に立つわけでもない。投げるわけでもない。守るわけでもない」

 自分は、試合そのものの結果を決める人間ではない。

 霊護獣(れいごじゅう)を持ち、回復札を扱う戦士であることとは別に、野球部ではただの一年生マネージャーに過ぎない。

 その事実が、今夜はやけに大きく胸を圧していた。

「なのに、私が一番緊張してるかも」

 歩美は口の端だけを歪め、そう零した。

 深刻な悩みというより、もっと小さな、けれど本人には確かに重い引っかかりだった。


 そこへ、湯呑みを二つ持った寿蒙が広間へ入ってきた。

 歩美の言葉を聞いていたらしく、寿蒙は穏やかな声で言った。

「支える側も、一緒に戦っているのですよ」

 歩美が顔を上げる。

 寿蒙は歩美の前に湯呑みを置きながら、野球を例に語り始めた。

「野球は、九人だけで行われているように見えます。ですが、その九人がグラウンドへ立つまでには、多くの人が関わっています」

 控え選手。

 監督。

 コーチ。

 マネージャー。

 送り出す家族。

 応援席で声を張り上げる人々。

 グラウンドを整える者たち。

「誰か一人だけで、試合は成り立ちません」

 寿蒙は淡々と、しかしどこか温かみを持ってそう告げた。

 説教めいた響きは、不思議とそこにはなかった。

 寿蒙自身、僧侶でありながら戦闘の前線にはほとんど立たず、慎悟たちへ知識と治療と助言だけを与え続けてきた存在だ。

 その寿蒙の言葉だからこそ、歩美の胸へ静かに染み込んでいく。


 寿蒙の言葉を聞いた慎悟は、無意識に自分の脇腹へ手を当てていた。

 悪路漢(あくろかん)に斬られた傷。

 斬牙戦での出来事。

 まともに前線へ立てなかった自分。

 刀を振るう代わりに、仲間たちへ指示を出し続けた戦い。

 あの時、慎悟は「戦えない自分に何ができる」と自問し続けていた。

 けれど、慎悟が戦況を見て的確に指示を出したことで、仲間たちはそれぞれの役割を果たすことができた。

 友紀と健太が前線を支え、翔一が上空から攪乱し、翼が退路を封じ、伊織(いおり)が正確に射抜いた。

 誰一人欠けても、あの戦いは成立しなかっただろう。

 慎悟は小さく呟いた。

「……俺も、この前そうだった」

 南海が振り向く。

「慎悟?」

 慎悟は視線を落としたまま続けた。

「刀を振れなくても、できることはあった」

 それは、慎悟がこれまで抱え続けてきた「前線で全部を背負うこと」という思い込みから、ほんの少しだけ離れ始めた瞬間だった。

 他人に任せることもまた、責任の形の一つなのだと。

 まだ完全には言葉にできない。それでも、そう理解し始めている自分に、慎悟は小さく息を止めていた。


 歩美はもう一度、あの準決勝の光景を思い出していた。

 あの試合で、歩美は回復札を一度も使っていない。

 霊護獣の力にも頼っていない。

 ただの十六歳の野球部マネージャーとして、あの場に立っていた。

 水を用意した。

 選手一人一人の表情を見た。

 体調を確認した。

 タオルを渡した。

 スコアをつけた。

 声をかけた。

 負けそうな時も、ベンチに立ち続けた。

 そして、清王学園は勝った。

 歩美は小さな声で言った。

「……私、何もしてないと思ってた」

 健太が腕を組んだまま応じる。

「何もしてない奴は、あんなに走り回らねえよ」

 翔一が続く。

「そうそう。俺なら途中で絶対座る」

 友紀が呆れたように口を挟んだ。

「翔一は比較対象としてどうなのよ」

 広間に笑いが起きる。

 歩美の肩から、少しだけ力が抜けた。

 そして、静かに、けれどはっきりと口にした。

「じゃあ明日も、ちゃんと戦ってくる」

 慎悟が短く応じる。

「おう」

 南海が微笑んだ。

「勝っても負けても、帰ってきたら話聞かせてね」

 歩美の指先は、まだかすかに冷たいままだった。

 けれど今、確かに「自分にも役割がある」という一点だけは、自分自身の言葉で認めることができた。


 その様子を少し離れた場所で見ていた翼は、膝の上に広げた『寿満寺縁起(じゅまんじえんぎ)』へ視線を落とした。

 これまで彼らが向き合ってきたのは、いつも「選ばれた者」の物語だった。

 霊護獣に選ばれた。

 珠を与えられた。

 四百年以上前から、書物にその名を記されていた。

 けれど翼は、ふと考える。

 世の中の大半の人間は、そんなものに選ばれることなどない。

 野球のレギュラーに選ばれない者もいる。

 大会のメンバーに選ばれない者もいる。

 志望校に選ばれない者もいる。

 就職先に選ばれない者もいる。

 前線に立てない者もいる。

 特別な才能を持たない者の方が、むしろ多いはずだ。

 翼は静かに、しかしはっきりと口にした。

「選ばれなかった後にも、選択肢はあるんだね」

 慎悟が翼へ視線を向ける。

 翼は続けた。

「選手に選ばれなかったから、野球をやめなければならないわけじゃない」

「前線に立てないから、戦いから降りる必要もない」

「一つの場所で必要とされなかったからって、その人間の役割がなくなるわけじゃない」

 蓮が湯呑みを置きながら言葉を継いだ。

「別の場所を選べばいい」

 伊織が静かに頷く。

「別の役割でも構いません」

 綾実(あやみ)が、いつもの落ち着いた声で言った。

「一度選ばれなかったことが、その人の未来全部を決めるわけではないわ」

 友紀が少し呆れたように、けれど強く言い切った。

「当たり前じゃん。そんなので人生全部決められたら、たまったもんじゃないよ」

 誰一人として、金津美里(かなづみり)の語る「第三の進路」という思想を知らない。

 それでも、この何気ない会話そのものが、まるでその思想への静かな反論であるかのように、広間の空気を満たしていく。

 慎悟はまだ、それを体系立てて理解しているわけではない。

 けれど、歩美の横顔を見ながら、こう思っていた。

 戦う者だけが、戦士ではない。

 マウンドに立たない者にも、戦う理由がある。

 選ばれなかったなら、別の場所を探せばいい。

 前線に立てないなら、後ろから支えればいい。

 失敗したなら、もう一度選び直せばいい。

 一つの道から外れただけで、人生の道が一つに固定されるわけではない。

 その考えは、まだ言葉にならない輪郭のまま、慎悟の中でゆっくりと形を持ち始めていた。


 重くなりかけた空気は、しかし長くは続かなかった。

 消灯の時間が近づいている。

 翔一が起き上がりながら言った。

「最後だし、猿のとこ行かね?」

 健太が即座に返す。

「寝かせてやれよ、猿も俺らも」

 南海が笑う。

 美奈子は目をこすりながら、あくびを噛み殺している。

 莉奈は寿蒙へ、翌朝の片付けについてもう一度確認を取っていた。

 伊織と綾実は縁側へ出て、静かに月を見上げている。

 翼はまだ古文書のページを繰ろうとしていた。

 蓮がそれを見咎める。

「今日はもうやめとけば?」

 友紀が伸びをしながら呟いた。

「帰ったら一気に現実だね」

 南海が首を傾げる。

「宿題とか?」

「それ言わないで」

 小さな笑い声が、広間から縁側へと広がっていく。

 寺。

 猿。

 友人。

 部活。

 恋愛。

 試合。

 宿題。

 明日の予定。

 こうした何でもないものの積み重ねこそが、「人間には無数の道がある」という事実の、何よりの証明になっている。

 誰もそれを説明しようとはしない。

 ただ、夜の情景として、静かにそこに在るだけだった。

 やがて、寿満寺の灯りが一つ、また一つと消えていく。

 障子の向こうで、慎悟の懐に収められた蒼珠が、月光を受けてほんのわずかに輝いていた。

 理の蒼珠。

 これから先、どんな未来を選ぶことになるのか。

 今はまだ、誰にもわからない。


 ◇

 占領された平永寺(へいえいじ)。

 夜。

 かつて僧侶たちが修行に励んでいたはずの巨大な法堂には、暗赤色の鬼気が澱のように満ちていた。

 物音一つない静寂。

 そこへ、十二人分の足音が響いてくる。

 巨大な扉が軋みながら開く。

 入ってくるのは、まだ鬼ではない。

 人間の少年少女だった。

 全員、県立福江西(ふくえにし)高校の生徒。

 制服はどれも着崩され、乱れている。

 染めた髪。

 ピアス。

 腕や首元に残る古い傷。

 鋭い眼光。

 無表情。

 舌打ちを繰り返す者。

 俯いたまま顔を上げない者。

 それぞれの空気は、決して一様ではなかった。

 十二人は、福江西高校で知られた不良グループ「丸岡派(まるおかは)」だった。

 中心にいるのは三年生、丸岡吉政(まるおかよしまさ)。

 長身。

 短く刈り込んだ黒髪。

 殊更に威張った様子を見せなくとも、周囲が自然と従う空気を纏っている。

 その隣に控えるのは副官格の小黒歳久(おぐろとしひさ)。

 さらに、荒町(あらまち)まり、長畝志穂(のうねしほ)、伏屋香枝(ふせやかえ)、宇田竜次(うだりゅうじ)、山久保翔助(やまくぼしょうすけ)、豊原(とよはら)きく、笹和田恵一(ささわだけいいち)、長崎(ながさき)あかり、篠岡鉄平(しのおかてっぺい)、福庄奈美(ふくしょうなみ)。

 十二人。

 彼らこそ、後に「十二角魔衆(じゅうにかくましゅう)」と呼ばれることになる者たちだった。

 だが、この夜にはまだ、誰一人としてその名を知らない。


 十二人の少し前を、一人の少年が悠然と歩いていた。

 黒髪。

 涼しげな目元。

 整った制服。

 不良たちの中で、彼だけが逆に品行方正な生徒のように見える。

 手には開封済みのペットボトル。

 歩きながら、ときおり水を口に含む。

 丸岡が、その背中へ問いかけた。

「ここが、お前の言ってた場所か」

 少年が振り返る。

 薄く笑みを浮かべた。

「ええ」

 河間純二郎(こうまじゅんじろう)。

 覇竜十傑(はりゅうじゅっけつ)の一人、滄爪(そうそう)。

 この夜まで、滄爪は十二人へ一度も「鬼になれ」と命じたことはなかった。

 ただ、一人一人の話を丁寧に聞いただけだ。

 学校への不満。

 教師への反発。

 家庭への怒り。

 進路への不安。

 社会への不信。

 将来への諦め。

 そして、何度も、静かに尋ねただけだった。

「では、あなたはどうしたいのです?」

 十二人は誰もが、「自分自身の意思でここへ来た」と信じている。

 しかし実際には、滄爪が問いを重ねるたびに、彼らの前にあった選択肢は少しずつ姿を消していた。

 学校へ戻る道。

 教師へ相談する道。

 家族と話し合う道。

 別の進路を探す道。

 誰かへ助けを求める道。

 時間をかけて考える道。

 それらは一つずつ、「無意味な選択肢」として十二人自身の口から否定されていった。

 そして最後に残った道だけが、「あなた自身が選んだ答え」として、彼らの目の前に差し出された。

 寿満寺では、今夜、選択肢が増えていった。

 平永寺では、今夜、選択肢が減り続けていた。

 けれど、この十二人のうち誰一人として、その違いにはまだ気づいていない。


 法堂の奥、闇の中に一つの人影があった。

 滄爪が十二人を振り返り、静かに告げる。

「紹介しましょう」

 十二人の視線が、一斉に奥へと向く。

 暗赤色の光がわずかに揺らぐ中、法堂の中央に、一人の少女が静かに座っていた。

 金津美里(かなづみり)。

 十六歳。

 まだ人間の姿のままだった。

 美里は十二人の顔を、一人ずつゆっくりと眺めていく。

 最後にその視線が止まったのは、丸岡吉政だった。

 丸岡もまた、その視線から目を逸らさなかった。

 滄爪が、二人の間に立つように微笑む。

「あなた方に、新しい進路を示してくださる方です」

 美里が、ゆっくりと立ち上がる気配がした。

 その手が、腰に佩いた国影(くにかげ)の脇差へと伸びかける。


 ◇

 寿満寺では、最後の灯りが消えていた。

 慎悟たちは眠りについている。

 明日、それぞれの日常へ戻る日だ。

 歩美には、甲子園を懸けた決勝の日が待っている。

 慎悟たちには、それぞれの家族と学校と部活動が待っている。

 だが同じこの夜、平永寺では――

 美里の指が、まだ脇差の柄にかかったままだった。

 選ばれなかった十二人に、これから示されるのは、進路なのか、それとも別の何かなのか。

 誰も、まだ答えを持っていない。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


第15話「最後の夜」、いかがでしたでしょうか。


今回は、戦闘も、新しい鬼の登場も、派手な展開もありません。

前半はほとんど、ただの雑談です。


それでも、この話を飛ばすことはできませんでした。


第七章は「選ばれし名、選びゆく道」という章です。


名前も、力も、珠も、四百年以上前の記録まで、すべてが「選ばれていた」ことを示しています。


では、選ばれていなかった人はどうなるのか。


その問いに、物語の側から答えを出す回が、この第15話でした。


◇


歩美は、霊護獣を持つ戦士です。

けれど野球部では、打席にも立たず、マウンドにも上がらない、一年生のマネージャーです。


「私が試合するわけじゃないのにね」


あの一言には、書いている私自身にも覚えのある重さがありました。


自分は主役ではない。

結果を決める人間ではない。

それなのに、誰よりも落ち着かない。


そういう人は、きっと皆さんの周りにもいると思います。

もしかしたら、読んでくださっている方自身かもしれません。


寿蒙の「支える側も、一緒に戦っているのですよ」という言葉は、説教にならないよう、できるだけ湯呑みの温度で書いたつもりです。


そして、その言葉を一番深く受け取ったのは、歩美ではなく慎悟でした。


刀を振れなくても、できることはあった。


斬牙戦で彼が掴みかけたものに、ようやく名前が付き始めています。


「前線で全部を背負うこと」だけが責任ではない。

任せることもまた、責任の形の一つ。


主人公にこの気づきを与えるまで、少し時間がかかってしまいました。


◇


翼の台詞も、今回の核の一つです。


「選ばれなかった後にも、選択肢はあるんだね」


このあと、蓮、伊織、綾実、友紀と、全員が少しずつ言葉を継いでいきます。

誰も「正解」を宣言しません。

ただ、それぞれの言葉で、同じ方向を向いているだけです。


ここで大事にしたのは、彼らが金津美里の思想を、まだ知らないという点です。


知らないまま、無意識に反論してしまっている。


意図しない反論のほうが、きっと強いと思いました。


十彩獣団の十人は、答えを一つにしない人たちです。

負けてもいい。

選手に選ばれなくてもいい。

前線に立てなくてもいい。

一度失敗しても、別の役割を選び直せる。


その「余白」こそが、彼らの強さなのだと、私は思っています。


◇


さて、後半です。


場面は同じ夜の平永寺へ移りました。


寿満寺では、選択肢が増えていく。

平永寺では、選択肢が減っていく。


この二つを並べて書くのが、今回の一番の狙いでした。


滄爪は、十二人に一度も「鬼になれ」と命じていません。

ただ、静かに問い続けただけです。


「では、あなたはどうしたいのです?」


学校へ戻る道。

誰かに相談する道。

家族と話し合う道。

別の進路を探す道。


それらを、一つずつ、十二人自身の口で消させていく。


そして最後に残った一本だけが、「あなた自身が選んだ答え」として差し出される。


怖いのは、彼らの誰一人として、自分が追い込まれたと思っていないことです。


本人は、自分の意思で来たつもりでいる。

そこが滄爪という鬼の、本当の恐ろしさだと思って書きました。


そして法堂の奥で待っていた美里が、国影の脇差へ手を伸ばしかけたところで、第15話は終わります。


◇


次回、第16話は、


「十二角魔衆」


です。


平永寺の法堂で、何が起きるのか。

十二人は、何者になるのか。


そして翌朝、寿満寺を発つ慎悟たちは、その夜に起きたことを、何も知らないまま福江県民球場へ向かいます。


第七章の終盤、そして次章へ続く大きな転換点になる回です。

できるだけ丁寧に仕上げて、お届けします。


◇


最後に、いつもお願いばかりで恐縮ですが。


もし少しでも楽しんでいただけましたら、

ブックマークや評価、感想をいただけると、本当に励みになります。


感想は、一言だけでも、とても嬉しいです。

「歩美かわいい」でも「翔一うるさい」でも、「猿の続報を求む」でも構いません。


猿は、きっとどこかで元気にしています。


それでは、また次回。


第16話「十二角魔衆」で、お会いしましょう。

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